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(44)イケメンは奴隷? エロ過ぎメリッサの勘違い

 メリッサは赤と黒の魔法少女衣装に身を包み、まるでファッションショーの主役のように堂々としていた。先月、王都の広場で俺に敗北した惨めな姿からは想像もできないほど平然としている。


 俺は警戒心を隠さなかった。この少女が村に現れた理由は、おそらく復讐のためだろう。エレノアへの対抗意識と俺への復讐心――それが彼女をここまで導いたに違いない。


「メリッサか。村に何の用だ?」


 俺は静かに尋ねた。彼女の周囲には炎の魔力が僅かに漂っている。一ヶ月経って、もうすっかり回復しているようだが、油断はできない。


 メリッサは指先に小さな炎を灯し、それを弄びながら俺を上から下まで値踏みするように観察した。


「あら、アタシの名前を知ってるの? やっぱりアタシは有名人ね!」彼女は誇らしげに胸を張った。「で、あなた誰?」


 俺は一瞬戸惑った。そして気づいた。メリッサは俺がアポロナイトだと認識していないのだ。先月の王都では、俺はアポロナイトの姿で現れ、彼女を倒した後もその姿のまま去った。変身を解除する姿は見せていない。


 あの時、言葉も発したが、アポロナイトのマスク越しにドスを効かせて喋ったので、俺の声を聞いても同一人物とは気づいていないようだ。これはメリッサの本音を引き出す上で好都合かもしれない。


「俺はこの村に住んでいる者だ」


 メリッサは指先の炎を消すと、鼻で笑った。「ふーん。男の分際で村にいるの? 汚らわしい! どういう身分よ? ん? 待って……」


 メリッサは俺を見て、勝手に得心した。


「わかった! あなた、奴隷ね!」


「奴隷?」


 彼女の言葉に、俺は思わず聞き返した。


「そうよ! だって憎まれるべき男が平然と村にいられる理由なんて、他にないわ」メリッサは情熱的に腕を広げた。「あなた、ひょっとして他所の国から来たの? だからこの世界での男の立場を知らないのね? じゃあ教えてあげる。男は基本的に労働力か、女を悦ばせるための道具よ! 特にあなたみたいな男は、ベッドの上で女性を燃え上がらせる役目が似合うわね!」


 俺は思わず一歩後ずさった。彼女の言葉に、驚きを隠せない。


「ベッド……? ちょっと待て。お前たち魔法少女は純潔を奪われたら魔力を失うんじゃないのか?」


 メリッサの表情が一瞬でイラついたものに変わった。


「バカね! 何考えてるの!」彼女は怒りに顔を赤くして叫んだ。「そんな行為はしないわよ! 純潔は大事に守ってるわ! 失ったら魔法少女に変身できなくなるじゃない!」


「じゃあ、どういう……」


「男の奴隷の役割は、そういうことじゃないの。女性をベッドの上で愉しませるのよ。その……あらゆるテクニックを使って、気持ち良く……。わかるでしょ?」


 なるほど、そういうことか。


「よく見れば、あなた、なかなかのイケメンね」メリッサは俺の顔を観察しながら言った。「エレノアの奴隷? 王宮を追放された分際で、あなたみたいな良い男をベッドに囲っているなんて、生意気な女ね!」


「俺は奴隷じゃない」


 思わず声が上ずった。だが、メリッサの勘違いはどんどん酷くなっていく。


「恥ずかしがってるの? 隠さなくてもいいのよ」彼女は手のひらに炎の花を咲かせ、それを愛でるように見つめた。「身分の高い女性は、金や権力で男を囲うものなんだから。特に王宮の魔法姫や魔法少女なら、そういう男を何人も抱えていても不思議じゃないわ。アタシだって三人いるわよ!」


「三人も?」


「ええ、みーんなイケメンよ!」彼女は炎の花を大きくしながら自慢げに語った。「一人は筋肉質で背が高くて、夜は獣みたいに激しいの! 二人目は優しくて繊細な歳下の美少年で、アタシの望みを全部叶えてくれるのよ! 三人目は……」彼女は頬を染めて続けた。「特殊な才能があってね、一晩でアタシを何度も天国に連れていってくれるのよ! 朝になるとベッドはびしょびしょになって……」


 俺は思わず顔をしかめた。なんて下品な少女だ。


「それが……この世界の常識なのか?」


「もちろんよ!」彼女は情熱的に叫んだ。「男は労働か快楽のためだけに存在するの! 見た目のいい男は高値で取引されるけど」彼女は俺を値踏みするように見回した。「あなたも悪くないわね。若くて肌もきれい。体つきも引き締まっていて……」


 彼女の目が妖しく輝き、炎の蝶が彼女の周囲を舞い始めた。


「ねぇ、アタシの奴隷にならない?」


「……な、何だって?」


 この少女、正気か?


