(77)氷姫の意外な反撃
怒りが彼女に新たな力を与えたのか、エレノアは壁を蹴って力強く跳躍した。空中で体勢を立て直し、連続魔法を発動する。
「アイス・ランス! アイス・ブレード! アイス・ハンマー!」
槍、剣、鈍器の形をした氷の武器が次々と俺に向かって飛んでくる。それぞれが異なる軌道を描き、俺の回避を困難にしようとしている。
しかし、俺にとってこの程度の攻撃は脅威ではない。
俺は蒼光剣を縦横無尽に振るい、飛来する氷の武器を全て切り払った。剣を振る度に青い光の軌跡が描かれ、氷の武器が光に触れた瞬間に粉々に砕け散る。まるでダンスを踊るかのような流麗な剣さばきだった。
「アークティック・リアーム!」
エレノアが着地と同時に新たな魔法を発動する。氷の階段が彼女の足元から空中に向かって伸び始めた。螺旋状の美しい氷の階段を駆け上がり、さらに高い位置に移動する。
観客席からは感嘆の声が上がった。
「すごい魔法......」
「エレノア様の氷の魔法、本当に美しいわね」
「でも、美しさだけでは勝てないでしょう」
エレノアは氷の階段の頂上から俺を見下ろしながら、最大級の攻撃魔法を準備し始めた。彼女の周りに膨大な魔力が集まり始める。
「フローズン・ワールド!」
エレノアの杖から放たれた魔力が闘技場全体を包み込んだ。闘技場全体が氷の世界に変貌する。壁も天井も、すべてが美しい氷で覆われ、まるで氷の宮殿のような幻想的な光景が広がった。温度が急激に下がり、観客席の生徒たちも寒さに震え始める。
「すごい魔力......」
「エレノア様、これが本気なのですね」
「でも、結果が伴うかしら」
観客たちは依然として冷ややかだった。アイリーンも眼鏡を曇らせながらメモを取り続けている。
エレノアは氷の女王として君臨するように、俺を見下ろした。その姿は確かに威厳に満ちており、魔法少女としての実力を十分に示している。
「これで終わりよ、武流! アブソリュート・ゼロ!」
絶対零度の冷気が渦を巻きながら俺に向かって放たれる。空気そのものが凍りつき、その威力は凄まじいものだった。これまでで最も強力な攻撃だ。
冷気が俺に到達する直前――
「蒼光剣、出力増幅!」
俺の蒼光剣から青白い光が爆発的に拡散した。光のエネルギーは絶対零度の冷気を相殺し、氷と光がぶつかり合って巨大な爆発が起こる。さらに、その光の余波は氷の階段をも溶かし始めた。
「そんな......!」
階段が崩壊し、エレノアが高所から落下してくる。俺は彼女の落下地点を予測し、その場所に移動した。
「終わりだ!」
俺の拳が再びエレノアに迫る。
しかし、その瞬間――
エレノアの瞳に、諦めではなく、むしろ不敵な光が宿った。
「武流......あなたって本当に単純ね」
「何?」
落下しながらも、エレノアは氷の杖を俺の蒼光剣に向けて突き出した。その動きには迷いがない。まるで、この瞬間を待っていたかのように。
「今よ!」
その瞬間、エレノアの氷の杖の先端から淡い光が放たれた。それは俺の蒼光剣から発せられるエネルギーに向かって伸び、まるで触手のように蒼光剣のエネルギーを捕らえ始める。
青白いエネルギーの糸が俺の剣からエレノアの杖へと流れていく様子が、はっきりと目に見えた。エネルギーは美しい光の帯となって空中を舞い、エレノアの杖に吸い込まれていく。
「......!」
俺は愕然とした。エレノアは俺の攻撃エネルギーを吸収しているのだ。
王宮でクラリーチェと戦った時のことが脳裏によみがえる。あの時、俺はエレノアの氷の魔力を蒼光剣に纏わせて戦った。氷と光のエネルギーが見事に融合し、強力な相乗効果を生み出したのだ。エレノアはあの戦いで、俺の蒼光剣のエネルギーと自分の氷の魔力が意外にも相性が良いことを学んだのだろう。
