(92)優等生魔法少女、闇の暴走
「どうして......どうして私だけ......。武流先生は......私のことなんて......。ステラなんて......新入生の相手だけしてればいいのに......」
アイリーンの切実な声が、暴走する魔法書の轟音の中に響いた。黒い光弾が次々と放たれ、中庭の石畳に大きなクレーターを作っていく。
しかし、俺は彼女の様子に違和感を覚えていた。先ほどのステラとの戦いで、二人は互いの想いを理解し合い、握手を交わしたばかりだった。あの時、アイリーンの嫉妬心は解消されたはずなのに、なぜまた暴走しているのか。
これは明らかに、彼女の内面に僅かに残っていた不安や嫉妬心が、何らかの外的要因によって異常に増幅されている。先ほどの戦いで消えたはずの感情が、まるで毒のように膨らんでいるのだ。
その時、魔法書の性質が激変した。
「第十三章:束縛術『シャドウ・バインド』発動......」
機械的な音声が響くと、魔法書から無数の黒いロープが蛇のように伸びてきた。それらは生きているかのようにくねりながら、空中を舞う。
「何これ......やめて......!」
アイリーンが恐怖の声を上げるが、黒いロープたちは彼女自身を標的として一斉に襲いかかった。
最初の一本が彼女の右手首に巻きつく。次に左手首。そして足首へと続いていく。
「きゃあ! 離して! お願い!」
アイリーンが必死にもがくが、魔法のロープは彼女の動きを封じていく。さらに数本のロープが彼女の細い腰に巻きつき、胸の下を通って肩を拘束していく。
制服のブラウスが締め付けられ、ボタンが一つ、また一つと弾けて飛んでいく。白いブラウスの隙間から、アイリーンの肌が露わになった。
「あっ......だめ......見ないで......」
彼女の頬が羞恥で真っ赤に染まるが、ロープは容赦なく体に食い込んでいく。スカートの上からも数本のロープが巻きつき、制服の生地が破れる音が響いた。
アイリーンの美しい体のラインが、黒いロープによって際立たされている。拘束される度に、彼女の制服がさらに破れていく。
「武流先生......助けて......」
涙を流しながら懇願するアイリーンの姿に、俺の心は激しく動揺した。だが同時に、この拘束の魔法が彼女自身の力ではないことも明確になった。
アイリーンを救わなければ……。俺はブレイサーを掲げた。
「蒼光チェンジ!」
青白い光が俺の体を包み込み、アポロナイトの白銀の鎧が現れる。腰に蒼光剣が装着され、変身完了だ。
「エレノア! リリア! ミュウ!」
俺は三人に向かって指示を出した。
「生徒たちを安全な場所に避難させろ! 学園の建物も守れ! 俺がアイリーンを助ける!」
「分かったわ!」
エレノアが即座に反応し、氷の魔法少女に変身する。
「ボクも手伝う!」
「わたくしもです!」
リリアとミュウも行動を開始した。ミュウは風の魔法少女に変身し、リリアは変身できないものの、生徒たちの避難誘導に向かう。
「みんな、校舎の中に避難して!」
「急いで! 急いで!」
エレノアが即座に状況を判断し、戦術を組み立てた。
「アイス・ウォール・マルティプル!」
複数の氷の壁を中庭の周囲に展開し、アイリーンから放たれる黒い光弾を遮る。しかし、闇の魔力は氷を溶かす力を持っており、壁は次々と破壊されていく。
「くっ......予想以上に強力ね!」
エレノアが氷の壁を作り直しながら、生徒たちの避難時間を稼ぐ。
「アークティック・リアーム!」
氷の階段を作り、上級生たちを高い位置に移動させて被害を最小限に抑えようとする。
一方、ミュウは風の魔法で飛び回る黒い光弾を空中で相殺していた。
「ウィンド・カウンター!」
風の壁で光弾の軌道を変え、建物に当たらないよう誘導する。
「わたくし、みんなを守るのです!」
ミュウの必死の努力で、校舎への直撃は避けられているが、魔力の消耗は激しい。
リリアは変身こそできないものの、的確な指示で避難を統制していた。
「新入生は地下の避難所へ! 中級生は上級生をサポートして!」
「ステラちゃん、右側の生徒たちをお願い!」
ステラも魔法少女に変身し、風の力で生徒たちを素早く移動させている。
「はい! 自分も避難誘導します!」
ステラの風の魔法と、三人の連携により、生徒たちの避難は順調に進んでいた。
俺は暴走するアイリーンに向き直った。彼女は黒いロープに拘束され、宙に浮いた状態になっている。制服はさらに破れが広がり、肩の片方が露わになっていた。
ロープが彼女の体に食い込む度に、アイリーンは苦痛の声を上げる。
「うっ......あぁ......痛い......」
彼女の魔法書から放たれる闇の魔力は、普段の理論的で精密な魔法とはまるで正反対の代物だった。破壊的で無差別、そして何より邪悪な気配に満ちている。
「アイリーン! 聞こえるか!」
俺がアイリーンに呼びかけるが、彼女の意識は混濁している。魔法書が勝手にページをめくり続け、次々と攻撃魔法を発動している。
「やめて......止まって......お願い......」
アイリーンが涙を流しながら魔法書を押さえつけようとするが、ロープに拘束されて手が届かない。
さらに、新たなロープが彼女の太ももに巻きつき、スカートの裾を破いていく。アイリーンの美しい脚線美が露わになり、彼女は羞恥で身を震わせた。
「見ないで......お願い......こんな姿......」
