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(80)魔獣襲来!弟子たちの出番

 エレノアの惨めな敗北の姿を見て、観客席から小さな失笑が漏れ始めた。


「プッ......」


「あんなに偉そうにしていたのに......」


「エレノア様、情けない......」


 生徒たちの間で、くすくすという笑い声が広がっていく。教師たちも苦笑いを浮かべながら、逆さまで壁にもたれかかっているエレノアを見つめていた。


 俺は変身を解除し、素顔で観客席に向き直った。


「皆さん」


 失笑を漏らしていた生徒たちが、一斉に黙り込み、俺に注目する。


「申し訳ありませんでした」


 俺は深々と頭を下げた。


「私の弟子の制御不足により、皆さんを危険に晒してしまいました。教師として、指導者として、深くお詫び申し上げます」


 観客席が静まり返った。俺の謙虚で紳士的な態度に、生徒たちは驚いている。


「あの男性......意外と礼儀正しいのね」


「謝罪の仕方も丁寧だし......」


「もしかして、意外と良い人なのかも......」


 生徒たちの俺を見る目が、明らかに変わり始めていた。最初の敵意や嫌悪感が薄れ、興味深そうな視線に変わっている。


 アイリーンも眼鏡の奥の瞳を輝かせながら俺を見つめていた。先ほど命を救ってもらった上に、この謙虚な謝罪。彼女の胸の奥で、今まで感じたことのない感情が芽生えているようだった。


「あの......」


 アイリーンが小さな声で呟いたが、その先の言葉は出てこない。


「ん?  何か?」俺はアイリーンに近づいて訊ねる。


「……い、いえ。別に……」アイリーンは顔を真っ赤にして、慌てて視線を逸らした。きちんとお礼を言いたいのだが、言葉が出てこないのだろう。


 その間に、リリアとミュウが慌ててエレノアの元に駆け寄った。


「お姉様! 大丈夫!?」


「エレノア様、お怪我はありませんか?」


 リリアとミュウは彼女を正常な体勢に直し、スカートの裾を整えた。


「大丈夫......怪我はないわ......」


 エレノアの声は弱々しく、震えていた。肉体的な損傷よりも、精神的なダメージの方が大きいようだ。先ほど杖がヒットした太腿の間を、両手で痛そうに押さえている。


「お姉様......」


 リリアがエレノアの心情を案じて、優しく手を握った。全校生徒の前で、これほど恥ずかしい敗北を喫したエレノアの気持ちを思っているのだろう。


「大丈夫よ、リリア......」


 エレノアは震え声でそう言ったが、その瞳には深い屈辱の色が宿っていた。


 その時、ミュウが小さくぼそっと呟いた。


「でも......武流様に思い切り叱られるエレノア様、少し羨ましいのです......」


「え?」


 リリアがミュウを見つめた。


「あ、いえ......その......」


 ミュウは慌てて猫耳を伏せて、恥ずかしそうに首を振った。


 リリアは呆れたような表情でミュウを見つめた。


「ミュウちゃんって、やっぱり変わってるよね......」


 エレノアは俺を見上げると、震える声で言った。


「認めるわ。……私の負けよ」


 俺を跪かせることができなかったエレノアの敗北宣言だった。しかし、彼女がこの程度であきらめないことを俺は知っている。むしろ、新たな屈辱を味わい、俺に対する恨みと支配欲が強まっているに違いない。


 それでもいい、と思った。それがエレノアの強さの原動力になるのならば――。


 その時、特等席のクラリーチェが立ち上がった。


「勝負あったな!」


 彼女の声が闘技場全体に響く。


「勝者は神代武流!」


 観客席から拍手が起こった。先ほどまでとは明らかに違う、敬意を込めた拍手だった。


「よって」クラリーチェが続けた。「神代武流、エレノア・フロストヘイヴン、リリア・フロストヘイヴン、ミュウ・フェリスの四名は、本日よりスターマジカルアカデミアの教師として着任することとする!」


