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(59)深淵魔法“虚空結界”

 クラリーチェの小さな唇が徐々に笑みを広げていく。それは不気味なほど残酷な表情だった。


「ふふっ」彼女は冷笑した。「そのような証拠がどこにある? わらわを疑うとは、王族の名折れじゃぞ」


「王族の名折れは、あなたよ!」エレノアの全身から氷の魔力が爆発した。「あなたはあの魔獣と繋がっていた! 父と母を殺したのはあなたの命令ね!」


「だとしたら、何なのじゃ?」クラリーチェは残忍な笑みを浮かべた。


 エレノアは絶句する。「じゃあ、やはりあなたが……!?」その表情が憤怒に歪む。


 クラリーチェは答えない。その沈黙が、真実であることの証明だった。


 俺もその事実に絶句する。まさか、あの事件が王宮内で仕組まれたことだったとは……。エレノアとリリアは、計画的に王宮から追放されたのだ。三年経っても襲撃犯の魔獣が発見されないのも当然と言える。


 となると、クラリーチェは魔獣と結託しているということか? それも人間の男に化けることができるという魔獣と……。


「全てはおぬしの妄言じゃ。"おもらし姫"の戯言など、誰が信じようか」


 エレノアの青い瞳に氷の結晶が形成され始めた。彼女の怒りと悲しみが具現化したかのように。


「グランド・アヴァランシェ!」


 エレノアの魔力が極限まで解放される。彼女の周囲の空間そのものが凍りつき、まるで小さな氷河が形成されたかのよう。その氷河がクラリーチェに向かって激しい勢いで流れ出す。王宮の広場の石畳や建物の壁が次々と凍りつく。


「深淵魔法を見せてやろう」


 クラリーチェは両手を胸の前で組み、静かに目を閉じた。


「クラリーチェ様!」カトリーヌが恐怖の声を上げる。「おやめください! その技を使えば、エレノア様は……」


 しかし、クラリーチェは聞く耳を持たない。


「......虚空結界(こくうけっかい)……」


 彼女の声が不思議な響きを帯びる。それが技の名前なのだと認識するのに、数秒の時間を要した。この世界の魔法少女たちは、名乗りやポーズ、技の名前を叫ぶ文化がないからだ。しかし、クラリーチェは別らしい。その名を唱えることで、深淵魔法の力を極限まで引き出しているかのようだった。


 宙に浮かんだディブロットの姿が光を放ち、クラリーチェの周りに複雑な魔法陣が展開される。空間が歪み、エレノアの氷河が停止した。まるで時間が止まったかのように、すべての動きが凍結する。


 クラリーチェの前に、直径5メートルほどの半透明の球体が出現した。それは星空のように輝き、内部に星々が瞬いている。幻想的だが、不気味を秘めた光景だった。


 突如、球体は動き出し、エレノアに襲いかかった。


「エレノア!」


 俺の叫びもむなしく、球体はエレノアの体を飲み込んだ。幻想的な球体の中で、彼女の体が宙に浮き、無重力状態になる。内部は別次元の空間のようで、エレノアはそこで無力に浮遊していた。


