(45)王宮最強の魔法少女、その名は…
「どうだった?」
森から村に戻ると、エレノアが腕を組み、冷たい視線を向けてきた。その背後にリリアとミュウが立っており、彼女たちの表情には好奇心と不安が混じっていた。
「怪しい気配がしたので追ってみた」俺は淡々と答えた。
「で、何か見つかったの?」リリアが身を乗り出して尋ねる。
俺は三人の顔を見回した後、「メリッサだった」と言った。
「メリッサ!?」
エレノアの表情が一瞬で引き締まった。リリアとミュウも驚きの声を上げる。
「炎の魔法少女? 王宮の? 何しに来たのですか?」ミュウの猫耳が緊張で真っ直ぐに立った。
「アポロナイトに会いたかったらしい」
俺の言葉に、エレノアの目が鋭く光った。
「アポロナイト......つまり、あなたに?」
「ああ。だが、俺とアポロナイトが同一人物だとは気づいていなかった」
「それで、なんと言ってた?」エレノアの声は冷たく、警戒心に満ちていた。
「明日の正午、王宮で会いたいそうだ。大切な話があるらしい」
「ええっ!?」リリアが驚きの声を上げた。「わざわざ王宮に呼び寄せるなんて……」
エレノアが頷いた。「これは明らかな罠よ。先月、あなたに惨めな思いをさせられたメリッサが、友好的に会いたいなんて......あり得ないわ」
確かにエレノアの懸念は理解できる。が……
「それはまだわからない」俺は言った。「ちなみに彼女、俺を見て興味があったようだぞ」
「興味?」エレノアの眉が上がった。
「ああ。俺をエレノアの......奴隷だと思ったらしい」
「奴隷ですって!?」エレノアが声を上げた。
「にゃーっ!?」ミュウの尻尾が驚きで膨らむ。
「何そのふざけた話!」リリアが怒りで頬を膨らませた。
メリッサの勘違いについて説明すると、三人の反応は様々だった。エレノアは怒りに震え、リリアは驚きに目を丸くし、ミュウは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして耳を抑えていた。
俺はおそるおそるエレノアに聞いた。
「その……お前にも……いるのか?」
「何が?」
「奴隷だよ」
瞬時にエレノアは真っ赤になった。
「いるわけないでしょう! 確かにこの世界で男性の地位は低いけど」
「お前は男を見下しているじゃないか」
「だからって、奴隷なんてとんでもないわ! 私はそんな下品な女じゃない! メリッサの価値観が極端なのよ」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
「一体何を妄想していたの!? 失礼ね!」
「すまんすまん。メリッサのやつ、とにかく下品だな」
「彼女はずっとそうよ」エレノアが息をつく。「見た目はともかく、中身は最低なの。お気に入りの男たちを奴隷にして従えて、王宮でも我が物顔らしいわ。逆らえないのは、魔法少女として優秀で、王宮を守護する任務を与えられているから……」
その時、ロザリンダが通りから近づいてきた。彼女は俺たちの様子から何かが起きたことを察したようだ。
「どうされましたか? 皆さん、緊張した面持ちですが」
俺たちはロザリンダにメリッサとの出会いについて説明した。彼女の表情は徐々に曇っていった。
「王宮からの招待......これは懸念すべき事態です」ロザリンダは真剣な面持ちで言った。「メリッサ一人でこのような決断をするとは思えません。おそらく彼女の背後に......」
「クラリーチェ」
エレノアが唐突にその名を口にした。その瞬間、空気が凍りついたように感じた。
「クラリーチェ......?」俺は知らない名前に首を傾げた。
エレノアの表情は凍りついたようだった。彼女はしばらく言葉を失い、やがて決意を固めたように口を開いた。
「私たちが王宮から追放された後、王宮のトップに君臨している女王であり、最強の魔法姫よ。スターフェリア全土を支配する女」
「わらわのことを語るとは、おこがましいとは思わぬか?」リリアがその喋り方を真似て、威厳のある口調で言った。