「エレノアじゃ退屈でしょう? あの子、絶対に夜のテクニック下手よ! ってゆうか、男に興味ないんじゃない? 奥手だから手を繋いだこともないと思うわ。きっと欲求不満になって、毎晩ベッドでひとりで自分を慰めてるのよ! そうに決まってるわ!」


 はははっ……。


「そんな女より、アタシに仕える方が幸せでしょう?」


「せっかくだが、お断りだ」


「アタシに比べたら、あの子なんて子供みたいなものよ!」メリッサは自信たっぷりに胸を張った。「見なさいよ、この体!」彼女は自分の体を炎で照らし出した。豊満な胸、くびれたウエスト、引き締まったヒップを、これでもかと見せびらかす。「アタシの体は炎のように情熱的で、男を骨抜きにするのよ!」


 ははぁ、そうですか。


 俺はドン引きしながらも冷静さを保った。「だから、断ると言ってるだろ」


 メリッサは俺の腕に触れようとした。「悪くはしないわよ? アタシの部屋は王宮でも一番広いの! 柔らかいシーツに、ふわふわの枕。そしてね、アタシの体で好きなだけ楽しませてあげる。王宮に住めて、豪華な食事も毎日出るわ。もちろん、時にはあなたの言うことも聞いてあげる!」


 彼女の指先から小さな炎が舞い上がり、俺の周りを回った。


「何度言えばわかるんだ。断る!」俺は迷惑そうに炎を払いのけながら言った。


「つれないわね!」メリッサは炎を消し、拗ねたように唇を尖らせた。「エレノアに忠誠を誓ってるの? でも、彼女よりアタシの方が女として魅力的でしょう? 魔法少女としての強さだって、夜のテクニックだって、アタシの方が何倍も上よ! それなのに、どうしてあんな女を選ぶのよ!」


 俺は内心では呆れていた。この少女は俺を人間として見ていない。ただの道具、快楽の対象としか考えていないのだ。


「それより、何の用でこの村に来た?」


 メリッサはため息をついた。「仕方ないわね。まあ、いいわ」彼女は態度を変えた。「実は、アポロナイトに用があるの。先月、王都に現れた白銀の鎧の男よ。この村にいるんでしょう?」


 俺がそのアポロナイトなんだが……。その言葉を飲み込み、慎重に答えた。「アポロナイトなら、確かにこの村にいる」


 メリッサがクスリと笑った。「やっぱりね」


「俺はアポロナイトの配下だ」


「何ですって!?」メリッサは驚きの炎を周囲に噴き出した。「早く言いなさいよ! 単なる奴隷じゃなかったの!? 彼の配下だなんて、出世したわね!」


「出世じゃない。最初からそうだ」


「あら、そう。でも、どうしてあなたみたいな奴隷を配下にするのかしら。よほど人手不足なんでしょうね」彼女は炎を指先に集めながらクスクス笑った。


 この少女は、俺が奴隷だと信じて疑わないらしい。


「で、アポロナイトに何の用だ?」俺は鋭く尋ねた。「敵として戦った相手だろ」


 メリッサは一瞬だけ表情を硬くし、炎が小さくなった。「それは……アタシがアポロナイトに直接話すわ」


 俺はメリッサの様子に違和感を覚えた。先月の屈辱的な敗北の後、なぜ彼女がアポロナイトに会いたがるのか。復讐心か? それとも別の目的か?


「何か企んでいるのか? だとしたら……」


「企む? 冗談じゃないわ! 大事な話があるだけよ」メリッサは再び情熱的に炎を燃やした。「私から彼に伝えて。明日の正午、王宮で待っていると。とても大切な話があるの!」


「具体的には?」


「秘密よ」彼女はウインクし、炎の蝶を飛ばした。


 彼女の態度に何か裏があると感じたが、詳しく聞き出す前に、メリッサは言った。「そろそろ戻らないと。王宮の仕事があるから。必ず伝えてね」


 彼女はそう言うと、手のひらに小さな炎を灯し、それを空に放った。炎は大きく膨らみ、炎の鳥のようになると、メリッサを包み込んだ。次の瞬間、炎とともに彼女の姿が消えた。


「派手好きな女だな」


 俺はため息をついた。


 敵対していたアポロナイトを、なぜ王宮に招くのだろう? メリッサの誘いには必ず裏があるに違いない。

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