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(62)最強対最強の決着

「どうだ?」俺は余裕の表情を見せる。「俺の蒼光剣は通常の力とは異なる。超科学と魔力の融合――この世界の誰も到達し得なかった境地だ。エレノアの魔力が加われば、なおさらな」


「面白い......」彼女の瞳が輝きを増す。「では、これはどうじゃ? 深淵魔法、闇炎嵐(あんえんら)!」


 彼女の周りに黒と紫の炎が渦巻き始め、それが突風のように俺に向かって襲いかかってきた。あまりの熱さに、近くの建物の柱が溶け始める。


 俺は蒼光剣を水平に構え、「蒼光盾!」と叫んだ。剣から放たれた光が盾のように広がり、闇の炎を食い止める。しかし、その衝撃で俺の体は後方に押し出され、膝をつくほどだった。


「『蒼光剣アポロナイト』第108話......」俺は呟いた。「敵の攻撃を受け止めて膝をつき、そこから反撃する定番パターンだ」


 スーツアクターとしての記憶が蘇る。カメラアングルを意識した演出、効果的な見せ方、そして何より、反転攻勢のタイミング。数多くの特撮ヒーロー番組での経験が、今、この実戦で生きている。


 俺は膝をついたまま、力強く敵を睨み、剣を斜めに構えた。これはヒーローショーの観客から最も歓声が上がるポーズの一つだ。そして今、その技術が実戦で活かされる。実際、王宮の人々は俺の戦いに目が釘付けになっている。


「ふむ......やはり只者ではないな」クラリーチェが言った。「わらわも本気を出さねばなるまい」


「すごいのです......アポロナイト様がクラリーチェと互角に......」ミュウが震える声で言った。


「お姉様......見てる?」リリアがエレノアに語りかけた。「師匠が私たちの復讐を......」


 うつ伏せに倒れたままのエレノアは、目を細めて戦いを見守っていた。屈辱的な敗北で体の自由も奪われ、その姿を晒されたが、それでも彼女の瞳には希望の光が宿っていた。彼女は細くか弱い声で呟いた。


「アポロナイト......」


 彼女のプライドは粉々に砕かれていたが、それでも彼女は俺をしっかりと見守り続けた。


 クラリーチェの小さな体が宙に浮かび上がる。黒いローブが風に煽られるように広がり、その下から複雑な魔法陣が現れた。王宮全体がその魔力に呑み込まれていくかのような圧迫感。


 俺は立ち上がり、蒼光剣を高く掲げた。「蒼光剣・奥義、千光旋(せんこうせん)!」


 剣から放たれた光が無数の刃となり、渦を巻きながらクラリーチェに向かって飛んでいく。それはまさに光の嵐、俺の最強の技の一つだ。


「ディブロット様......この戦い、どうなりますか?」カトリーヌが震える声で黒い妖精に尋ねた。


「さあ、どうなるでしょうねぇ......」ディブロットはカラスのくちばしを優雅に動かして言った。「我が主は百年以上無敵でしたが......あの男には特別な何かがあります。結末は分かりません」


「まさか......クラリーチェ様が負ける可能性が?」


「いや、それは......」


 俺の放った光の刃が、クラリーチェに接近する。


「深淵魔法、絶対障壁(ぜったいしょうへき)


 クラリーチェの周りに黒い球体が形成され、俺の放った光の刃が次々とそれに吸収されていく。だが、最後の数本が障壁を貫き、彼女のローブの端を切り裂いた。


「......!」


 彼女の表情が僅かに変わる。恐らく、自分の防御が破られたことに驚いたのだろう。俺の心に勝利の予感が湧き上がった。


「やはりな......お前も無敵ではないようだ」俺は自信を持って言った。「この蒼光剣は、どんな魔力も切り裂く」


「ふん......なかなかやるではないか」クラリーチェの目に闘志が宿る。「だが、これでどうじゃ? 深淵魔法、冥王の鎖(めいおうのくさり)!」


 彼女の掌から黒い鎖が無数に放たれ、蛇のように蠢きながら俺に迫ってくる。俺は剣を振るい、何本かの鎖を切り裂いたが、それらは切断されても再生し、俺の腕や脚に絡みついた。