だが、拘束のロープは容赦なく彼女を縛り続ける。胸元を通るロープが制服を引き裂き、白いブラウスの下から淡いピンクの肌着が覗いて見えた。
「第十章:破壊術『ダーク・デストラクション』発動......」
魔法書から機械的な音声が流れ、俺は絶句した。今度はより大規模な攻撃が準備され始める。黒い光が魔法書の周りに渦を巻き、その威力は先ほどまでとは比べ物にならない。
「まずい! このままじゃ学園全体が......」
エレノアも限界に近づいていた。
「アイス・ドーム・マキシマム!」
最大級の氷のドームで校舎を覆い、生徒たちを守ろうとするが、闇の魔力がドームを侵食し始める。
「武流! 急いで! 私の魔法がもたない!」
ミュウも魔力を使い果たしそうになっていた。
「ウィンド・シールド・フォートレス!」
風の要塞を作って中庭を包囲するが、黒い光弾の連続攻撃で壁が次々と破られていく。
「武流様......わたくし、もう......」
俺は蒼光剣を抜き、アイリーンとの距離を詰めようとした。しかし、黒い光弾が絶え間なく俺を狙ってくる。
「蒼光盾!」
剣から青白い光の障壁を展開し、攻撃を防ぐ。しかし、闇の魔力は俺のエネルギーを相殺する性質があるようで、光の盾に黒いひび割れが入り始めた。
「くそ......普通の攻撃じゃ近づけない!」
その時、背後からエレノアの声が聞こえた。
「武流! 正面から行っても無理よ! 私が囮になる!」
「危険だ! 下がっていろ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう! アイリーンを助けるためよ!」
エレノアが氷の魔法でアイリーンの注意を引こうとする。
「アイス・ランス!」
氷の槍が魔法書に向かって飛んでいくが、闇の魔力によって途中で溶解してしまう。しかし、攻撃の方向が一瞬エレノアに向いた隙に、俺は距離を詰めることができた。
「今だ!」
俺はアイリーンに向かって駆け出した。しかし、魔法書が俺の接近を察知し、より激しい攻撃を仕掛けてくる。
「第十一章:連続攻撃術『ダーク・バラージ』発動......」
無数の黒い光弾が俺を包囲した。その数は数百を超え、回避は不可能に見えた。
「蒼光剣、出力増幅!」
俺は剣に最大出力のエネルギーを込め、光弾の雨の中を突進した。蒼光剣の青白い光が闇の魔力と激しくぶつかり合い、空中で無数の火花が散る。
剣を振るう度に光弾を切り払い、一歩ずつアイリーンに近づいていく。しかし、闇の魔力は俺のエネルギーを徐々に侵食し始めていた。
「ぐっ......」
俺の体に黒い筋が走り、動きが鈍くなる。闇の魔力は単純な攻撃だけでなく、触れた相手を蝕む性質も持っているようだった。
「武流先生!」
避難誘導を終えたステラが心配そうに叫ぶ。
「大丈夫だ! 諦めない!」
俺は叫ぶと、痛みに耐えながら前進を続けた。アイリーンとの距離があと数メートルまで縮まっている。
アイリーンは空中でロープに拘束されたまま、涙を流している。制服はもはや原形を留めておらず、彼女の美しい肌が月明かりの下で輝いていた。ロープが体に食い込むたび、彼女は小さく身を震わせている。
「あぁ......だめ......恥ずかしい......」
彼女の頬は羞恥で真っ赤に染まり、視線を逸らそうとするが、ロープに首も拘束されてしまっている。
その時、アイリーンが俺を見つめて涙ながらに叫んだ。
「武流先生! 来ちゃダメです! 私、制御できないんです! 先生まで巻き込んじゃう!」
「諦めるな! お前は悪くない!」
俺の言葉に、アイリーンの瞳に一瞬光が戻った。
「この暴走はお前のせいじゃないだろう! 誰かに操られているんだ!」
「武流先生......」
しかし、その瞬間、魔法書がさらに激しく光り、最大級の攻撃魔法が発動された。
「第十二章:最終破壊術『アビサル・ジャッジメント』発動......」
機械的な音声と共に、巨大な黒い光の柱が立ち上がり、中庭全体を飲み込もうとする。その威力は中庭どころか学園全体を消し飛ばしかねない規模だった。
アイリーンを拘束していたロープたちも、この最終攻撃の準備として、彼女をさらに強く締め付け始める。
「あっ......ああっ......痛い......苦しい......」
彼女の美しい体に赤い跡が残り、制服の残骸がさらに破れていく。胸元を通るロープが特に強く締め付けられ、アイリーンは息も絶え絶えになった。
「そんな......!」
エレノアが青ざめる。
「このままじゃ......」
俺も一瞬絶望的な気持ちになった。このまま正面から挑んでも、アイリーンごと吹き飛ばしてしまう可能性が高い。魔法書を破壊すれば暴走は止まるが、それはアイリーンの大切な相棒を失うことを意味する。
「何か......何か別の方法は......」
その時、俺の脳裏に先ほどのアイリーンとステラの戦いが蘇った。二人が最後に放った技――あの技には、お互いへの想いが込められていた。アイリーンの技には、ステラを認める気持ちが。ステラの技には、アイリーンへの敬意が。だからこそ、どちらも相手を傷つけることなく拮抗し合ったのだ。
強さだけが勝敗の決め手じゃない。相手を思いやる気持ちこそが、真の力になる。
「そうだ......」
俺はひらめいた。蒼光剣のエネルギーを攻撃に使うのではなく、まったく別の方向に応用できないだろうか。闇の魔力を打ち消すのではなく、浄化する。破壊するのではなく、癒やす。
――これだ!