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(78)武流の“よくわかる解説”バトル

「フロスト・ライトニング!」


 エレノアが杖を振り下ろすと、青白いエネルギーが稲妻のような軌跡を描いて俺に向かってきた。氷の魔力と蒼光剣のエネルギーが融合したその攻撃は、確かに強力だった。空気を切り裂く音と共に、これまでとは比べ物にならない威力を感じさせる。


 俺は身を低くして横に跳び、攻撃を回避した。エネルギーの塊は俺がいた場所の床を抉り、深い溝を刻んだ。


「おお......」


 観客席から驚きの声が漏れる。


「エレノア様、すごい威力......」


「あのエネルギー、本当に強そう」


 だが、俺は冷静に状況を分析していた。確かに威力は向上している。しかし——


「フリージング・ブラスト!」


 エレノアが続けて放った攻撃は、俺から大きく逸れて闘技場の壁に激突した。氷と光のエネルギーが混在した爆発が起こり、壁に大きな穴が空く。


 エレノア自身も困惑している。狙いが定まっていない。


「クリスタル・ビーム!」


 三発目の攻撃も俺の頭上を大きく外れ、空に向かって飛んでいった。


 俺は軽やかに移動しながら、観客席に向かって声を張り上げた。


「みんな、見てくれ。エレノアの新技は確かに威力があるが、制御に問題がある」


「え?」


 観客席がざわめいた。戦いの最中に解説を始めるなど、誰も予想していなかった。


「なぜ解説なんて......」アイリーンが眼鏡を押し上げながら困惑している。


「異なる性質のエネルギーを融合させること自体は素晴らしい発想だ」俺は蒼光剣でエレノアの次の攻撃を軽々と弾きながら続けた。「しかし、融合したエネルギーは制御が非常に困難になる」


「アイス・ライト・スパイラル!」


 エレノアの攻撃が螺旋を描いて飛んでくるが、やはり俺から大きく外れる。


「ほら、見ろ」俺は攻撃を避けながら説明を続ける。「エレノアは狙いを定めているつもりでも、エネルギーの性質が異なるため、想定した軌道から逸れてしまうんだ」


 観客席の生徒たちが身を乗り出し始めた。


「確かに......エレノア様の攻撃、全然当たってない」


「でも、なぜそうなるの?」


「氷の魔力は冷気によって下向きの重力を持つ」俺は解説を続けた。「一方、蒼光剣のエネルギーは上昇志向の性質がある。この相反する力が同時に働くため、エネルギーが安定しないんだ」


「なるほど......」


 生徒たちの表情が変わり始めた。最初は呆れていたが、今は興味深そうに俺の解説に聞き入っている。


「さらに」俺は軽やかにエレノアの攻撃をかわしながら続けた。「エレノアの魔力制御技術は確かに高水準だ。氷の魔法においては、おそらく同年代では最高レベルだろう」


 エレノアの頬がわずかに赤くなった。


「しかし、未知のエネルギーを扱う経験が不足している。これは当然のことだ。誰でも新しい技術を習得するには時間が必要だからな」


「待ちなさい!」エレノアが怒りの声を上げた。「武流! 勝手に解説しないで!」


「エレノアの基礎魔力は非常に優秀だ」俺は彼女の抗議を無視して続けた。「足の踏ん張り、杖の握り方、魔力の流し方、すべてが教科書通りの美しいフォームだ」


 アイリーンが思わずメモを取り始めた。


「確かに......エレノア様の基本姿勢、完璧ですね」


「そうだろう?」俺は得意げに言った。「これは一朝一夕では身につかない、貴重な技術なんだ」


 本当は俺の指導の賜物なのだが――。


 教師席からも感心したような声が聞こえ始める。


「なるほど......確かに基礎がしっかりしている」


「あの男、意外と的確な分析をするじゃない」


「でも!」俺は声を大きくした。「融合エネルギーの制御には、基礎技術とは別の感覚が必要なんだ。これを『エネルギー調律』と言う」


「エネルギー調律?」


 生徒たちが興味深そうに身を乗り出す。


「二つの異なるエネルギーを調和させるには、まず自分の魔力の『周波数』を理解する必要がある」俺は蒼光剣を軽く振って例を示した。「私の蒼光剣のエネルギーは高周波数型。エレノアの氷の魔力は低周波数型。この周波数の差を調整しなければ、安定した融合は不可能だ」


「すごい......」


 リリアとミュウも苦笑いを浮かべながら聞き入っている。


「師匠ったら、戦いながら授業してる......」リリアが呟いた。


「武流様らしいのです......」ミュウも猫耳を困ったように動かしている。


 特等席のクラリーチェがニヤリと笑った。


「面白い男よのう......戦いを教材にするとは」


 ディブロットも感心している。「確かに、実戦を見せながらの解説は非常に分かりやすいですな。生徒や教師たちの心を見事に掴んでおります」


「さらに」俺は解説を続けた。「エレノアの攻撃パターンを分析してみよう。彼女は右利きなので、杖を振る軌道が右回りになりがちだ。そのため、エネルギーも右に逸れる傾向がある」


「本当だ......」


 生徒たちがエレノアの動きを注意深く観察し始めた。


「軌道を予測できるってわけね」


「彼の言う通りだわ」


「このパターンを修正するには」俺は実演を交えて説明した。「杖を振る前に、左足に重心を移すことだ。こうすることで軌道の偏りを相殺できる」


「なるほど!」


 アイリーンが興奮してメモを取りまくっている。


「理論的で分かりやすい......」


 教師たちも俺の解説に聞き入っている。


「あの男、教師としての才能があるかもしれない」


「解説が非常に論理的で明確ね」


「やめてよ!」


 エレノアが顔を真っ赤にして叫んだ。


「私を実験台みたいに扱わないで!」


 彼女の屈辱と怒りが爆発した。武流が解説をしているということは、彼が本気で戦っていないということだ。余裕を持って戦況を分析し、観客に教えている。これ以上の屈辱があるだろうか。


「ふざけるのはそこまでよ!」


 エレノアが杖を両手で握りしめ、これまで以上の魔力を込め始めた。


「アルティメット・フロスト・ライトニング!」


 青白いエネルギーが杖の周りで激しく渦巻き始める。その威力は先ほどまでとは比べ物にならない。


「おっと」俺は少し表情を引き締めた。「これは本気だな」


「そうよ!」エレノアが怒りに満ちた瞳で俺を睨んだ。「あなたを絶対に跪かせてみせる!」


 杖に集まったエネルギーがさらに膨張し、制御の限界を超え始めた。


「危険だな」俺は観客席に向かって警告した。「エネルギーが暴走し始めている。みんな、防御結界を――」


 その時だった。


 エレノアが杖を振り下ろした瞬間、青白いエネルギーが彼女の制御を完全に離れた。


 巨大なエネルギーの塊が不規則な軌道を描いて飛び始める。


 最初は俺に向かっていたが、途中で軌道が大きく逸れ――


 観客席に向かって飛んでいく。


 その直撃コースには――


「きゃあああああ!」


 眼鏡をかけた生徒会長アイリーンの姿があった。


 彼女は恐怖で立ち竦み、逃げることもできずにエネルギーの塊を見つめている。


 時間が止まったかのような瞬間だった。

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