大聖女レシュリ・パルミア
信仰国家スルメア――王のいないその国では、街の中心に聳え立つ教会が実質的な権力を握っている。教会長にしてルシル教のトップ、大聖女レシュリ・パルミアが政治の実権を持つのだ。
「つ〜か〜れ〜た〜よ〜!」
パルミアの気の抜けた声が部屋に響く。
「パルミア様、誰が聞いているかわかりません。私たちしかいないとはいえ、あまり気を緩めすぎないでください」
右腕のカリラ・タナハが淡々と言う。
「だって!だって!みんないつも私のこと『聖女だ』とか持ち上げて……!」
「パルミア様はいつも頑張っておられますから。たまにはこうして大声で愚痴を言いたくなるのでしょう」
左腕のエラ・ユリシェが口を挟む。
「そうそう!私だってたまには休みたいの!」
「ユリシェ貴様…またそうやってパルミア様を甘やかすから、こうなるのだろう!」
「甘やかしてなどいません。休息がなければ過労で倒れてしまいます」
そのとき、執務室の前に小箱が届けられた。
「そういえば、商会から茶葉が届いています。聖女さまに味見をしてお墨付きをもらいたいそうです」
「本当!?今すぐお茶にしましょ!これも仕事のうちよ!カリラもいいわよね?」
「仕方ありませんね…今回だけですよ」
こうして、スルメアの日常は今日も少しだけ賑やかに、そして少しだけ平穏に始まるのだった。