(91)恋の激突と闇の介入
アイリーンの嫉妬心が爆発し、攻撃がさらに激しくなった。光弾の数が倍増し、その威力も明らかに上がっている。
「第六章:感情増幅術『エモーション・ブースト』発動!」
アイリーンの魔法書が激しく光り、彼女の感情が魔力として増幅される。
「私は......私は生徒会長として......武流先生をサポートするのが当然の義務なのに......」
光弾がステラを包囲し、彼女の回避スペースを狭めていく。ステラは必死に風の壁で防御するが、アイリーンの攻撃の手は止まらない。
「あなたが全部やっちゃうから......私の出る幕がないじゃない!」
アイリーンの本音が次々と漏れ出る。
「武流先生に......武流先生に認めてもらいたいのに......あなたがいるせいで......! 第七章:集中攻撃術『フォーカス・バラージ』発動!」
無数の光弾がステラ一点に集中して襲いかかる。ステラは風の力で空中に跳躍するが、光弾は彼女を追尾してくる。
「うわあああっ!」
ステラが空中でバランスを崩し、地面に落下しそうになる。しかし、そこで新入生たちの声援が響いた。
「ステラ先輩、負けないでください!」
「私たちがついています!」
「ステラ先輩がこの学園で一番です!」
新入生たちの純粋な応援が、ステラの心に火をつけた。
「みんな......」
ステラが感動の表情を浮かべながら、再び立ち上がる。
「負けるわけにはいきません! 自分にも、武流先生への想いがあるんです!」
今度はステラの方が本音を吐露し始めた。
「自分、武流先生に初めて会った時から......こんなに素敵な先生がいるんだって......」
ステラが風の力を全身に纏いながら反撃に転じる。
「ハリケーン・パッション!」
情熱を込めた風の攻撃が、アイリーンの光弾を吹き飛ばしていく。その威力は午前中の模擬バトルを遥かに上回っていた。
「自分も生徒会長に負けません! 武流先生のお役に立ちたいんです!」
「そんな......!」
アイリーンが動揺する。ステラの魔力が急激に上昇しているのが分かる。
「自分、体力には自信があります! 武流先生の疲れを癒やしてあげたいんです!」
ステラが空中で連続回転しながら、風の竜巻を発生させる。
「トルネード・デヴォーション!」
愛情を込めた竜巻がアイリーンを包み込もうとする。
「くっ......第八章:最大防御術『アブソリュート・バリア』発動!」
アイリーンが魔法書を胸に抱きしめ、全身を光の障壁で覆う。ステラの竜巻が障壁に激突し、激しい衝撃音が響いた。
「でも......でも、自分だって!」
ステラの声が竜巻の轟音の中に響く。
「武流先生が危険な目に遭った時、身を挺してお守りしたいんです! それが自分の愛の形なんです!」
観客席の生徒たちは、二人の激しい恋の攻防に圧倒されていた。
「すごい......二人とも本気ね」
「武流先生、モテモテじゃない」
「私たちも負けてられないわ」
その時、リリアとミュウが顔を見合わせた。
「ミュウちゃん、あの二人、本気で師匠を奪い合ってるよ」
「そうなのです......わたくしたちも負けていられないのです」
リリアが立ち上がって宣言した。
「ボクも師匠の将来の結婚相手候補なんだから、こんなところで遠慮してちゃダメだよね!」
「わたくしもです! 武流様への想い、誰にも負けないのです!」
ミュウも猫耳をピンと立てて気合いを入れる。
二人の宣言を聞いて、エレノアが慌てて立ち上がる。
「ちょっと、あなたたち! 何を言ってるのよ! リリア、まだ結婚なんて早いわ!」
「でも、将来のことを考えておかないと」リリアが反論する。
「ミュウも! あなたは武流の弟子なんだから!」
「わたくし、武流様のためなら弟子でもお嫁さんでも何でもいいのです!」
ミュウの猫耳が恍惚とした様子で揺れている。
「もう、みんな何なのよ!」
エレノアが頭を抱えた。
一方、戦いの方は互角の状況が続いていた。
アイリーンの理論的で精密な攻撃と、ステラの情熱的で力強い攻撃が真っ向からぶつかり合っている。
「第九章:究極攻撃術『グリモワール・メガ・ブラスト』発動!」
