大聖女と休息
会議が終わった直後の廊下は、冬の空気のように冷たく張りつめていた。
内務卿パパラエは難しい顔で書簡を抱え、軍務卿グラディウスは肩を怒らせて去っていく。
財務卿ベリオスはいやしい笑みを浮かべ、信仰卿サリエラは静かに祈りの言葉を口にしていた。
そして外務卿イリーナは――振り返りもせず、ただ小さな含み笑いを残して闇の廊下に消えた。
「……疲れたぁ……」
大聖女レシュリ・パルミアは会議室の扉が閉まった瞬間、糸が切れたように肩を落とした。
「パルミア様...!姿勢をお崩しになっては……」
きっちりと背筋を伸ばしたカリラ・タナハがパルミアの行動に慌てて、背筋が崩れる。
「いいじゃない、タナハ。あんな重い空気の中でずっと笑顔を保っていたのよ?顔が固まっちゃいそう……」
「では今すぐお茶を淹れましょう」
朗らかに口を挟むのはエラ・ユリシェ。
「たしか、先日届いた新しい茶葉がありましたよね。お菓子も一緒に……」
「やった! やっぱりユリシェはわかってる!」
「甘やかしすぎです!」
カリラの小言も、パルミアの心には届かない。
◇
私室へ戻った三人は、湯気の立ちのぼる茶を囲んだ。
窓の外では、街の子どもたちがで笑顔で花を片手に持ち走り回っている。
すると、シスターの一人が、抱えきれないほどの花籠を持ってきて、こう言った。
「大聖女さま、子どもたちからの贈り物だそうです。」
パルミアは少し照れながら受け取る。
「……私は、何もしてないのにね」
「何もしていないことはありません。あなたがいるから、人々は安心できるのです」
エラの柔らかな言葉に、パルミアは視線を伏せて微笑んだ。
◇
夜。
広い聖堂の中、蝋燭の灯りに照らされてパルミアはひとり立ち尽くしていた。
「……私は本当に、この国を守れているのだろうか」
ぽつりと呟いたその声は、石造りの壁に吸い込まれて消えていく。
会議で見せた威厳も、民の前で浮かべる笑顔も、ここにはなかった。
あるのはただ、一人の女性の揺らぎ。
――その時。
「報告です!」
走り込んできた神官が、床に膝をついて声を上げた。
「国境に、隣国の使者が姿を現しました!」
パルミアの胸に、冷たいものが走る。
平穏な日常に、再び波紋が広がろうとしてい