(5)魔法姫の屈辱、ヒーローの野望
俺はエレノアを助けに行かず、すぐさま魔獣に対応する。この判断の方が最適解だ。エレノアは一時的に戦闘不能だが、致命傷ではない。今は魔獣を片付けることが優先だ。
「お姉様! ここは私が……!」
リリアが華やかな動きで花の魔法を繰り出すが、やはり魔獣に対する効果は限定的だ。彼女の戦い方には無駄な動きが多すぎる。
魔獣はリリアを狙い、尾を振るって彼女を薙ぎ払った。
「うわあぁ〜〜〜〜っ!?」
彼女は空中でクルクルと回転して吹っ飛んでいく。その先には大木が聳えている。木の幹を蹴って華麗に着地転換するのが王道だが——その技術は彼女にないだろう。案の定、彼女は顔面から大木に激突した。
「ぐはぁっ」
彼女は両手両足で幹にしがみつく。魔獣の次の攻撃が迫る。長い触手が彼女のスカートの中を狙う。
「くそっ。世話が焼けるな!」
俺は瞬時に判断し、跳躍して魔獣との間に身を投じた。アポロナイトの剣で触手をガキン!と食い止める。
「リリア、下に降りろ! そこにいると危険だ!」
リリアは木にしがみついたまま、ずるずると滑り落ちていく。木の幹との摩擦でスカートがめくれ上がる。「……あっ……あっ……あぁぁぁ……」
大木の根元には、根っこが地面からいびつに隆起している。リリアは途中から力尽きたように勢いよく滑り落ち、ついに地面に到達。腰の柔らかな割れ目に、根っこが深くめり込んだ。
「んっ……」小さく呻いた彼女は、木にしがみついたまま剥き出しの下半身を痙攣させる。
俺は魔獣の触手を蒼光剣で切断すると、着地し、溜息をついた。この二人の戦闘能力は想像以下だ。エレノアは魔法の威力はそこそこあるが、身体能力と実戦経験に欠ける。リリアはもっと悲惨で、戦いの基本ができていない。二人とも厳しい訓練を受けていないのだろう。
「何だ、そのザマは……」思わずスーツアクター魂に火がつく。
再び数本の触手が襲いかかってくる。俺は回転しながら全て切り払った。
「お前ら、ちゃんと受け身の練習をしろ! 体幹も鍛えるんだ。さもないと大怪我するぞ!」
「うけみ? たいかん?」リリアがふらふらと立ち上がりながら、戸惑いの声を漏らす。
「それに、やられっぷりにも美学があるってことを覚えておけ! そんなだらしないやられ方じゃ、下手なコントにしか見えん。モブの魔法使いじゃあるまいし!」
「モブですって?」
カッとなったエレノアが立ち上がろうとした。が、まだ痛みが引かず、よろめいて後ろに倒れ込んだ。
「おい、足元に気をつけろ!」
魔獣の触手を振り払いながら警告するが、時すでに遅し。不運にも、折れた古い枝が地面に転がっていた。折れた箇所が数センチほど上向きに鋭く突起している。そこに腰を落としたから堪らない。
「んあああっ!」
貫く激痛に体が跳ね、言葉にならない悲鳴が上がった。脱力したように地面に両手と両膝をつく。震える片手を後ろに回し、俺の目も気にせずスカートの中の患部をさする。腰を突き出したその醜態が、痛みの酷さを物語っていた。
「お姉様……! 大丈夫!?」
リリアが駆け寄り、姉の代わりに痛む箇所をさすってあげる。
「はぅぅぅ……」
エレノアの顔が悔しさで歪んでいる。まさに踏んだり蹴ったりだ。
「だから言わんこっちゃない。現場では常に周囲を見回し、危険なものがないか確認しろ。アクションは安全を確かめてからだ!」
スタントの現場では怪我がつきものだ。ちょっとした不注意で大怪我をした後輩のことを思い出し、つい声を荒げてしまった。
「くっ……」
四つん這いで平静を装おうとするエレノアの姿は、痛々しくも健気だった。
「それともうひとつ。魔法少女がスカートの中を見せるのは刺激が強すぎる。二人とも、今のは撮影なら100%NGだぞ」
リリアが真っ赤になった。「見たの!?」
「見てない」と俺は視線を逸らす。
「ウソつけ! 下賤な魔獣め! 女の子の大切なところを覗いて興奮してるんでしょ!?」
「見てないって言ってるだろ!」新たな触手の攻撃を阻止しながら続ける。「ちなみに、アクションする時はスカートの下に『見せパン』を履け。目のやり場に困るだろ」
「やっぱり見たんじゃないか! あなたもボクたちの純潔を狙ってるんでしょう?」リリアはスカートを押さえて頬を膨らませる。「あなたみたいな下等な魔獣にスカートの中を覗かれるなんて、魔法姫として最大の屈辱だよ!」
エレノアも痛みに耐えながら、冷たい視線を向ける。「私たちを助けたように見せかけて、純潔を奪うチャンスを狙っているとは……。男という生き物は、どの世界でも同じよ」
「なんだと?」俺は二人を守ってやったというのに……。
またか。またなのか。現実世界で朝倉明日香に「ド変態ヒーロー」と罵られ、この世界でも「純潔を狙う魔獣」扱い。俺が何をしても、男というだけで疑いの目を向けられる。明日香の甘い囁きと冷酷な裏切り、そして屈辱的な土下座……あの記憶が蘇り、胸の奥で憤怒が燃え上がる。
彼女たちの男性蔑視は根深いようだ。この世界の男性は本当にそんなに低俗なのか? それとも俺だけがこんな仕打ちを受ける運命なのか?
