(4)魔法少女、純潔の危機!
エレノアが杖から攻撃を放とうとした、その時、森の奥から新たな咆哮が響いた。先ほどとは異なる、より大きな魔獣の影が木々の隙間から見えた。
「未知の大型魔獣よ!」エレノアの声に緊張が走る。
「またかよ」俺はアポロナイトのマスクの中で呟いた。「しかもさっきよりデカいな。続けざまに重めのアクションとは……。撮影なら一日のノルマオーバーだ」
「ノルマ……?」リリアがキョトンとしている。
「いや、こっちの話だ」
俺の体が自然と戦闘態勢に入る。蒼光剣を手に、両膝を軽く曲げ、重心を下げた。やがて森の向こうから巨大な魔獣が姿を現した。
膨大な黒い粘液から構成されたような不定形の体躯。そこかしこから無数の触手が伸びている。その先端は吸盤状になっており、粘液を滴らせていた。頭部には赤く光る一つの大きな目があり、全てを見通すような邪悪さを放っている。
「着ぐるみともCGとも違う。ホンモノの魔獣はリアリティが違うな……。お前たちにアレが倒せるのか?」
その問いには答えず、エレノアがいきなり俺に向かってきた。足取りは軽やかで、まるで氷上を滑るような優雅さがあった。杖から氷の矢を放つ。
「おいおい、攻撃する相手が違うだろ!」
ジャンプして軽々とエレノアの氷の矢を避ける。直後、魔獣の触手も俺めがけて伸びてきた。蒼光剣を振るい、切断する。だが切断された部分からは粘液が飛び散り、新たな触手が再生し、さらに向かってくる。
「新種の魔獣、あなたが先よ!」エレノアは冷徹に言い放った。
「女の子をじっと見てるところを見ると、あなたきっと女の子の体に触りたいんでしょう? 魔獣の本性、丸見えだよ!」
リリアが意地悪げな微笑みを浮かべ、杖を振るった。花びらの魔法が俺めがけて飛来する。ピンクの花びらが可憐に舞い踊りながら、しかし鋭い刃となって俺を切り裂こうとする。
「だから何度も言ってるけど、魔獣じゃないって……」
俺は軽やかに横跳びして花びらの雨を避ける。続けてリリアが杖を地面に突き、魔法の蔦を伸ばしてきた。俺の足元から絡みつこうとする緑の蔦を、俺は軽いステップで躱し続ける。
魔獣と2人の魔法少女、全ての相手をしなければならず、さすがの俺も痺れを切らす。少しお仕置きしてやるか。
「すばしっこいなあ!」リリアがぷんぷんと頬を膨らませながら、今度は巨大な花の魔法弾を放ってくる。しかし、その攻撃も直線的で読みやすい。俺は回し蹴りで弾き返した。
花の魔法弾はリリア自身に向かっていき、命中した。
「うわぁー!?」
リリアが派手に吹っ飛んで地面を転がった。自らが生み出した魔法の蔦が身体にぐるぐる巻きに絡まってしまう。
そこへ、魔獣の無数の触手がうねりながらリリアめがけて伸びてくる。粘液を滴らせた吸盤が、無防備な少女の太腿の間を狙っていた。
「くそっ!」
俺はとっさにリリアに駆け寄り、彼女の身体に絡みついた蔦の端を掴んで強く引っ張った。リリアは引っ張られて地面に転がり、間一髪で触手が届く範囲からギリギリで逃れる。
「な、何するの! いきなり引っ張らないでよ!」
リリアは激痛に顔を歪めながら、不満げに俺を睨みつける。彼女は蔦に絡まったまま身動きが取れず、不自然な開脚の体勢で上半身を起こしていた。
俺は「悪かった!」と謝りつつ、魔獣の触手を斬り払う。リリアはむくれ顔のまま、なんとか上半身を起こして立ち上がった。
その時、新たな触手が素早く伸びてきて、再びリリアに迫る。
「危ない!」
俺はまた蔦を掴んで引っ張った。しかし、今度は加減を誤ってしまった。強く引っ張りすぎた蔦が、リリアの正面から背中にかけて、太腿の間に激しく食い込む。
「あぁっ……あ、あぁんっ!」
リリアは悲鳴とも喘ぎともつかない声を上げて悶絶した。身体が跳ね上がり、腰がくの字に反り、両手は必死に足の付け根を押さえている。強烈な痛みに、リリアの美しい顔は苦悶に歪み、唇はわなわなと震えている。
「ふ、ふざけないでよ……! こんな、こんな破廉恥な……」
