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(84)体育会系魔法少女、自分がお世話します!

 朝の陽光が窓から差し込み、俺は目を覚ました。


 スターマジカルアカデミアの教師用特別室は、確かに豪華だった。広々としたベッドルーム、専用のバスルーム、書斎まで完備されている。村での生活とは雲泥の差だ。


 しかし――


「おはようございます、武流先生!」


 元気の良い声で目が覚めた俺は、ベッドから身を起こして辺りを見回した。


 部屋の中には、見知らぬ魔法少女の姿があった。


 青と白を基調とした衣装に身を包み、短い金髪をポニーテールにまとめた少女。年齢は15歳くらいだろうか。程よく日焼けした肌が健康的で、その動きは風のように軽やかだった。俺の洗面用具を手際よく準備している。


「え......君は?」


「自分はステラ・ウィンドロアです! 風属性の魔法少女!」


 ステラと名乗った少女が、ハキハキとした口調で自己紹介した。その声には体育会系特有の爽やかさがあった。


「武流先生の朝の準備、完璧に整えました! 洗面用具の準備、着替えの用意、朝食のメニュー確認、今日の授業スケジュールのチェック、全て完了です!」


 彼女は風の魔法を使って、俺の部屋を効率的に整理整頓している。本や書類が宙に浮き、あるべき場所に収まっていく。その手際の良さは見事なものだった。


「ちょっと待て......」俺は困惑した。「なぜ君が俺の部屋に?」


「自分は風の魔法が得意なので、素早い行動が武器です!」ステラが胸を張った。「武流先生のお役に立てるよう、朝一番で準備を整えるのが自分の使命だと考えました!」


 その時、ステラが少し衣装をずらして、引き締まった腹筋を見せつけた。程よく日焼けした肌に、縦に入った筋肉のラインがくっきりと浮かんでいる。


「自分、体力には自信があるんです! 見てください、この腹筋!」


 ステラが誇らしげに自分の腹部を叩く。確かに、かなり鍛えられた体だった。


「それに太腿の筋肉も!」


 今度はスカートを少し持ち上げて、引き締まった太腿を見せる。アスリートのような筋肉質な脚だった。


「そ、そんなことまでしなくていいんだ」俺は慌てて視線を逸らした。


「いえいえ!」ステラが首を振った。「自分たち生徒が先生方をサポートするのは当然です! 特に武流先生は男性ですから、この学園での生活に不慣れなはず!」


 確かに、男性が一人だけという環境は慣れないものがある。


「自分の魔法、見てもらえませんか?」


 ステラが嬉しそうに言うと、部屋の中で軽やかに跳躍した。空中で一回転しながら、青白い光に包まれる。


「風の翼よ、我に力を! 疾風の魔法少女、ステラ・ウィンドロア!」


 変身完了したステラは、より一層引き締まった衣装に身を包んでいた。背中には透明な風の翼が現れ、部屋の中を縦横無尽に飛び回る。


「すごいスピードだな」


 俺は感心した。ミュウと同じ風属性だが、ステラの方が純粋な速度に特化しているようだった。


「しかも君、変身の名乗りとポーズがあるんだな」


 この世界の魔法少女は、名乗りとポーズがないはずだが……。


「はい! 武流先生たちの変身を見て真似してみました! こうすると魔力が高まるんですね! みんな、真似してますよ!」


 なるほど。俺たちを見て影響を受けたわけか。


「自分、体力と行動力には自信があります! 武流先生のためなら、何でもします!」


 ステラの目は純粋な尊敬の色で輝いていた。昨日の魔獣戦を見て、俺を心から慕っているようだ。


「分かった、分かった」俺は諦めて立ち上がった。「それじゃあ、朝食に行こうか」


「はい! 武流先生!」


 ☆


 学園の食堂は、まるで中世の宮殿のような荘厳な造りだった。高い天井、美しいステンドグラス、長いテーブルが整然と並んでいる。


 朝食の時間とあって、多くの生徒たちが食事を取っている。俺の姿を見つけると、好奇心に満ちた視線が注がれた。


「武流先生、こちらの席をどうぞ!」


 ステラが素早く動いて、最良の席を確保してくれた。


 その時、食堂の入り口から小さな新入生たちがぞろぞろと入ってきた。12歳から13歳くらいの少女たちが、きょろきょろと辺りを見回している。


「おーい! 新入生たち!」


 ステラが大きな声で彼女たちを呼んだ。


「ステラ先輩!」


 新入生たちの顔がパッと明るくなり、ステラの元に駆け寄ってくる。


「朝食の準備、整列!」


 ステラが号令をかけると、新入生たちが素早く一列に並んだ。


「本日の朝食メニュー確認!」


「はい!」新入生たちが元気よく返事をする。


「栄養バランス重視!」


「了解!」


「食事マナーを忘れずに!」


「はい、ステラ先輩!」


 まるで部活動の朝練のような統率ぶりだった。新入生たちはステラを心から慕っているようで、彼女の指示に嬉しそうに従っている。


「よし! それじゃあ朝食開始!」


「いただきまーす!」


 新入生たちの元気な声が食堂に響いた。


「朝食のメニューは、パン、卵料理、フルーツ、それにハーブティーです! 栄養バランスを考えて選ばせていただきました!」


 ステラが俺に向き直って報告する。


「ありがとう、ステラ」


 俺が席に着こうとした時――


「お待ちください!」


 慌てた声と共に、アイリーンが食堂に駆け込んできた。眼鏡を押さえながら、息を切らしている。


「武流先生の朝食サポート、私の担当のはずでは......」


 アイリーンは俺とステラを見比べて、明らかに悔しそうな表情を浮かべた。


「あ、アイリーン先輩」ステラが振り返った。「おはようございます! 自分、先に武流先生のサポートをさせていただきました!」


「ステラさん......」アイリーンが眼鏡を光らせた。「私は生徒会長として、新任教師のサポートをする義務があるんです」


「自分も負けていません!」ステラが対抗心を燃やした。「どちらが武流先生のお役に立てるか、勝負しましょう!」


「勝負......?」


 アイリーンとステラが火花を散らし始めた。


「武流先生、お飲み物はいかがですか?」


 アイリーンが慌ててハーブティーのカップを差し出す。


「武流先生、パンにバターを塗らせていただきます!」


 ステラも負けじと、風の魔法でバターナイフを操る。


「武流先生、今日の授業資料の準備はお済みですか?」


「武流先生、体調管理のため、朝の運動はいかがでしょうか?」


 二人が俺の周りを忙しなく動き回る。まるで俺を取り合うように、あれこれと世話を焼こうとしていた。


 その様子を見ていた新入生たちも、ステラを応援し始めた。


「ステラ先輩、頑張って!」


「武流先生に認められるよう、ファイトです!」


「そうです! ステラ先輩が一番です!」


 新入生たちの声援がステラの背中を押す。


「みんな、ありがとう!」ステラが振り返って親指を立てた。「自分、絶対に武流先生のお役に立ってみせるから!」


「おー!」新入生たちが拳を上げて応援する。


「ちょっと、二人とも......」


 俺が制止しようとした時、食堂の入り口から新たな人影が現れた。


 銀髪を美しくまとめ、気品ある立ち姿のエレノアだった。彼女は俺とアイリーン、ステラ、そして新入生たちの賑やかな様子を一瞥し、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべた。


「何をしているの、この人たちは......」


 エレノアの冷たい声が食堂に響いた。

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