その時、魔獣が突如として両腕を伸ばし、エレノアとリリアを掴み上げた。
「きゃああっ!」
「うわああっ!」
二人の悲鳴が森に響き渡る。俺は魔獣に向かって突進しようとしたが、魔獣は彼女たちを宙に持ち上げると、まず触手で足首を掴み、空中で吊り下げた。
「大丈夫か! 今助けるぞ!」俺が叫んだ。
「いらないわ!」エレノアが宙吊りのまま拒絶した。「男に助けられるなんて、魔法姫として最大の屈辱よ!」
「そうよ! ボクたちだけで何とかするから!」リリアも同調する。
仕方なく俺は様子を見守ることにした。しかし、魔獣は明らかに知性を持っていた。単純に攻撃するのではなく、二人を弄ぶように振り回し始めたのだ。
触手が二人の足首を掴んだまま、魔獣は彼女たちをぶんぶんと振り回した。
「きゃあああああ!」
「うわああああああ!」
制服のスカートが重力で捲れ上がる。髪は振り乱され、二人は必死にスカートを押さえようとするが、振り回される勢いで手が届かない。
しばらく振り回した後、魔獣は触手で二人の胴体をがっちりと掴んだ。そして——
ドンッ!
エレノアとリリアの胸同士を激しく衝突させた。
「あうっ!」
「きゃんっ!」
二人の豊かな胸が押し潰され、甘い悲鳴が響く。続けて魔獣は二人の身体を反転させ——
バンッ!
今度はお尻同士をぶつけ合わせた。
「んあっ!」
「ひゃあっ!」
柔らかな曲線がぶつかり合い、二人の顔が羞恥で赤く染まる。しかし魔獣のいたぶりは続いた。
最も屈辱的なことに、魔獣は二人の足の付け根同士を押し付け、ぐりぐりと擦り合わせ始めた。
「やっ……やめて……!」
「恥ずかしい……! そんなところ……!」
二人は情けない声を上げた。魔獣は明らかに彼女たちの反応を楽しんでいる。
そして新たな触手が現れ、宙吊りの二人の身体を反応を確かめるようにつんつんと突き始めた。背中、お腹、太腿——そして背後の最も恥ずかしい部分まで。
「あんっ!」
「だめっ! そこは……!」
触手の先端が二人を弄ぶように動き回る。エレノアもリリアも、徐々に抵抗する力を失っていく。
「この魔獣、これまでで最強かも……!」エレノアが苦悶の表情で言う。
「お姉様ぁ……! やだぁ……! こんな魔獣に純潔を奪われるなんて……!」リリアの声には恐怖と絶望が混じっている。
そしてついに、触手が宙吊りのままの二人の太腿の間を狙い始めた。ぬめりのある太い触手がスカートの中に侵入し、下着に触れようとする。
「いやああああ!」
「やめてええええ!」
二人の絶望的な叫びが森に響いた。このままでは本当に純潔が奪われてしまう。
俺は瞬時に判断した。この二人は確かに弱い。だが、鍛え方次第では使い物になるかもしれない。何より、この世界での足掛かりとしては貴重な存在だ。魔法姫という地位を利用すれば、この世界での自分の計画を円滑に進められるだろう。
それに、この場面はさすがに見過ごせない。魔法姫の純潔が奪われる瞬間に立ち会うというのは、さすがに気分の良いものではない。彼女たちを救うことが最適解だ。
俺はアポロナイトの蒼光剣を構え、魔獣に向かって跳躍した。剣から青い光が溢れ出る。
「アポロ・サンダー・スラッシュ!」
蒼光剣から稲妻のような青い光が放たれた。光線は魔獣の腕を貫き、エレノアとリリアを掴む手を切断する。
二人は宙から墜落した。しかしその落ち方も実に無様だった。
リリアは制御を失ったまま回転し、頭から茂みに突っ込んだ。
「うわあああ!」
ガサガサと音を立てて茂みに埋もれ、足だけが空中に突き出している。スカートが完全に捲れ上がった状態でもがいている。
一方エレノアは、またしても運悪く木の枝の上に落下した。
「あああああん!」
足の付け根に枝が激しく打ち付けられ、彼女は悶絶した。枝はその衝撃で折れ、エレノアは折れた枝と共に地面に墜落する。
ドスン!