そして今、彼女は戦いの最中に俺の攻撃を受けながら、その度に蒼光剣のエネルギーを少しずつ分析し、吸収する準備を整えていたのだ。
エレノアの杖に吸収されたエネルギーは、彼女の氷の魔力と混ざり合い、美しい青白い光を放ち始めた。その光は氷の魔力特有の冷たさと、蒼光剣の温かな光が絶妙に調和したものだった。
「気づくのが遅いわよ」
エレノアは空中でバランスを取り直し、杖を高く掲げた。杖の先端には青白いエネルギーが渦巻いており、それは氷の魔力と蒼光剣のエネルギーが融合した、まったく新しい力となっていた。
観客席が初めて大きくざわめいた。
「あれは......何ですの?」
「エレノア様の杖が光ってる......」
「あの男の剣と同じ色......」
「まさか、エネルギーを取り込んでるの?」
「そんなことが可能なの?」
生徒たちの驚きの声が闘技場に響く。これまで冷静に観戦していた彼女たちも、この予想外の展開には動揺を隠せない。
アイリーンも眼鏡を外して拭きながら、信じられないといった表情で呟いた。
「エネルギーの吸収......理論的には可能ですが、実戦で行うなんて......」
教師席からも驚きの声が上がる。
「魔力の種類が違うのに、融合させるなんて......」
「エレノア様、思っていた以上に高度な技術を......」
第一層のリリアとミュウも目を丸くしている。
「お姉様、すごい......」リリアが息を呑んだ。
「エレノア様、あんな技まで......」ミュウの猫耳が驚きで立っている。
特等席のクラリーチェとディブロットも驚きの表情を見せている。
「ほお......エレノアがエネルギーを吸収するとは......」
「予想外の展開ですな。王宮での戦いを参考にしたようですが......武流殿のエネルギーを逆利用するとは、なかなか狡猾な戦術です」
エレノアは氷の杖を両手でしっかりと握り、その先端に集まったエネルギーを見つめた。青白い光は脈動するように明滅し、まるで生きているかのようだった。
「これが私の切り札よ、武流」
エレノアの声には勝利への確信が込められていた。これまでの劣勢を一気に覆す、最後の賭けとしての大技。
「あなたの力を利用して、あなたを倒す。これ以上の屈辱はないでしょう?」
確かに、これは予想外の展開だった。エレノアがここまで巧妙な戦術を仕込んでいたとは。彼女は単に俺の攻撃を受け続けていたのではなく、その間にエネルギーの性質を分析し、吸収する方法を模索していたのだ。
俺は蒼光剣を構え直した。刃から放たれる光がわずかに弱くなっているのを感じる。エレノアに吸収された分だけ、エネルギーが減少しているようだ。
だが――
「面白い。やってみろ、エレノア」
俺の口元に不敵な笑みが浮かんだ。確かに彼女の作戦は巧妙だが、それでも俺との基礎的な力の差が埋まったわけではない。
エレノアは杖に宿った青白いエネルギーを見つめながら、次の攻撃の準備を始めた。エネルギーは杖を中心として渦を巻き、その威力は通常の氷の魔法を遥かに上回るものになっているのは間違いない。
「行くわよ、武流! これが氷と光の融合技――」
エレノアが杖を振り上げる。青白いエネルギーが杖全体を包み込み、それは氷の冷気と光の温もりが同時に存在する不思議な力となっていた。
観客席の全員が固唾を飲んで見守っている。この戦いの行方を左右する重要な瞬間だった。
俺も蒼光剣に力を込める。エレノアの新技がどれほどの威力を持つのか、その全貌を見極める必要がある。
エレノアの杖に宿った青白いエネルギーが、今にも爆発しそうなほどに膨張している。
この戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。
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