「彼女は......わたくしたちとは全く違う次元の存在なのです」ミュウの声はほとんど震えていた。「深淵魔法という、ごく一部の上位の魔法少女しか使えない恐ろしい魔法を使うのです」
「深淵魔法?」
「普通の魔法少女にはない特別な力よ」エレノアが説明する。
「この宇宙は、わらわの玩具箱よ」とリリアが震える声で言った。「彼女の決め台詞......。聞くだけで鳥肌が立つよ」
「クラリーチェは私たちの遠い親戚にあたる王族よ」エレノアが続けた。「今、王家の頂点に立っている。でも普段はほとんど姿を見せないわ」
「王宮で彼女に会ったことがあるのか?」俺は興味を持って尋ねた。
「何度か......だけど、直接話したことはほとんどないわ」エレノアは目を伏せた。「彼女は、普通の魔法少女には興味がないの。だから、私たちが追放された時も、何も言わなかった」
「つまり、メリッサを通して俺を呼んだのは......」
「本当はクラリーチェなのでは? と思うのです」ミュウが小さな声で言った。「さすがのメリッサも、クラリーチェには頭が上がらないと言われています......」
「でも、どうしてクラリーチェがアポロナイトに会いたがるのかな?」リリアが疑問を投げかけた。
沈黙が流れる。答えるまでもないことだった。
「王宮の前で派手に力を見せつけて、この世界を支配するなんて宣言したんだ。王宮のトップが黙っている方がおかしいだろう」
「クラリーチェは、あなたを倒すために……?」とエレノア。
「それを確かめるには、行ってみるしかないな」俺は決意を込めて言った。
「待って!」エレノアが俺の腕を掴んだ。「それは危険すぎるわ。クラリーチェは、とてつもなく強いの。あなたすらも勝てるかどうかわからないわ」
「師匠......無茶しないで」リリアの目には心配の色が浮かんでいた。
ロザリンダも言葉を添えた。「王宮には様々な危険が潜んでいます。クラリーチェは単なる魔法少女ではありません。彼女は......」ロザリンダは言葉を探すように一瞬黙り、「あなたの常識が通用しない存在かもしれません」
「わたくしも武流様を一人で行かせるわけにはいかないのです!」ミュウが猫耳を揺らしながら言った。
「俺は行く」俺はきっぱりと言った。「でも、心配してくれるのはありがたい」
「なら、私も行くわ」エレノアが決意を込めて言った。「私が王宮を知り尽くしているから、案内できる。追放された私たちだけど、アポロナイトに仕える者だと言えば、王宮も追い払うことはできないはずよ」
「ボクも行く!」リリアが弾むように言った。「魔力はないけど、何かの役に立てるはず!」
「わたくしも行くのです!」ミュウも手を挙げた。
俺は三人の決意を見て、微笑まずにはいられなかった。一ヶ月前とは比べものにならないほど、彼女たちは強くなり、そして信頼関係を築いていた。
特に、エレノアとリリアは、両親を殺された忌まわしい事件現場へ戻ろうとしている。並大抵の決意ではない。
「ロザリンダさんは?」俺は彼女を見た。
ロザリンダは小さく首を振った。「私は村に残って、万が一の事態に備えます。王宮に行けるのは、あなた方だけです」
「わかった」
俺の心の奥底でゾクゾクするような興奮が湧き上がってきた。クラリーチェという恐るべき存在。そんな強大な魔法少女が君臨する王宮へと足を踏み入れる。
もし、そのクラリーチェを王宮から追いやることができれば......エレノアとリリアが王宮に戻れる。そして、最終的には......この俺が世界の支配者になる道が開けるかもしれない。
「明日、正午に王宮へ行こう」俺は決意を込めて言った。「全員、万全の準備をしておけ」
エレノアたちが心配そうに頷く中、俺は内心の興奮を抑えることができなかった。
スターフェリアという異世界で、俺の人生は新たな転機を迎えようとしていた。
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