地面に落ちた二人は折り重なるように倒れ込んだ。エレノアが上になり、リリアが下敷きになった格好で、しばらく動かない。
それでも触手が彼女たちを追いかける。俺は素早く行動した。
「アポロ・ブレイジング・ウェイブ!」
俺は剣を大きく振りかぶり、地面に突き刺した。青い炎のような波動が地上を這い、触手を焼き尽くしていく。魔獣が苦悶の咆哮を上げる。
エレノアとリリアは呆然と俺の姿を見つめている。その表情には恐怖と、かすかな希望が混じっていた。
魔獣は新たな触手を生やし、俺に襲いかかってきた。だが、アポロナイトの力を得た俺にとって、この程度の敵は物足りない。触手を次々と切り裂き、魔獣の体表に傷を付けていく。
「アポロ・ジャッジメント!」
最後の必殺技。剣から放たれた光の波動が魔獣を包み込み、その巨体を光の粒子へと変えていく。爆発と共に、魔獣は跡形もなく消滅した。
あまりの速さに、エレノアとリリアは呆然としている。二人がかりで魔力を振り絞って戦っても勝てなかった敵を、わずか数秒で葬り去ったのだから無理もない。
二人の惨状は目を覆いたくなるほどだった。
エレノアの銀色の髪は茨や葉っぱが絡まって乱れ放題で、高貴な美しさの面影はない。制服のブレザーは汚れと破れでボロボロになり、首元のリボンは完全に歪んでいる。スカートも泥と草の汁で汚れ、プリーツが潰れて形を失っている。白いブラウスには土や葉っぱがべったりと付着し、透けて下着のラインが見えている。
太腿は擦り傷こそないものの、泥と草の汁で汚れている。膝には草の汁と泥がこびりつき、上品な白い肌が台無しになっていた。
リリアも同様で、茶色がかったピンクの髪には小枝や葉っぱが無数に絡まり、まるで鳥の巣のようになっている。制服も姉と同じくボロボロで、特にスカートは先ほど茂みに突っ込んだ際に引っかけたのか、あちこちに小さな破れができている。
顔や手足は泥だらけで、涙の跡が頬に筋を作っている。ブレスレットのピンクの石だけが、汚れの中で不思議と輝いていた。
二人とも、もはや高貴な魔法姫の面影はどこにもない。ただの汚れた少女になり果てていた。
「「うぅぅぅ……っ」」
俺は二人のあまりの頼りなさに溜息をついた。この二人、本当に高貴な魔法姫か? この世界の魔法少女はみんなこんなに弱小なのだろうか?
だがすぐに冷静な思考が戻ってきた。弱いことは悪いことばかりではない。むしろ俺の立場を強固にする好機だ。
絶対的な力で、この世界を支配する——もはやこれは単なる欲望ではない。女神が俺に与えたこの力と出会いは、長年の無力感からの解放だ。
そしてこの二人——彼女たちの魔法としての力は弱くとも、王族としての地位と影響力は計り知れない。女神がわざわざ俺をこの世界に導いたのは偶然ではない。今こそ本当の自分を解き放つ時だ。無力なスーツアクターから、この世界の支配者へ——これこそが俺に与えられた運命なのだ。
「大丈夫か?」
俺はアポロナイトのマスクの下で冷ややかな表情を浮かべながらも、優しく声をかけた。演技だ。いつも通りの演技。心とは裏腹の、ヒーローらしい温かみのある声。
「もう心配ない。お前たちを守ったのは、偶然じゃない。俺にはお前たちが必要なんだ」
エレノアとリリアは複雑な表情で俺を見つめていた。
第5話までお読みいただき、ありがとうございました。次話より武流の師匠としての物語が始動です! 引き続き、よろしくお願い致します。
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