表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/229

(56)奴隷解放とエレノア逆ハーレム

 四つん這いのメリッサは、額を石畳につけ、腰を高く突き出したまま、微かに震えている。自ら生み出した炎の首輪に完全に屈服したその様は、あまりに惨めだった。


「……んん……ハァ、ハァ……」


 口からは小さな呻き声が漏れ、目はうつろで、かつての高慢さはどこへやら、完全に打ちのめされていた。魔法少女の衣装は焼け焦げ、体のあちこちから煙が上がっている。


 王宮の人々は遠巻きに見つめている。誰一人として彼女を助ける者はいない。それどころか、人々の目には満足感すら浮かんでいた。


 エレノアもその光景を冷ややかな視線で見つめていた。彼女の青い瞳には、感情の複雑な渦が見える気がした。恐らく彼女は、一ヶ月前、村人たちの前で俺に敗北し、地面に跪かされた時の屈辱を思い出しているのだろう。あの時、彼女は土下座の姿勢で、スカートの裂け目から臀部や下着が見え、多くの村人たちの前で辱めを受けた。


「奴隷を蔑んだ者が、自らの力の奴隷になるとは」エレノアが言った。「まさに因果応報ね」


 彼女の冷たい言葉は、メリッサに向けられているようで、しかし同時に、過去の自分自身に対する言葉のようにも聞こえた。


 メイド長のカトリーヌが颯爽と前に進み出た。


「メリッサ様」彼女はきっぱりとした声で言った。「私たち王宮の者は、今まであなたの横暴に耐えてきました。あなたの魔力に服従せざるを得なかった私たちですが……もうあなたの言いなりにはなりません!」


 王宮の人々からどよめきが起こった。カトリーヌの言葉は、長い間抑圧されてきた彼らの感情を代弁していた。


「エレノア様に敗北したあなたには、もはや王宮を守護する任務は務まらないでしょう。これにて、メリッサ様は王室から解任されたものとします。よって奴隷たちも自由の身となりました」


 カトリーヌの宣言に、王宮全体から安堵と喜びの声が上がる。石畳に伏したメリッサは、もはや反論する力すらなかった。ただうつろな表情でその言葉を受け止めて、悔しさに腰を振るわせている。