アイリーンが最大級の攻撃魔法を放つ。魔法書から巨大な光の柱が立ち上がり、中庭全体を照らし出した。
「負けません! ウィンド・アルティメット・インパクト!」
ステラも全魔力を込めた最大技で応戦する。巨大な風の砲弾が光の柱に向かって突進した。
光と風がぶつかり合い、中庭に激しい爆発が起こる。爆風で観客の生徒たちが後ずさりし、砂埃が舞い上がった。
「どちらが勝ったの?」
「見えない!」
砂埃が晴れると、アイリーンとステラが互いに杖を向け合ったまま立ちすくんでいた。どちらも魔力を使い果たし、変身が解けかかっている。
「はぁ......はぁ......」
「はぁ......はぁ......」
二人とも激しく息を荒げていた。
「引き分け!」
俺が宣言すると、観客席から拍手が起こった。
「どちらも立派な戦いだった」
アイリーンとステラは、しばらく見つめ合った後、同時に変身を解除した。制服姿に戻った二人は、疲れ切った表情ながらも、どこか晴れやかな顔をしていた。
「ステラさん......」
アイリーンが先に口を開いた。
「私、勘違いしていました。あなたも私と同じくらい......武流先生を想っていたんですね」
「アイリーン先輩こそ......」
ステラも素直に認めた。
「自分、先輩の武流先生への想いの深さ、よく分かりました!」
二人は互いに歩み寄り、手を差し出した。
「これからは......ライバルとして、正々堂々と」
「はい! 正々堂々と!」
アイリーンとステラが握手を交わすと、観客席から盛大な拍手が起こった。
「素晴らしい戦いでした!」
「二人とも最高!」
「友情も芽生えたし、いい話ね」
平和的な解決に、俺もほっと胸を撫で下ろした。
「よし、これで一件落着だな」
しかし――
突然、中庭に不気味な黒い影が差した。太陽が雲に隠れたのかと思ったが、空を見上げても雲はない。影は地面から立ち上がっているようだった。
「な、何? この影......」
アイリーンが困惑している。
その時、どこからともなく闇の魔力が襲いかかった。紫色の邪悪なエネルギーが渦を巻きながら、アイリーンの魔法書に向かって流れ込んでいく。
「きゃああああ!」
アイリーンが悲鳴を上げた。魔法書が勝手に開き、ページが激しくめくれ始める。
「何なの!? やめて! 止まって!」
アイリーンが必死に魔法書を閉じようとするが、闇の魔力に侵されて制御が効かない。みんな呆気に取られて見つめている。
「危険だ! みんな下がれ!」
俺が叫んだ瞬間、アイリーンの魔法書から黒い光弾が無差別に発射され始めた。
「うわああああ!」
「逃げて!」
観客の生徒たちが慌てて散開する。
「アイリーン先輩!」
ステラが心配そうにアイリーンに駆け寄ろうとするが、黒い光弾が彼女の前を通り過ぎて危険だった。
「近づくな!」
俺はステラを制止し、アイリーンの様子を観察した。
アイリーンの魔法書は完全に暴走状態に陥っていた。普段の理論的で精密な魔法とは正反対の、破壊的で無差別な攻撃が次々と放たれている。
「助けて......誰か助けて......!」
アイリーンが涙目で助けを求めている。魔法書が彼女の制御を完全に離れ、勝手に攻撃魔法を発動し続けているのだ。
「魔法書が暴走してる......」
エレノアが青ざめている。
「こんなこと、あり得ないはずよ。魔法書系の魔法は最も安定しているのに......」
黒い光弾が校舎の壁に激突し、石材を砕いていく。このままでは学園全体が破壊される可能性がある。
「武流先生! 何とかしてください!」
「アイリーン会長を助けて!」
生徒たちの悲痛な叫びが響く中、俺はブレイサーに手をかけた。
しかし、問題はアイリーンを傷つけずに魔法書の暴走を止める方法だった。下手に攻撃すれば、アイリーン自身が危険にさらされる。
「くっ......どうすれば......」
その時、暴走する魔法書の向こうで、アイリーンの表情に恐怖だけでなく、絶望の色が浮かんでいるのが見えた。
彼女は自分の力が制御できないことに、心底怯えていた。
「武流先生......助けて......」
アイリーンの弱々しい声が、闇の魔力の轟音の中に響いた。