触手は俺がかろうじて切り裂いたが、リリアは全身を震わせている。一本の蔦がめり込んだその光景は、あまりにも惨めだった。
一部始終を見ていたエレノアが冷ややかに言う。「卑怯で穢らわしい力ね。やはり生まれつき低能な男に、繊細な魔力制御はできないわ。あなたの力は星の祝福ではない! 他の男と同様、力だけが取り柄の下等な獣ね」
俺は魔獣による触手の一撃を剣で受け止める。「何だ、そりゃ。この世界の男性はそんなに地位が低いのか?」
エレノアの杖から放たれた氷の矢が俺に向かってくる。俺は触手を引き寄せ、盾代わりにした。氷の矢は触手に突き刺さり、黒い体液が周囲に飛び散る。
「男は生涯、魔法姫に仕え、魔法姫に尽くす。労働以外では何の役にも立たない。そんなことは常識でしょう?」
魔獣の体から伸びた新たな触手が地面を叩き、衝撃波が走る。俺は軽々と跳躍して回避。着地しながら「マジか。なんて世界に来ちまったんだ……」と呟いた。
現実世界でも明日香の策略で男としての尊厳を踏みにじられ、ここでも男というだけで最初から敵視される。俺はどこに行っても、男であることで理不尽な扱いを受ける運命なのか。あの女神は俺に真の力を与えると言ったが、この状況は明らかに別の試練だ。俺に何を学ばせようとしているのか……。
エレノアは杖を高く掲げた。その一挙手一投足には、凛とした美しさがあった。しかし俺の目には、彼女の戦闘スタイルの欠点が見えていた。攻撃時に防御が手薄になる。相手の動きを読むより、自分の魔法の発動に集中しすぎる。
「男は魔法姫の前に跪くのが当然よ!」
エレノアが杖を振ると、氷の槍が俺の膝を狙って飛来した。俺は軽く膝を曲げて避ける。しかし、彼女の攻撃は止まらない。
「跪きなさい!」
今度は氷の鎖が俺の足首を狙う。俺は跳躍してかわすが、着地と同時に氷の棘が地面から突き出す。エレノアは俺を地面に這いつくばらせ、屈服させようとしている。
「魔獣は魔法姫にひれ伏すべき存在よ!」
エレノアの連続攻撃。氷の矢、氷の刃、氷の槍——全て俺の膝や足首を狙った、跪かせるための攻撃だった。しかし、どの攻撃も感情的で精度に欠けている。
彼女が杖から放った凍てつく風が俺へと向かってきた。それを回避しようとした時、エレノアの攻撃に気を取られている隙に、魔獣の触手が不意に足首を捕らえた。
「おっと!」
俺は蒼光剣で触手を切断して逃れる。続けざまに氷を弾き飛ばした。「重心が高い。足の踏み込みが浅い。魔力が分散してる。それじゃあ命中しないぞ」
俺の言葉にエレノアの美しい顔が怒りで歪んだ。しかし、それさえも高貴さを失わなかった。
「何ですって? 10年間、毎日欠かさず魔法の鍛錬を積んできたのよ」
「そんなに続けてるのに基礎がなってないのがもっと問題だ。誰に教わってるんだ?」
「自己流よ。私に教えを請うものはあっても、私が師を求めることなどないわ」
「師匠がいないのか。それじゃあ伸びしろがないのも当然だ。気の毒に……」
「いちいち癪に触るわね」エレノアの顔がますます歪む。
エレノアが再び俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。氷の刃を連続で放ちながら、自らも杖を手に接近戦を挑む。しかし、その攻撃は先ほどよりもさらに荒々しく、怒りに任せたものだった。
杖を薙刀のように振り回し、俺の頭部を狙う。俺は身体を逸らして避ける。続けて突きが来るが、これも直線的で読みやすい。俺は半歩下がって回避した。
エレノアの攻撃は美しいが実戦的ではない。感情的になればなるほど、その隙は大きくなる。俺は最小限の動きで全ての攻撃を躱し続けた。
俺は内心、苦笑していた。どこの世界でも、基礎を疎かにする若手はいるものだ。特撮の現場でも、迫力のあるアクションばかり練習して、受け身や足腰の強化を怠る新人をよく見てきた。
魔獣の触手が再び俺に絡みつく。全身に巻き付いた触手が、アポロナイトの装甲を締め付ける。
「こいつは厄介だな」
