(52)破滅的ポジティブ! 超メンヘラ魔法少女
「だって、アポロナイト様! あなただってその魔法少女たちを奴隷みたいに所有してるじゃない!」
メリッサが真っ赤になって叫んだ。
「ん? エレノアたちのことか?」
俺はこの茶番を見守っているエレノア、リリア、ミュウを見た。
「彼女たち奴隷じゃない。俺の所有物でもない。自ら望んで俺と共にいるんだ」
「そうだよ!」とリリア。
「まあ、私は『師匠』って呼ぶつもりはないけど」とエレノア。
「武流様は素晴らしい紳士なのです! わたくしたちを奴隷扱いなんて絶対にしないのです! しかも、わたくしがドMだと知っても受け入れてくれたのです!」とミュウ。
「ドM......?」メリッサが困惑してミュウを見る。
「ハッ!」慌ててミュウが口を押さえる。「今のは忘れてくださいのです!」
俺は苦笑してミュウを見つめる。
「わかったわ」メリッサは急に冷静になったように言った。「アポロナイト様、あなたは奴隷制度が嫌いなのね。そういうことなら、アタシ、改めるわ」
彼女は三人の奴隷たちに向き直った。「ケイン、ルーク、サイモン、あなたたちは今日から自由よ。首輪を外してあげる」
メリッサが指をパチンと弾くと、三人の首の金色の首輪が、音もなく外れた。自由になった三人は、唖然と立ち尽くしている。ケインはその首筋を触り、信じられないという表情を浮かべ、ルークは解放の喜びに小さく笑みを漏らした。サイモンは膝から崩れるように座り込んだ。
「ほら、これでいいでしょう?」メリッサは俺に向かって明るく言った。「結婚してくれる?」
「ふざけるな」俺は冷たく言った。「彼らを解放したからといって、お前と結婚するわけじゃない」
メリッサは茫然とした表情になった。「まだダメなの?」
「お前のような下品で自己中心的な女とは結婚できないと言ってるんだ」
「下品!?」メリッサが怒りと屈辱に震えた。「自己中心的!?」
「そうだ」俺は冷静に言い切った。「お前は自分の快楽と欲望のためだけに人を利用する。しかも酷い男性蔑視だ。そんな女とは結婚できない」
メリッサは一瞬言葉を失った。しかし......
「......ふっ」
彼女の表情が突然、悟ったような微笑みに変わった。
「わかったわ。本当はアタシのことが好きなのに、みんなの前だから照れて素直になれないのね?」
「はあ?」俺は素っ頓狂な声を上げた。
「そうよね〜」メリッサは急に甘えた声で言った。「アタシみたいな美人に熱烈にプロポーズされて、びっくりしちゃったのよね? 本当は嬉しいけど、恥ずかしくて素直になれないだけなのよね?」
「いや、違う」俺は真剣に否定した。「本当に断っているんだ」
「あら、照れ屋さん♡」メリッサは両手を頬に当て、うっとりとした表情になった。「強がっちゃって。でも大丈夫よ、アタシは待ってあげる。あなたの気持ちが整理できるまで」
「いや、もう気持ちは整理できている」整理するまでもないのだが。「断ると言っただろう」
「ホント、強がりね!」メリッサはくすくす笑った。「アポロナイト様ったら、意地っ張りなんだから〜!」
エレノアがため息をついた。「この女、全く救いようがないわね......」
「ボク、こんなポジティブな人、初めて見た」リリアが呆れた声で言った。
「完全にイカれてるのです......」ミュウの猫耳が困惑で左右に揺れていた。
解放されたケイン、ルーク、サイモンの三人も呆れた表情で顔を見合わせている。
「アポロナイト様!」メリッサが突然真剣な表情になった。「あなたがすぐに結婚を決めてくれないのなら、アタシは生涯をかけてあなたを愛し、あなたを口説き落とすわ!」
「いや、結構だ」
「遠慮しないで!」メリッサの目が情熱的に光る。「アタシはあなたのために、何だってする! 料理も掃除も、もちろん夜のサービスも......」
「料理? 掃除?」俺は思わず聞き返した。「お前、そんなことできるのか?」
「え?」メリッサは一瞬沈黙した。「できる......わよ?」