「くっ......!」


 俺は体を捻って抵抗するが、鎖の力は強く、次第に動きが制限されていく。クラリーチェが手を握ると、鎖が一斉に締め付けた。


「どうじゃ? 降参するか?」彼女が尋ねる。


「笑わせるな......」


 特撮ヒーローの世界で、ピンチのシーンは決まりきったパターンがある。主人公が敵に捕らえられ、絶体絶命の危機に陥る。しかし、そこから逆転するのが定番だ。


「こういう時こそ......派手に反撃だ」


 俺は全身に力を込め、「蒼光爆!」と叫んだ。蒼光剣から爆発的な光が放出され、鎖が一斉に弾け飛ぶ。解放された俺は即座に前進し、クラリーチェに向かって突進した。


「見ろ、あの動き! あの姿! あの強さ!」ケインが感嘆の声を上げた。


「まるでスターフェリアの伝説に登場する光の勇者だ!」ルークも目を輝かせて言った。


 サイモンも目を丸くする。「クラリーチェ様と互角に戦える存在......!」


「星々よ、我に力を!」クラリーチェが詠唱を始める。「深淵魔法、暗黒砲(あんこくほう)!」


 彼女の両手から巨大な黒いエネルギーの塊が放たれ、俺に向かって飛んでくる。それは王宮の一角を易々と吹き飛ばすほどの威力を持っていた。


「蒼光斬!」


 俺は蒼光剣に全ての力を込め、黒いエネルギーに向かって斬りかかった。剣と魔力が衝突する瞬間、強烈な閃光が王宮を包み込み、衝撃波が四方八方に広がった。建物の壁が崩れ、柱が倒れる。


 カトリーヌが悲鳴を上げた。


「想定以上です」ディブロットも驚きの声を上げた。「クラリーチェ様の深淵魔法を相殺するとは...」


 俺とクラリーチェは、崩れゆく王宮の建物を背に対峙していた。俺の蒼光剣からは青白い光が、クラリーチェの掌からは漆黒の魔力が放出され続けている。二つの力がぶつかり合い、空間そのものが歪むような光景だった。


「アポロナイト......」クラリーチェの声が聞こえる。「おぬしは確かに強い。わらわが今まで出会った中で、最も力がある」


「お前もだ」俺は答えた。「こんな力を持つ敵は初めてだ。伊達に百年以上生きてきたわけじゃなさそうだな」


 石畳が大きく揺れ、広場の中央に亀裂が走る。崩れ落ちた柱や壁の破片が宙に浮かび、俺たちの力のぶつかり合いによって生まれた奇妙な重力場に捕らわれたかのように回転し始めた。


 嵐が起き始めている。雲が渦を巻き、稲妻が走り、強風が吹き荒れる。俺たちの戦いが、自然さえも狂わせているようだった。


「このままじゃ王宮が......」リリアが心配そうに叫ぶ。


「いや、王都全体が消滅するのです......!」ミュウが恐怖に震えて付け加えた。


 確かに、このままエネルギーが暴走すれば、王都が危ない。俺たちの力の衝突点から広がる波紋が、建物を次々と揺るがし始めていた。遠くで悲鳴が聞こえる。王宮の外にいる市民たちが逃げ惑う声だ。


「おぬし......まだ懲りずに戦うつもりか?」クラリーチェが問いかけてきた。彼女の声には、どこか楽しげな響きがあった。「そこにいる弟子ども傷つき、消え去っても構わぬのか?」


「あんたこそ、どうなんだ?」俺は問い返した。「自らの王宮を……いや、王国を破壊するつもりか?」


 俺たちの間に、奇妙な理解が生まれた。二人とも全力で戦えば、この場所は確実に消滅する。それは俺たちどちらにとっても望ましくない結果だった。


 クラリーチェはゆっくりと力を弱め始めた。「ふむ......確かにこれ以上は無益かもしれんな。この戦い、どちらにも勝利はなく......ただ状況を悪化させるだけじゃ」その幼い姿からは想像できないほどの老成した表情だった。


 俺も同様に蒼光剣の出力を下げていく。「そのようだな。お互いの力を認め合う、それが賢明というものだ」


 二人の力が弱まるにつれ、周囲の異常な現象も徐々に収まっていった。宙に浮かんでいた破片が落下し、嵐も少しずつ静まり始める。


 やがて、俺たちは完全に攻撃を止めた。王宮は半ば崩壊し、あたり一面が瓦礫に覆われていた。


「久しぶりの好敵手じゃ。おぬしの力は、わらわの予想を上回っておった」


「お前も想像以上だった」俺は剣を鞘に収めながら答えた。「深淵魔法とやらは初めて見た。だが、この蒼光剣はそれに対抗できる唯一の武器かもしれない」


 クラリーチェはディブロットを肩に乗せ、静かに言った。「然るべき時が来たら、然るべき場所で決着をつけよう」クラリーチェが言った。「その時は、星々を巻き込む戦いになるやもしれぬ」


「望むところだ」俺は答えた。「その時までに、もっと強くなっているだろう」

本日は連載開始1カ月を記念して、1日に複数話、投稿中! 次回投稿が本日ラスト、第2章の締め括りです。最後までお付き合いください。

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