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(86)初授業は大パニック

 学園の校庭は、広々とした芝生の運動場だった。中央に戦闘訓練用のフィールドがあり、その周りには簡素な木製のベンチが並んでいる。闘技場のような豪華さはないが、のびのびと体を動かせる開放的な空間だった。


 俺の初授業には、予想以上に多くの生徒が集まっていた。アイリーンやステラをはじめ、様々な年齢の魔法少女たちが期待に満ちた表情で俺を見つめている。


「それでは、実際の戦闘技術を見せてみよう」


 俺はブレイサーを掲げた。


「蒼光チェンジ!」


 青白い光が俺の体を包み込み、アポロナイトの白銀の鎧が現れる。腰に蒼光剣が装着され、変身完了だ。


「きゃー!」


「かっこいい!」


「本物の変身だ!」


「アポロナイト様ー!♡」


 少女たちから黄色い歓声が上がった。昨日の戦いを間近で見た生徒もいるが、改めて目の前で変身を見ると、その迫力に圧倒されるようだ。


 ベンチに座って見学しているエレノアの表情は、明らかに不機嫌だった。彼女は腕を組み、俺が少女たちに囲まれている様子を冷ややかに見つめている。


「お姉様、また嫉妬してる」


 リリアがエレノアの隣でからかうように言った。


「嫉妬なんかしてないわよ!」


 エレノアが顔を赤くして反論する。


「それでは、基本的な剣技を披露しよう」


 俺は蒼光剣を抜き、空中に向かって数回振った。青白い光の軌跡が美しく宙に描かれる。


「うわあ......」


「美しい......」


 生徒たちが息を呑んで見とれている。


「ところで」俺は剣を構えたまま説明を始めた。「変身ヒーローの基本ポーズには、実は深い意味があるんだ」


 俺が決めポーズを取ると、生徒たちが身を乗り出した。


「このポーズは、敵に対して威圧感を与えると同時に、自分の心を落ち着かせる効果がある。特撮の現場では、アクション前の精神統一として必ず行うんだ」


「へぇー!」


「そうなんですか!」


「勉強になります!」


 生徒たちが感心したように声を上げる。


「さらに」俺は剣を振りながら続けた。「戦闘時の動きには『間』が重要だ。特撮では、敵との距離感や攻撃のタイミングを計算して動く。これを『アクション・リズム』と呼ぶ」


 実際に敵がいるかのように剣を振り、攻撃と防御を組み合わせた演技を披露する。


「すごい!」


「まるで本当に戦ってるみたい!」


「武流先生!」


 一人の生徒が手を上げた。


「昨日の戦いで使っていた技を教えてください!」


「私も知りたいです!」


「あの瞬間移動みたいな技、どうやるんですか?」


 生徒たちが口々に質問を投げかけてくる。その熱心さに、俺も悪い気はしない。


「ちょっと待て、みんな。一つずつ答えるから」


 俺が苦笑いを浮かべていると、ステラが前に出てきた。


「みなさん、落ち着いてください!」


 ステラがハキハキとした口調で説明を始める。


「まず、皆さんに理解していただきたいことがあります。この学園に男性がいるのは、武流先生が初めてです」


 生徒たちが頷いている。


「そして、これまで男性は忌み嫌われる存在でした。でも、武流先生は違います。信頼できる、本当に強い男性だということが証明されたんです」


 ステラの言葉に、生徒たちが同意の声を上げる。


「さらに」ステラが続けた。「スターフェリアの伝統では、魔法少女は自分より強い男性と出会ったら、その男性と結婚しなければならないとされています」


 俺は内心で苦笑した。またその話か。


「つまり」ステラが生徒たちを見回した。「ここにいる皆さんにとって、武流先生は将来の伴侶の候補ということになります」


「えー!」


「そうなの!?」


「じゃあ、私たちみんなライバルってこと?」


 生徒たちがざわめき始めた。


「ちょっと、あなたたち!」


 エレノアが突然立ち上がって叫んだ。


「何を言ってるのよ! ここは純潔を守る魔法少女たちの学園でしょう!?」


 エレノアの怒りが頂点に達していた。


「あなたたち、一体何しに来てるのよ! 勉強をしに来たんじゃないの!?」


 しかし、生徒たちの一部が皮肉っぽく反応した。


「エレノア先生にそんなこと言われたくないですー」


「昨日、魔法杖を暴走させてカッコ悪いところ見せてたじゃないですか」


「杖に振り回されてましたよね」


「最後は壁にめり込んでましたし」


「スカートの中まで丸見えでしたよ」


 生徒たちのからかうような声に、エレノアの顔が真っ赤になった。


「あなたたち! それは......それは......」


「あんなに恥ずかしい負け方した人に、口を挟まれたくないです」


「そうそう」


 エレノアの怒りがさらに爆発した。


「な、何ですって!?」


 観客席のリリアも不安そうな表情になった。


「ここにいるみんながライバルかあ......」


「熾烈な争いなのです......」


 ミュウも猫耳を立てて気合いを入れ直している。


 その時、アイリーンが立ち上がった。


「皆さん、待ってください!」


 アイリーンが眼鏡をクイッと押し上げて、生徒会長らしい威厳を見せる。


「生徒会長として申し上げます! 私たち魔法少女の使命は、純潔を守ることです!」


「でも、アイリーン先輩......」


「伝統では強い男性と結婚することになってるし......」


「それはそうですが!」アイリーンが力説した。「まずは学業に専念すべきです! 恋愛なんて、卒業してからでも遅くありません! あまり浮かれているとクラリーチェ理事長に報告しますよ!」


 しかし、生徒たちは聞く耳を持たない。


「でも、武流先生はとても素敵ですし......」


 一人の生徒が恐る恐る言った。


「素敵って!」エレノアがさらに激昂した。「あなたたちはまだ学生なのよ! そんなことを考える前に、魔法の勉強をしなさい!」


 エレノアの怒りと共に、彼女の魔力が暴走し始めた。


 冷気が校庭に広がり、芝生の表面が瞬く間に凍りついていく。


「きゃー! 寒い!」


「地面が凍ってる!」


 生徒たちが慌て始めたが、氷の上で足を滑らせて次々と転倒していく。


「うわあああ!」


「転んじゃう!」


 氷の上でバランスを崩した生徒たちが、コミカルに転倒していく。


 特にアイリーンは盛大に滑って、仰向けに倒れ込んだ。その拍子にスカートが捲れ上がり、彼女は慌てて手で押さえる。


「きゃー! 見ちゃダメ!」


 さらに、転倒の衝撃で眼鏡が飛んでしまった。


「あっ、メガネ、メガネ! どこにあるの!?」


 アイリーンが四つん這いになって氷の上を這い回る。しかし、氷で滑るため、思うように動けない。


「メガネメガネ......どこ? どこにあるの?」


 彼女のお決まりのギャグに、生徒たちは転倒しながらも笑い声を上げている。


「まったく......」


 俺は苦笑いを浮かべながら、この光景を眺めていた。

累計PVが昨日、10,000を突破しました。

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