その言葉に、王宮の人々から小さな失笑が漏れた。
「メリッサ様は包丁を持ったことすらないわ」あるメイドが小声で言った。
「掃除は、いつも私たちにさせるばかりで......」別のメイドも囁いた。
「料理も掃除もできないなら、何ができるんだ?」俺は率直に尋ねた。
「だ、だって、アタシは魔法少女よ!」メリッサは弁解した。「魔法で何でもできるもの!」
「魔法で家事をするのか?」俺はもう呆れを通り越していた。
「そうよ! ほら、こんな感じで!」
メリッサは炎の杖を振るった。炎が空中で舞い、皿の形を作り出す。だが次の瞬間、制御を失ったのか、その炎の皿が俺の足元に落下し、床を焦がした。
「あら......ちょっとしたミスよ」メリッサは汗を拭った。「でもね、練習すれば......」
「もういい」俺は手を上げて彼女を止めた。「メリッサ、俺はお前とは結婚しない。俺には、既に大切な人たちがいる」
俺の視線は、エレノア、リリア、ミュウへと向けられた。三人の魔法少女たちは、その言葉に少し驚いたような表情を見せた。
「あの村で、俺は彼女たちに出会った。彼女たちと一緒に高め合い、絆を育んできた。それに比べれば、お前はただの......」
「ただの、何?」メリッサの声は震えていた。
「ただの......敵だ」俺ははっきりと言い切った。
王宮に静寂が広がる。メリッサの表情が曇った。彼女の周りから炎が静かに立ち昇り、怒りを抑えようとしているのが明らかだった。
次の瞬間――
「なるほど!」メリッサは突然元気を取り戻した。「恋敵、つまりライバルがいるのね! エレノア、リリア、ミュウという三人が! だから一人に決められないのね!」
「............はあ?」
俺たちは四人同時に呆れた声を上げた。
「アポロナイト様の心を奪い合うライバルがいるなら、アタシも負けてられないわ!」メリッサの目が決意に燃えた。「アタシはね、負けず嫌いなの! 絶対に諦めないわ!」
「メリッサ、お前......」俺は呆れて言葉を失った。
「これからアタシは、あなたの心を射止めるために全力で頑張るわ!」メリッサは情熱的に宣言した。「その三人に勝てるように、料理も掃除も、女としての魅力も、全て磨き上げてみせる! そして、あなたを必ず振り向かせてみせるわ!」
「いや、だから......」
「アタシの魔法の名前は『不屈の炎』! 一度火がついたら、絶対に消えない。あなたを振り向かせるまで、この恋の炎は絶対に消さないわ!」
エレノアが小声で言った。「信じられないレベルのポジティブ思考ね......」
「超メンヘラ......」リリアも呆れた声で呟いた。
「理解不能なのです......」ミュウの猫耳が混乱で倒れていた。
三人の元奴隷たちもただ呆然と見守るばかりだった。
俺は断言した。「もう一度ハッキリ言う。お前と結婚するつもりはない。あきらめろ」
そして、蒼光剣をメリッサに突きつけた。
「......っ!」
メリッサの表情が次第に変わっていく。笑顔から悲しみ、そして怒りへ。彼女の周囲にゆらめいていた炎が、急速に濃く、激しくなっていった。
「そんな......。嘘でしょ? こんなに愛してるのに......」メリッサの声が低く、冷たく響いた。「アポロナイト......あなたは私に恥をかかせた」
彼女の目に怒りの炎が宿る。周囲の人々が怯えて後ずさった。
「私の愛を、私の心を、こんな公の場で踏みにじるなんて......」メリッサの炎がさらに燃え上がる。「私を拒絶した者に、幸せな結末は訪れない......」
彼女は炎の剣を掲げると、その炎が勢いよく燃え上がった。
「アポロナイト! この恥辱の代償、払ってもらうわ!」
メリッサの体の周りに炎が渦巻く。王宮の床が彼女の足元で焦げ始め、空気は熱気で揺らめいている。
彼女は一歩も引かず、俺と対峙したまま。俺も蒼光剣を構え、いつ襲いかかってきても対応できるよう身構えた。
その時――