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(53)リベンジ戦! エレノアVSメリッサ

本日、連載開始1ヶ月を記念して、複数回投稿します! どうぞお付き合いください。

「させないわ!」


 エレノアが突然駆け出した。彼女の青白い髪が風を切り、眼光が鋭く闇を穿つ。魔法杖を力強く構え、氷の魔力を全身に纏いながら、メリッサに向かって一直線に突進していく。


 俺は驚きに目を見開いた。いつもクールで冷静なエレノアが、こんな感情的な行動に出るなんて。しかも自分から進んでメリッサと戦おうとするなんて......。一ヶ月前、惨めに打ちのめされた相手に立ち向かう勇気。これは彼女の中で何かが変わった証拠だ。


「はあ!?」メリッサが驚きの声を上げた。「なんでアンタがしゃしゃり出るのよ!? おもらし姫!」


 エレノアの周囲に氷の粒子が舞い、周囲の温度が急激に下がっていく。彼女の足元から放射状に広がる氷の結晶が床を覆い、王宮の床が凍りつく音が響き渡った。


「メリッサ! アポロナイトをあなたなんかに渡すものですか!」


 彼女の声には、これまで聞いたことのない激しい感情が込められていた。


「あなたごときがアポロナイトにプロポーズするなんて、百万年早いわ!」


「あらあら、妬いてるの?」メリッサが嘲笑うように言った。「でも残念、アポロナイト様はアタシのもの。あなたなんかよりアタシの方がずっと彼に相応しいわ」


「妬いてるわけじゃないわ! あなたのことがムカつくだけよ!」


 メリッサも戦闘態勢をとった。彼女の周りを炎が舞い、王宮の石畳が焼け焦げていく。二人の間に立ち上る蒸気が、彼女たちの緊張を視覚化しているようだった。


「強がっちゃって! アンタ、前回の戦いを忘れたの?」メリッサが嘲りの笑みを浮かべる。「あの時、アンタの氷なんてアタシの炎であっという間に溶かされたのよ?」


 エレノアの表情が一瞬曇った。一ヶ月前の敗北の記憶がよみがえったのだろう。だが、すぐに彼女は「フリージング・ストーム!」と叫んだ。


 無数の氷の粒子が放たれ、暴風雪のようにメリッサへと襲いかかる。


「はっ! そんなの通じないわ!」


 メリッサは両手を広げ、炎の円が彼女の周りを取り囲み、エレノアの氷の嵐を溶かし始める。いちいち技名を叫ばないのが彼女のスタイルだ。


「ムダムダ、いちいち技の名前なんて叫んでるから隙だらけなのよ」メリッサは笑った。「氷は炎に敵わない。それが魔法の基本よ」


 だが、以前とは何かが違った。


「……えっ?」


 メリッサの顔に驚きの色が浮かんだ。氷の粒子が彼女の炎の壁を突き破り始めた。


「ぐっ!なんで!?」


 エレノアは冷たく微笑んだ。「一ヶ月前の私じゃないわ」


 彼女はさらに魔法杖を振るい、「アイスジャベリン!」と叫んだ。巨大な氷の槍が十数本、一斉にメリッサに向かって飛んでいく。


 メリッサは慌てて身をひるがえし、炎の剣を振るって氷の槍を打ち払おうとする。だが、一本二本は防げても、次々と襲いかかる氷の槍に対応しきれず、彼女の衣装が何箇所も切り裂かれた。


「きゃあっ!」


 メリッサが悲鳴を上げる。彼女の魔法衣装は裂け、見苦しい姿となった。


「馬鹿にしないで」エレノアの声に冷たい満足感が滲んでいた。「技の名前を叫ぶことで、魔力は増幅される。それが魔法少女の基本よ」


「お姉様、頑張って!」リリアが応援の声を上げた。「師匠を……! アポロナイトを守るのはボクたちなんだから!」


「そうなのです! 私たちの方がアポロナイト様への愛は深いのです!」ミュウも猫耳を情熱的に揺らしながら叫んだ。


 俺は彼女たちの熱烈な声援に苦笑した。三人とも俺のことを... ...いや、アポロナイトのことを本気で想っているようだ。こんな風に三人もの魔法少女に心を寄せられるとは......。


「くっ......まだまだよ!」


 メリッサが叫ぶと、その全身から炎が爆発的に噴き出した。その体が赤く光り、裂けた衣装が炎で修復されていく。炎の魔力が彼女の体を内側から強化していくのが見て取れた。


「アタシだってこの一ヶ月、ただ遊んでいたわけじゃない! アタシの炎は不滅なの!」


 彼女は再び炎の剣を構え、力強く前に振り下ろした。剣から炎の斬撃が放たれ、エレノアに向かって飛んでいく。


 だが、エレノアはその斬撃が到達する直前、「クリスタル・フォートレス!」と叫んだ。彼女の周りに透明な六角形の結晶が次々と出現し、幾何学的な要塞を形成する。メリッサの炎の斬撃は、その結晶の壁に吸収され、エネルギーを失っていく。


