表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

大聖女様と会議

教会の最奥部――薄暗い石壁に囲まれ、巨大な燭台の揺らめく光だけが場を照らす。

そこはルシル教の中枢を担う者だけが入れる会議の間であった。


「……みなさん、揃いましたか? では、会議を始めましょうか」


大聖女レシュリ・パルミアの一言で、会議という名の冷戦が幕を開ける。

その声音は柔らかさを保ちながらも、場の誰もが軽々しく口を開けぬ威を秘めていた。


最初に立ち上がったのは内務卿パパラエ・ディオス。

白髪を撫でつけた老臣は、眼鏡越しの鋭い視線から強い忠義が感じられた。


「南部一帯の収穫量は昨年より減少。加えて、水路を巡る村同士の争いが激化しております。放置すれば献納が滞り、国庫にも影響が出ましょう」


「……ふん、些末なことだ」


重々しい声を響かせたのは軍務卿グラディウス・マルカ。

洗練された体で唸るように発言する


「民の諍いなど兵を出せばすぐに収まる。内務卿殿は心配性が過ぎるのではないか?」


「剣を向ければ、信徒の心は離れますよ」


反論したのは信仰卿サリエラ・ノート。華奢な体の神官は祈祷書を掲げ、声を強める。


「我らがすべきは導きであって威嚇ではありません。武力に頼れば、教会の威光は損なわれましょう」


「理想論は結構だが、現実は理想だけでは救えないとお分かりか?」


グラディウスが鼻を鳴らす。

場に重苦しい沈黙が落ちる。

その沈黙を破ったのは、俗にまみれた見た目の財務卿ベリオス・クレイだった。


「……忘れてはならぬのは金ですな。争いが長引けば献納は減り、財は痩せる。財が痩せれば、この国の骨までも痩せ細る」

いやらしい笑みを浮かべながら話す。


「つまり金で解決せよと?」


パパラエが眉をひそめるが、ベリオスは曖昧に肩をすくめるだけだった。

そんなやり取りを横目に、外務卿イリーナ・ヴァレリアは黙したまま、戦況を見つめている。

やがて、全員の視線が彼女に集まる。


「……いずれにせよ、国内の不和は国外に波及します。隣国は我らの弱みを虎視眈々と狙っておりますから」


その声音は淡々としていたが、含みを持つ一言が場に冷たい余韻を落とした。


「……」


パルミアはゆるやかに眼を閉じ、そしてやわらかに微笑む。

だがその微笑みの奥には、抗うことを許さぬ威圧が潜んでいた。


「水も穀物も、民の命。そして命は神の恵みです。

それを奪い合うことは、信仰を蝕む毒に他なりません。

我ら教会は、その毒を許さない――」


凛とした声が、会議の間を支配する。

卿たちは互いの思惑を隠しつつも、その言葉に従うしかなかった。

こうして、会議という名の冷戦は、大聖女のひと声によって収束したのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