大聖女様と会議
教会の最奥部――薄暗い石壁に囲まれ、巨大な燭台の揺らめく光だけが場を照らす。
そこはルシル教の中枢を担う者だけが入れる会議の間であった。
「……みなさん、揃いましたか? では、会議を始めましょうか」
大聖女レシュリ・パルミアの一言で、会議という名の冷戦が幕を開ける。
その声音は柔らかさを保ちながらも、場の誰もが軽々しく口を開けぬ威を秘めていた。
最初に立ち上がったのは内務卿パパラエ・ディオス。
白髪を撫でつけた老臣は、眼鏡越しの鋭い視線から強い忠義が感じられた。
「南部一帯の収穫量は昨年より減少。加えて、水路を巡る村同士の争いが激化しております。放置すれば献納が滞り、国庫にも影響が出ましょう」
「……ふん、些末なことだ」
重々しい声を響かせたのは軍務卿グラディウス・マルカ。
洗練された体で唸るように発言する
「民の諍いなど兵を出せばすぐに収まる。内務卿殿は心配性が過ぎるのではないか?」
「剣を向ければ、信徒の心は離れますよ」
反論したのは信仰卿サリエラ・ノート。華奢な体の神官は祈祷書を掲げ、声を強める。
「我らがすべきは導きであって威嚇ではありません。武力に頼れば、教会の威光は損なわれましょう」
「理想論は結構だが、現実は理想だけでは救えないとお分かりか?」
グラディウスが鼻を鳴らす。
場に重苦しい沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、俗にまみれた見た目の財務卿ベリオス・クレイだった。
「……忘れてはならぬのは金ですな。争いが長引けば献納は減り、財は痩せる。財が痩せれば、この国の骨までも痩せ細る」
いやらしい笑みを浮かべながら話す。
「つまり金で解決せよと?」
パパラエが眉をひそめるが、ベリオスは曖昧に肩をすくめるだけだった。
そんなやり取りを横目に、外務卿イリーナ・ヴァレリアは黙したまま、戦況を見つめている。
やがて、全員の視線が彼女に集まる。
「……いずれにせよ、国内の不和は国外に波及します。隣国は我らの弱みを虎視眈々と狙っておりますから」
その声音は淡々としていたが、含みを持つ一言が場に冷たい余韻を落とした。
「……」
パルミアはゆるやかに眼を閉じ、そしてやわらかに微笑む。
だがその微笑みの奥には、抗うことを許さぬ威圧が潜んでいた。
「水も穀物も、民の命。そして命は神の恵みです。
それを奪い合うことは、信仰を蝕む毒に他なりません。
我ら教会は、その毒を許さない――」
凛とした声が、会議の間を支配する。
卿たちは互いの思惑を隠しつつも、その言葉に従うしかなかった。
こうして、会議という名の冷戦は、大聖女のひと声によって収束したのであった。