「エレノア」俺は静かに彼女に声をかけた。「お前の活躍で、メリッサの暴走を止め、懲らしめることができた。ありがとう」


 エレノアは驚いたように俺を見た。それから、すぐに視線を逸らした。


「勘違いしないで」彼女はそっけなく言った。「あなたのために戦ったわけじゃないわ。私はただ、このムカつく女に復讐したかっただけ。一ヶ月前の屈辱を晴らすために」


「お姉様、ツンデレだなぁ〜」リリアが茶化すように言った。「そんなに照れなくても、アポロナイト様のために頑張ったのは明らかだよ〜」


「うるさい!」エレノアが頬を膨らませる。「そんなことないわ!」


「でも、エレノア様のおかげでアポロナイト様が助かったのは事実なのです」ミュウも猫耳をピクピクと動かしながら言った。


 エレノアは言い返せず、ただ恥ずかしそうに俯いた。


 その時、ケイン、ルーク、サイモンの三人が近づいてきた。彼らは揃って跪き、エレノアの前で頭を下げた。


「なっ……?」エレノアがビクッと見下ろす。


「エレノア様!」ケインが真剣な表情で言った。「俺たちは今日から自由の身となりました。しかし、その自由をもってお願いします。俺たちをあなたの奴隷にしてください!」


「ええっ!?」エレノアが驚いて声を上げた。


「俺は筋肉に自信があります」ケインが胸を張る。「夜のお相手として、エレノア様を満足させる自信があります!」


「ちょっ……! 夜の相手って……! いきなり何を言い出すの!?」慌てふためくエレノア。


「いや、僕こそが最適です!」ルークも負けじと言った。「繊細なテクニックで、エレノア様に最高の喜びをもたらします!」


「二人とも下がりなさい」サイモンは眼鏡を上げながら冷静に言った。「私の知識と計算に裏打ちされた技術は、エレノア様に至高の快楽をお約束します」


 エレノアの顔が見る見る真っ赤になっていく。


「な、な……何を言ってるの! 奴隷なんて、私は......!」


「あらら〜、お姉様、もてもてだねぇ」リリアがくすくす笑いながら言った。


「いいご身分なのです!」ミュウも猫耳を興味深げに動かした。


 俺も思わず笑いが込み上げる。「メリッサの奴隷から、エレノアの奴隷に出世ってわけか。良かったな、お前たち」


「はい!」と三人の男たちは笑顔で溌剌と答える。


 エレノアが顔を抱えて叫んだ。「だから! 男性とベッドを共にするなんて、そんな関係は......!」


 彼女はその光景を想像するかのように一瞬目を閉じ、そして、慌てて首を振った。


「ダメよ! 私は奴隷を所有したりしない! 男だからって、女に従う必要なんてないのよ! 第一、あなたたちはもう奴隷じゃないんだから! 自由に生きなさい!」


 エレノアの奴隷解放宣言に、三人の表情が変わった。彼らは明らかに残念そうだったが、同時に彼女を尊敬する眼差しも浮かんでいた。


「さすがエレノア様!」ケインが感嘆する。「スターフェリアの歴史に残る奴隷解放宣言です! 高潔すぎます!」


「今のお言葉は、王宮の歴史に刻まれ、後世まで語り継がれることでしょう! エレノア様のお優しさに、僕はますます惚れてしまいました!」ルークも付け加えた。


「エレノア様こそ、王宮にふさわしい真の魔法姫です! 私もすっかりあなたの虜になりました!」サイモンも真剣な眼差しで言った。


「も、もう! からかわないで!」エレノアは顔を真っ赤にしながら言った。


 この一ヶ月でエレノアは大きく成長していた。かつて俺が村に来た時は、男を見下し、村人たちを隷属させていた彼女が、今は奴隷解放を喜び、奴隷たちに慕われている。彼女の心の変化は、これまでの特訓や共に過ごした時間の証しだった。


 ケインが口を開いた。「やはり、これから俺たちが従うべきはエレノア様です! 奴隷ではなくて構いません。せめて我々を弟子にしていただけないでしょうか!?」


「弟子!?」とエレノア。


「お願いします!」「この通りです!」ルークとサイモンも頭を下げる。


「いいのか?」俺が口を挟む。「エレノアは王宮を追放された身だぞ。そのエレノアの弟子になるということは、王宮に反旗を翻すようなもんだろ」


 三人の奴隷たちは顔を見合わせ、やがて答えた。


「……構いません」とケイン。「今の王宮を支配するお方は、とても横暴で……」


「メリッサ様の比ではありません」とルーク。


「あの方に怯えて生きるくらいなら、エレノア様のために生きます!」


 “あの方”とは、クラリーチェのことを指しているのは明らかだった。


「いいだろう」俺は言った。「エレノアの弟子になればいい」


「ちょっと……!」エレノアが慌てた。「なんであなたが勝手に……」


「俺はお前を鍛え、育てた男だぞ。その俺が許可するんだ。エレノア、いいだろう?」


 エレノアが答えるまもなく、ケイン、ルーク、サイモンが歓喜の声を上げた。「ありがとうございます!」


 そして、エレノアの前に跪き、代わる代わるエレノアの手の甲にキスをした。


「エレノア様! どうか俺たちをお導きください!」


「僕らの永遠の女神! エレノア様!」


「今日は王宮の奴隷解放記念日だ! エレノア様、万歳!」


 イケメンたちに囲まれて、エレノアは赤面し、ただもじもじすることしかできない。逆ハーレム状態のエレノアを、俺とリリアとミュウはニヤニヤと見つめていた。


 ところが、その時――


「あっ!」


 突然、ミュウの猫耳がピンと立ち、全身が緊張した。彼女は本能的に何かを察知したようだった。


「どうした、ミュウ?」俺は警戒しながら尋ねた。


「何か... ...近づいているのです」ミュウの声は震えていた。「わたくしの猫族の感覚では......前代未聞の強大な魔力......なのです」


 エレノアとリリアも顔色を変えた。二人の表情には明らかな恐怖が浮かんでいた。


「まさか......」エレノアが呟いた。


「お姉様、もしかして...」リリアの声も震えている。


 うつ伏せのままのメリッサも、ビクッと怯えたように王宮の建物に視線を向けた。


 その時、王宮の大扉が突然開いた。扉が開く音はなく、ただ空間そのものが分断されたような感覚だった。そこから流れ出してきたのは、夜の闇のような漆黒のオーラ。


「何者だ?」俺は蒼光剣を構えた。


 小さな足音が静かに響く。


 王宮の中央に現れたのは、一人の少女だった。


 一見するとわずか7歳ほどの幼い少女だ。


 まさか、この幼女が――クラリーチェ?

本日は連載開始1カ月を記念して、1日に複数話、投稿中! 最後までお付き合いください。

ぜひブックマークや★★★★★評価をいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