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(58)王宮襲撃事件の真実

 エレノアの青い瞳に怒りの光が宿った。彼女の全身から氷の魔力が爆発的に放出される。この一ヶ月で磨き上げた力が、今、彼女の中で目覚めていた。王宮の石畳が凍りつき、壁には氷の結晶が次々と生まれていく。温度は急激に下がり、息が白く見えるほどになった。


「許さない......二人を傷つけるなんて......」


 彼女の声は震えていたが、それは恐怖ではなく、激しい怒りによるものだった。倒れたリリアとミュウの姿を見て、彼女の中の何かが壊れたかのように――。


「アークティック・フィールド!」


 エレノアが杖を高く掲げると、彼女の周りに氷の粒子が舞い始め、やがて巨大な氷の渦となって王宮全体を包み込む。その威力と美しさに、俺さえも心を打たれた。彼女はこの一ヶ月で、確かに一人前の魔法姫へと成長していた。


「グレイシャル・ノヴァ!」


 エレノアの新しい技だ。氷の渦が収束し、無数の氷の破片となってクラリーチェに襲いかかる。まるで流星群のような光景。どんな防御も貫くほどの鋭さと数で、回避は不可能に思えた。


 しかし――


「ふむ......」


 クラリーチェは小さく指を動かすだけで、全ての氷の破片を停止させた。それらは宙に浮かんだまま、まるで時間が止まったかのように静止している。


「これが一ヶ月の成果か。確かに以前よりは上達しておるな」


 彼女の顔に、わずかに感心の色が浮かんだ。


「だが、まだまだじゃ」


 クラリーチェが指を弾くと、停止していた氷の破片が全て逆方向に飛んでいった。エレノアは素早く「クリスタル・フォートレス!」と叫び、自身の周りに六角形の氷の壁を展開した。氷の破片は壁に激突するが、壁はまだ持ちこたえている。


「エレノア、下がれ!」俺は叫んだ。「あいつは強すぎる!」


 しかし、エレノアの顔には決意の色が浮かんでいた。


「......いいえ。私は逃げない。このままでは王宮に帰る資格はないわ。リリアのために......ミュウのために......そして、あなたのためにも!」


 エレノアの言葉に、俺は胸が熱くなるのを感じた。この一ヶ月で彼女は単に強くなっただけではない。心も成長した。「あなたのためにも」という言葉の裏には、いつか俺を跪かせてみせるという、あの野心があるのだろう。そのためにも、俺の前で無様な戦いは見せられないという意地を感じた。


「王宮に帰るだと?」クラリーチェの声には冷笑が混じっていた。「王女としての資格すらない弱者の戯言よ」


「何ですって!?」エレノアの表情が強張った。


「三年前を忘れたか?」クラリーチェは残酷な笑みを浮かべながら言った。「あの日、おぬしは何もできなかった」


 エレノアの表情が強張る。彼女のトラウマを呼び覚まし、動揺させることで自滅させる。クラリーチェによる精神攻撃であることは明らかだった。


「月光祭の夜じゃ」クラリーチェの声が妙に甘く響く。「王宮には素晴らしい祝宴が開かれておった。そこへ現れた"遠い国からの特使"を覚えておるか?」


 エレノアの表情に一瞬の驚きが浮かんだが、すぐに険しい表情に戻る。「もちろん覚えているわ... ...あの日の事を忘れるはずがない......」


「あの背の高い男が突然漆黒の魔獣に変わり、王と王妃を襲った瞬間......」クラリーチェの目が不気味に輝いた。「おぬしとリリアが恐怖に縮こまっていたさまは哀れであったな」


 エレノアの顔が強ばった。


「そして最も情けないのは、おぬしが恐怖で自らを汚し、"おもらし姫"の屈辱的な異名を得たことではないか?」クラリーチェの瞳が残酷に光る。「魔法姫の威厳も忘れ、泣き叫ぶだけ......父と母の血が流れるというのに、何の役にも立たなかった」


 エレノアの唇が震える。クラリーチェの言葉は彼女の心の傷を深く抉っていた。


 クラリーチェは嘲笑う。「おぬしはもはや王族ではない。弱き者は去るべきなのじゃ」


「お前はあの現場にいたのか?」俺は鋭く尋ねた。「どうしてそこまで詳しく語れる?」


 クラリーチェの笑みが一瞬凍りついた。エレノアも俺の指摘に我に返ったように目を見開いた。


「そうよ......」エレノアの声に気づきが混じる。「あなたはあの日、外交任務で王宮を離れていたはず......」


 エレノアの表情が変わっていく。混乱から疑惑へ、そして次第に恐怖へと。彼女は戦いの姿勢を崩さないまま、クラリーチェをじっと見つめた。


「あなたがいなかった日のことを......」エレノアの声が震える。「どうしてそこまで詳しく語れるの? まるでその場にいたかのように......」


「全てを見ていたからじゃよ」クラリーチェは冷淡に答えた。「星々が見せてくれた。わらわの深淵魔法は時空を超えるのじゃ」


 エレノアの青い瞳に疑念の色が濃くなる。「あなたは......触手の魔獣が父と母を殺した様子まで......見ていたの?」


 クラリーチェは答えず、ただ不気味な笑みを浮かべるだけだった。


「しかも魔獣が逃げ出すところまで見ていたわけね」エレノアの声が徐々に冷たくなる。「あなたほどの力があれば、その魔獣を追跡することもできたはず」


「エレノア」俺は彼女の思考の流れを促すように言った。「あの魔獣、今も行方不明なんだろう? クラリーチェほどの力があれば、見つけ出せたはずだ」


 エレノアの目に閃光が走った。彼女は一歩一歩、論理的に考えを進めていく。「あなたは一部始終を見ながら、魔獣の逃走を許した...。それどころか、私とリリアが王宮から追放されるのも止めなかった......」


 彼女の声が次第に震え始める。恐怖なのか、怒りなのか、それとも悲しみなのか......複雑な感情が彼女の顔に浮かんでいる。


「そして、あなたが王宮の実質的な支配者になった」エレノアの瞳に光が宿った。「あなたは以前からずっと王位を狙っていた......。もしかして......」


 エレノアの顔から血の気が引いていく。彼女の思考が最も恐ろしい結論に達したことが伝わってくる。


「あの王宮襲撃事件は......」エレノアの声がか細くなる。「あなたが仕組んだの?」


 クラリーチェは黙ったまま、ただ不敵な笑みを浮かべている。


「私とリリアを王宮から追放し、王宮に君臨するために......!?」


 エレノアの青い瞳には怒りと憎しみと恐怖が入り混じっていた。


 沈黙が王宮に満ちた。人々が息を呑んで聞き入っている。クラリーチェは冷酷な微笑を浮かべたまま、何も答えない。その瞳の奥には、名状しがたい闇が揺らめいていた。


「答えなさい!」エレノアの叫び声が響く。「あなたが三年前の事件の黒幕なの!?」

本日は連載開始1カ月を記念して、1日に複数話、投稿中! 最後までお付き合いください。

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