俺は体を軸にして回転し、蒼光剣を螺旋状に振るう。青い光の軌跡が描かれ、絡みついた触手が一斉に切断された。だが魔獣の本体はまだ健在だ。切断された触手の断面から、より太く強靭な触手が生えてくる。
エレノアは、ようやく俺ではなく魔獣を相手にするべきだと判断したらしく、その巨体に向かっていく。蔦が身体に絡まっていたリリアも、ようやく太腿の間に食い込んでいた蔦を取り払い、姉に続く。だが、姉妹で戦うにしても連携が取れていない。
「え〜い! こっちだよ〜!」とリリアが魔獣に向かって花の魔法を繰り出す。花系の魔法で、攻撃範囲は広いが威力が弱い。彼女の動きはエレノアよりも軽快だが、集中力に欠ける。戦闘中も余計な仕草が多い。男性を挑発するような態度は、彼女なりの戦術なのかもしれないが、魔獣相手には効果薄だろう。
魔獣が咆哮と共に突進してきた。巨大な体が地面を揺らす。エレノアは冷静な判断力を失わず、最後の力を振り絞り、杖を掲げる。「はあああああっ!」
氷の嵐が魔獣に襲いかかるが、効果は薄い。俺の分析通り、彼女の魔法は見栄えが良いだけで、威力に欠ける。魔法の性質も相手に合っていない。この魔獣は火炎系の特性を持っている。氷で攻めるなら、一気に急所を狙うべきだ。
魔獣はわずかに怯むだけで、すぐに突進してくる。エレノアは咄嗟に身をかわそうとしたが、避けきれず、魔獣の腕に弾き飛ばされた。
「きゃああっ!」
高貴な魔法姫の悲鳴が森に響き渡った。
俺は魔獣の触手を次々と切り裂きながら、彼女が飛ばされる方向を見た。回転しながら宙を舞い、木々の枝をへし折りながら上昇する。
「くっ! 負けない!」
彼女はとっさに空中で体勢を立て直した。目前に大きな木の枝がある。ひらりと身を翻すと、その枝に着地しようとした。
その動きは実に美しかった。が——
「っ!」
体幹の弱さのせいだろう。着地に失敗した。片足を滑らせ、バランスを崩した瞬間、開脚のまま枝に跨るような形で激突する。
「あぁんっ」
悲痛な声が森に響いた。
俺は思わず顔をしかめた。これは痛い。特撮の現場で男性のアクターが同じミスをしたら、確実に撮影中断だ。場合によっては救急車が出動する。
「おーい、大丈夫かー?」俺は触手を切り裂きながら声をかけた。
エレノアは答えず、枝の上でだらしなく足を開いたまま、痛みに体を痙攣させている。下から見上げた限り、枝のせいでスカートが完全に捲れ上がってしまっている。足の付け根が白い下着もろとも枝に食い込んでいて、身体に力が入らないようだ。
なんとか両手で枝を押して下半身を浮かせたのは良いが、途中で力尽き、再び枝に勢いよく落下した。
「あぁん……!」
激痛に両足を大きく開き、上半身を反らした。胸を高く上げ、腰を突き出して震えている。枝が先ほどよりも深く身体にめり込んでしまい、シースルーのスカートの下のブルーのミニスカートが捲れ上がり、純白の下着が丸出しになっている。枝の上で体を弛緩させるその姿は、まるで自らの敏感な箇所を枝に擦りつけているかのような醜態だった。
俺はその間も冷静に戦況を分析していた。彼女は防御よりも攻撃に特化したタイプだ。そういう魔法少女は一般的に受け身が弱い。今のミスがその証拠だ。
その時、木の枝の向こうから、魔獣が彼女を狙ってきた。巨大な影が迫り、太い触手が伸びてくる。それはまっすぐエレノアの足の付け根に伸びていく。
この世界の魔獣は、ただ攻撃するだけではない。どうやら、魔法姫の力の源である「純潔」を奪うことで、彼女たちを無力化しようとしているらしい。なんとも下劣な戦術だが、戦略としては理にかなっている。
「くっ、放っておけないな」
俺は蒼光剣を振って、エレノアの乗る枝へ光の刃を飛ばし、枝を切断した。魔獣の触手が足の付け根に届く前に、エレノアは枝から落下した。
「きゃああっ!」
エレノアは木の枝に足の付け根を強打した影響でまともに受け身を取れない。見るも無残な姿で地面に落下していく。
着地地点には、先ほど魔獣が通った際にできた水たまりがあった。エレノアの尻が、そのまま勢いよく水たまりに突っ込む。
バシャーン!!