 観客席がざわめいた。


「武流さんが教師に......」


「確かに実力は認めざるを得ないわね」


「でも、エレノア様は大丈夫なのかしら......」


 生徒たちの俺を見る目は、完全に変わっていた。最初の敵意や偏見は消え、実力ある教師としての敬意に変わっている。


 しかし、エレノアに対する評価は逆に下がってしまったようだ。


「エレノア様、あんなに惨めな負け方して......」


「教師として大丈夫なの?」


「制御できない力なんて、危険すぎるわ」


 教師たちも同様の反応を示していた。


「指導者としての資質に疑問が......」


「生徒たちの安全を考えると......」


 これは俺も想定していなかった展開だ。


 俺の計画では、エレノアと互角に戦い、最後に僅差で勝利することで、お互いの実力を認め合うシナリオだった。しかし、エレノアが思いがけず暴走した結果、彼女を完全に辱める結末になってしまった。自業自得とは言え、厄介な展開である。


 どうすれば生徒たちや教師たちに、エレノアのことを信頼してもらえるだろうか。彼女は確かに優秀な魔法少女なのだ。今日の失敗だけで判断されるのは気の毒だ。


 その時だった。


「魔獣出現! 全生徒は避難準備をしてください!」


 学園内に警報が鳴り響いた。魔法で増幅された声が、建物全体に響く。


「王都北部に魔獣が出現! スターマジカルアカデミア近辺に接近中! 全教師は戦闘準備!」


 観客席が一瞬にして騒然とした。


「魔獣!?」


「こんな時に......」


「どうしよう!?」


 教師たちが立ち上がり、指示を出し始める。


「上級生は下級生の避難誘導を!」


「中級生は防御結界の準備!」


「新入生は地下の避難所へ!」


 魔法少女の生徒たちも、慌てて杖を取り出し始めた。訓練された動きで戦闘準備を整えている。


 しかし、その時俺が声を上げた。


「待ってください!」


 俺の声が闘技場に響く。


「ここは俺の弟子たちに任せてほしい」


 観客席が静まり返った。


「実力を証明するためにも、エレノア、リリア、ミュウの三人で魔獣に対処させてください。俺は指揮を執ります」


 教師たちが困惑した表情を見せた。


「でも、エレノア様は先ほど......」


「魔獣相手に大丈夫なのですか?」


「リリア様とミュウさんは、まだ実力を見せていませんし......」


 確かに、リリアとミュウはまだ生徒たちの前で実力を披露していない。リリアは純潔を失って変身できないし、ミュウもエレノアの実力には劣る存在だった。


「大丈夫です」俺は断言した。「彼女たちの真の力を、皆さんに見せてあげましょう」


 教師たちは躊躇していた。先ほどのエレノアの失態を見た後では、彼女たちに魔獣退治を任せるのは不安だろう。


 しかし――


「面白い」


 クラリーチェの声が響いた。まるでこの展開を待っていたかのような、満足そうな表情だった。


「武流よ、おぬしたちに任せよう。新任教師たちの実力、しかと見せてもらおうか」


「クラリーチェ様!」


 教師たちが驚きの声を上げた。


「しかし、危険すぎます!」


「大丈夫じゃ」クラリーチェが手を振った。「わらわが見ている。万が一の時は助けてやろう」


「その必要はないと思うぞ」


 俺は余裕の笑みを浮かべると、エレノア、リリア、ミュウの三人を見つめた。


 エレノアは立ち上がり、先ほどの屈辱を振り払おうとするように背筋を伸ばした。その瞳には、再び闘志の光が宿っている。


 リリアは不安そうな表情を見せていたが、俺の視線を受けて頷いた。変身はできないが、後方支援する覚悟を決めているようだ。


 ミュウは猫耳をピンと立てて、やる気満々の表情を見せていた。


「いくぞ」


 俺たちは三人と共に闘技場から駆け出した。

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