「何ですって!?」メリッサが目を見開いた。


 その光景に、リリアが思わず声を上げた。「すごい!お姉様、新しい技を......!」


「あれは、以前なかった技なのです......」ミュウも猫耳を驚きで揺らした。「素晴らしいのです!アポロナイトのための新技なのです!」


 俺は状況を冷静に観察しながら、内心で感慨に浸っていた。エレノアは俺の特訓で確かに強くなった。だが、それだけではない。彼女自身の努力と才能、そして何より、心の成長が彼女を変えたのだ。そして今、彼女はアポロナイト、つまり俺のために戦っている。この高慢な王女がここまで誰かのために戦うなんて...。


「あなたなんかには理解できないでしょうね」エレノアが氷の杖を振りかざした。「アポロナイトは私たちを高めてくれた。アポロナイトは、私の越えるべき存在! 私が跪かせる存在! 頭の中がお花畑のあなたとは違うのよ!」


 俺はマスクの中でニヤリとする。エレノアの中から、俺を跪かせるという野心は消えていないのだ。


 メリッサは歯噛みし、再び攻撃態勢に入った。しかし彼女の表情に、一抹の不安が見えた。以前のように簡単には勝てないと悟ったのだろう。


「いちいち長々と説教してる暇があったら、もっと戦いに集中した方がいいわよ」


 彼女はそう言いながら、炎の剣を振りかざした。炎の波がエレノアに向かって飛んでいく。


「グレイシャル・ニードル!」


 エレノアは指先から微細な氷の針を放った。無数の氷の針が空気を切り裂き、メリッサの周りを飛び交う。数があまりに多く、メリッサはすべてを避けることができず、彼女の華やかな衣装は針で穴だらけになり、再び惨めな姿になった。


「くっ......! こんなの......!」


 メリッサは苦しげに言いながらも、諦めようとはしなかった。「アタシの心はアポロナイト様に燃えている! この気持ち、どんな氷でも消せないわ!」


 彼女は両手を高く掲げた。彼女の全身が燃え上がり、その背後に巨大な炎の翼が現れた。周囲の温度が一気に上昇し、王宮の天井に近い装飾品が熱で溶け始める。


「アポロナイト様はわたくしたちのものなのです!」ミュウが猫耳を情熱的に揺らした。「わたくしたちにとって、アポロナイトは唯一無二の存在なのです!」


「そうだよ! アポロナイトと私たちは特別な絆で結ばれてるんだから!」リリアも熱く叫んだ。


 俺は彼女たちの言葉に内心戸惑いながらも、純粋な気持ちに心を打たれた。エレノアも彼女たちの声援を受け、より一層力強く魔法杖を掲げた。


「声援ありがとう、二人とも」エレノアが少し照れた様子で言いながらも、すぐに戦闘態勢に戻る。「アポロナイトを守るのは、私たちの役目よ!」


 だが、メリッサは諦めない。


「地獄の業火よ! アタシの愛の炎となれ!」


 メリッサの周りを巨大な炎の竜巻が包み込み、その威力は一ヶ月前の比ではなかった。それは確かに恐ろしい魔力だった。だが、エレノアは動じなかった。


「愛? あなたの心に本当の愛なんてないわ」エレノアは冷たく言った。「人を所有物としか見ていない人間に、アポロナイトを語る資格はない」


「アンタに何がわかるっていうの!」メリッサの叫び声が響く。「アタシはアポロナイト様のことを......!」


「黙りなさい!」エレノアの声が氷の刃のように鋭く切れた。「百万年早いって言ったでしょう!」


 エレノアの魔力が極限まで高まっていく。王宮全体が寒気に包まれ、床も壁も天井も、すべてが氷の結晶で覆われていった。メリッサの業火さえも、その寒気に押されて後退していく。


「見せてあげる、私の本当の力を......」


 エレノアの青い瞳に決意の光が宿り、彼女は杖を高く掲げた。「アイス・シンフォニー!」


 王宮中の水分が集まり、エレノアの周りに無数の氷の華が咲き乱れた。それは見事な芸術作品のようでもあり、凶器のようでもあった。優美で美しく、同時に鋭利で危険な――まさにエレノア自身を象徴するような氷の造形だった。


「な、何これ......!」メリッサの顔から血の気が引いた。


 エレノアが杖を前に突き出すと、氷の華が一斉にメリッサに向かって飛んでいった。あまりの数の多さに逃げ場はなく、メリッサの衣装は氷の華に切り裂かれ、さらにボロボロになっていく。


「きゃあああああああ!」


 悲鳴と共に、メリッサの体が壁に叩きつけられた。彼女の炎の衣装は寒気に打たれ、輝きを失っていく。かつては華やかだった魔法少女の姿も、今は布切れをまとうような惨めな姿となった。


「あなたは私に恥辱を与えた」エレノアが静かに言った。「あの日、王都の広場で、みんなの前で......」


 彼女は一歩一歩、メリッサに近づいていく。その姿は氷の女王そのものだった。「そのお返しよ」


「アンタなんか......アタシには......」メリッサは惨めな姿で、まだ戦う気概を見せていた。


「もう十分よ」エレノアは冷たく言った。「あなたの炎は私の氷で消し去られた。認めなさい、敗北を」


 メリッサは地面に膝をつき、俯いた。だが、その表情には屈辱と怒りが混ざり合っていた。


「認めない......認めない......」


 彼女は震える手で炎の剣を握りしめた。「アタシの愛は......決して消えない......」


 そして突然、彼女の目に狂気の光が宿った。「みんな......消えてしまえ!」

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