派手な水しぶきが舞い上がり、尻が水たまりに沈んだ。スカートは捲れ上がり、両足は開脚した体勢だ。汚泥にまみれた水たまりに尻だけ埋まり、腰をくの字に折ったその姿は、なんとも惨めだった。
全く受け身を取れていない。ダメージからの回復が遅い。魔法姫として華麗に振る舞っても、基本的な身体操作ができていなければ、戦場では無力だ。
あまりの衝撃と恥ずかしさから、エレノアは虚ろな瞳で空を見つめる。
ようやく我に返ったエレノアは、羞恥に顔を赤く染めながら、必死に水たまりから這い上がろうともがく。しかし、木の枝で強打した足の付け根の激痛で、下半身に力が入らないようだ。
なんとか尻を抜き、四つん這いになって水たまりから這い出た。魔法少女のスカートは泥で汚れ、濡れた白い下着が肌に食い込んでいる。震える腰から、ぼたぼたと水滴が滴り落ちていた。
俺は魔獣に向かって蒼光剣から光の刃を放った。魔獣が怯んでいる間に、俺はエレノアの元へ駆け寄った。
「大丈夫か!?」
エレノアは草むらにぺたんと女の子座りをした。激痛と恥辱で顔を真っ赤に染めながら、両手で足の付け根を押さえている。まだ枝に跨った際の衝撃に身体が疼いているのだろう。光沢のある白い太腿がわずかに震え、胸と腰が痙攣している。
その時、腰から太腿にかけて、ガクッと、小さな震えが走った。
「……⁉︎」
エレノアは目を見開く。
「な……何か、いる……」
エレノアは悲鳴をこらえ、震える手でスカートを捲り上げた。俺の目を気にする余裕もないようだ。濡れた白い下着の中に、ぬめぬめとした細長いものがうごめいている。
なんだ、ありゃ……?
エレノアは顔面蒼白になり、全身をゾクリと震わせた。汚れた水たまりに入った際、何か小さな生き物が下着の中に入り込んでしまったのだろう。内側から這い上がってくるかのような不快感が、彼女の腰の奥を刺激しているようだ。恥辱と生理的な嫌悪感が胸を満たされながら、エレノアは草の上に膝立ちになった。
なんとか下着の中を探ろうと、エレノアは両手を下着の中に差し入れる。腰の奥を何かが這いまわる。
「うっ……あっ……ひゃ……」
エレノアは情けない喘ぎを漏らす。まるで自らの身体を慰めているかのような羞恥の時間が続いた。腰が小刻みに震え、下着から水がぽたぽた垂れる。
ようやくエレノアの指が何かを捕らえた。恐る恐る引きずり出したのは、体長10センチ近くある、ぬるぬるとしたヒルに似た生き物だった。
「……っ!」
水気と粘液にまみれたその生物を、エレノアは汚物を見るかのように水たまりに投げ捨てた。
「何だったんだ、ありゃ!?」
「魔獣の幼体……。アレに身体を蹂躙されたら、私の純潔は……」
エレノアは身を震わせ、生物に蹂躙されかけた箇所を下着の上から両手で押さえる。痛みと不快感、そして羞恥……さまざまな感覚に苛まれながら患部をさする。まだ自らを慰めているかのような指の動きだった。
「くっ……はっ……」
全身から汗が溢れ、口から吐息が漏れる。腰がガクガクと痙攣し、痛みと不快感を拭い去れないようだ。
その時、新たな魔獣の触手がエレノアめがけて襲いかかってきた。
「危ない!」
俺は跳躍し、蒼光剣を振るって触手を切り裂いた。しかし、切断面から大量のドロドロした粘液が飛び散る。
ぐしゃっ!
運悪く、その粘液がエレノアの頭と顔に直撃した。
「きゃあああ!」
銀色の美しい髪が粘液でべっとりと汚れ、高貴な顔も粘液まみれになってしまった。粘液は彼女の頬を伝って首筋に流れ、胸元まで汚していく。
エレノアは呆然と立ち尽くしていた。自分に何が起こったのか理解するのに時間がかかったのだろう。やがて、自分の状況を把握すると、震える手で顔の粘液を拭い始めた。
「うっ……気持ち悪い……」
粘液は粘度が高く、なかなか取れない。手で拭えば拭うほど、顔全体に広がってしまう。髪についた粘液も、手で払おうとするとさらに絡まってしまう。
その様子は、エレノアの高貴な美しさとは正反対の醜態だった。
「お姉様!」リリアが慌てて駆け寄ってくる。「大丈夫!?」
「こ、こんな屈辱……」
かすれた声でつぶやくエレノア。俺に見られていることに気づき、耐えきれない様子だ。
確かに、キッズ向け作品では普通あり得ない展開だ。やはりここは俺の知る魔法少女作品の世界ではないらしい。
依然として魔獣は木の向こうで暴れている。さて、この状況、どう決着をつけようか。