「虚空結界とは、星と月の力を使い、空間そのものを切り取る究極の魔法」ディブロットが静かに解説する。「この空間の中では、全てはクラリーチェ様の意のままです」


 エレノアは必死に抵抗している。彼女は氷の杖を振るい、様々な攻撃を放つが、すべて球体の壁に吸収されるだけだ。


「無駄じゃよ。おぬしの力では決して破れぬ」クラリーチェが冷たく言った。「これからおぬしに、王族の尊厳とは何かを教えてやろう」


 クラリーチェが指で複雑な模様を描くと、魔力によってエレノアの杖が彼女自身に向き直り、突然動き出した。


 倒れ伏したミュウが、弱々しい声で叫んだ。「エレノア様、気をつけるのです!」


 リリアも恐怖に目を見開いていた。「お姉様! 逃げて!」


 だが、球体の中で逃げ場はなかった。俺は蒼光剣を握り締め、戦いの体勢を取った。


「クラリーチェ! 止めろ! エレノアを解放しろ!」


 俺がクラリーチェに向かって走り出そうとした瞬間、エレノアの声が響いた。


「手を出さないで! この女だけは、私が倒す! 父と母の仇よ!」


 彼女の声には怒りと決意が混じっていた。しかし、絶望的な状況であることは明らかだった。


「エレノア……」


「お願い……見ていて」彼女の青い瞳には痛ましいほどの誇りが残っていた。


 俺は悔しさを噛み締めながらも、その意志を尊重し、一歩下がった。彼女にとって、俺に助けられることもまた、大いなる屈辱なのだ。


「弱い者は服従するもの」クラリーチェの目に冷たい光が宿った。「おぬしの父と母も最後は惨めだった。ただ恐怖に震えながら、魔獣に敗北した」


「やめて!」エレノアの叫びが球体内に響いた。「父上と母上の名を汚さないで!」


 宙を浮遊するエレノアの杖は、クラリーチェの魔力に操られ、突然エレノアの腹部を強打した。


「くはっ!」


 不意打ちに彼女は息を詰まらせたが、すぐに顔を上げる。杖は彼女の体を容赦なく攻撃し続けた。腕、肩、背中と、次々に打ちのめす。エレノアは歯を食いしばり、痛みに耐えていた。


「お姉様、もうやめて! 降参して!」リリアが悲痛な声を上げた。


 だが、エレノアは音を上げる気配もない。


「王族のプライドか。それもすぐに砕けるであろう」クラリーチェは冷たく言った。


「私は......アポロナイトに鍛えられた」エレノアは杖の打撃に耐えながら、言葉を絞り出す。「この一ヶ月で父上と母上の仇を取れるほどの力を手に入れた!」


「どうかな?」クラリーチェは不敵に笑うと、指の動きを変える。今度は杖がエレノアの背中を鋭く叩いた。


「はっ!」


 エレノアは思わず声を漏らす。その反応を見たクラリーチェの笑みが深まった。杖は続けざまに彼女を打ち、まるで子供が親に叱られるかのような惨めな姿を晒させる。


「王族としての品格はどこへ行った?」


「品格について、あなたに語られる筋合いはないわ」エレノアは痛みと屈辱に顔を歪めながらも、反抗的な態度を崩さない。「地位と権力を得るために、同じ王族の命を奪ったあなたに……!」


 杖はさらに彼女を打ちのめす。そして突然、杖が角度を変え、その持ち手が背後から彼女のある一点に触れた。


「あっ!」


 思わず漏れた悲鳴に、エレノア自身が驚き、顔を赤くした。


「おっと、ちょっとした手違いじゃ」クラリーチェは嘲笑うように言った。が、意図的であることは明白だった。


 その後もエレノアは体の同じ箇所を何度も杖で突かれた。そのたびに声が漏れ、体を捩る。エレノアの顔は恥辱と屈辱で見る見る真っ赤に染まっていった。自らの杖で完全に弄ばれている。


 リリアは悲痛な表情で目を逸らし、ミュウは猫耳を震わせながら涙ぐんでいた。


 王宮の一角では、ケイン、ルーク、サイモンの三人が心配そうにこの光景を見守っている。


「あんな辱めを......」ケインが拳を握りしめ、震えていた。


「エレノア様......」ルークは目に涙を浮かべていた。


「なんという仕打ちだ……」サイモンは厳しい表情で言った。「魔力だけでなく、精神的な拷問も…」


「うっ......くぅっ......」


 エレノアは必死に声を抑えようとするが、杖が彼女を背後から容赦なく責め立てる。彼女の体が小刻みに震え始め、顔は屈辱で紅潮していった。その様子を見ていた俺と目が合った。


 彼女の顔は恥辱で歪んでいる。


 球体内で無力に浮かぶ彼女の姿は、既に王宮中の人々の視線に晒されていた。

本日は連載開始1カ月を記念して、1日に複数話、投稿中! 最後までお付き合いください。

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