(42)猫耳の明日香、ドMな本性を晒け出す
我に返った。
ここはどこだ? 俺は村を襲う空飛ぶ魔獣と戦ったはずだが……。
荒涼とした赤茶けた大地が、どこまでも続いている。空は澄み渡り、雲一つない。その光景は、俺が知っているどこよりも原始的で、生命の根源を感じさせる場所だった。
「アポロナイト! 準備はいい?」
その声に振り返ると、そこには朝倉明日香……いや、セレーネが立っていた。彼女は相変わらずのスカイブルーのミニスカート衣装に身を包み、戦闘態勢をとっている。
「トレーニングの時間よ! 今日は模擬バトルでいきましょう」
セレーネは気合十分だ。長い黒髪をポニーテールに束ね、引き締まった身体を躍動させている。彼女は手足を軽くストレッチし、戦闘の準備を整えた。
「ああ、分かった。手加減はいらないぞ」
俺は構えをとる。スーツアクターとしての経験がよみがえり、身体が自然に動く。
「いくわよ!」
セレーネは一瞬で距離を詰め、華麗な回し蹴りを放った。そのスピードと破壊力は、いつもの彼女を上回っている。生足での蹴りは、空気を切り裂く音とともに俺の顔面をかすめた。
「おお、いいぞ! そのキレ、最高だ!」
俺は思わず興奮した。これぞヒロインのアクション。セレーネの動きは美しく、力強い。ミニスカートの裾が翻り、しなやかな脚線美が陽光に映える。
彼女は連続で蹴りを繰り出す。横蹴り、後ろ回し蹴り、そして飛び蹴り。どれも本格的で、迫力満点だ。
「いいぞ、セレーネ! その調子だ! 見事なケレン味! アポロナイトのバディヒロインにふさわしい!」
だが、何かがおかしい。
彼女の目に宿る光が違う。いつもの演技の輝きではなく、本物の殺気が滲んでいる。あの時の演武会でのエレノアと同じ目だ。憎しみと欲望が混ざり合った、狂気じみた輝きを帯びている。
彼女の蹴りが俺の脇腹をかすめ、鋭い痛みが走る。これは演技じゃない。本気だ。
「ちくしょう、エレノアと同じじゃないか……」
次の瞬間、セレーネは俺の胸ぐらを掴み、膝蹴りを叩き込んできた。
「くっ!」
間一髪で身を引いて避けた。なんとセレーネは、俺の急所を狙っている。男としての最大の弱点をピンポイントで攻撃するなんて……日曜朝に放送されるお子様向け作品の世界観ではあり得ない。
そんな常識は無視して、セレーネは俺の急所を続けざまに攻撃してくる。光沢のある美しい生足の太腿が、俺の足の付け根を狙って迫る。容赦ない膝蹴りの連打だ。命中したらひとたまりもない。
ドMの男ならむしろ歓喜するシチュエーションかもしれないが、あいにく俺にはそんな趣味はない。というか、そもそもなんでヒーローがバディヒロインから急所を狙われているんだ? 何なんだ、この展開?
膝蹴りの激しさが増す。俺が間合いを取ったら、今度はジャンプキックで狙い、距離を詰めてくる。これは明らかに殺す気だ。こいつ、ドSか? エレノアのように、本気で俺を倒そうとしている。
「やめろ、セレーネ! 何のつもりだ!」
彼女は不敵に笑う。その表情はもはや清純なヒロインではなく、冷酷な暗殺者のようだ。
「何を言ってるの。これが私たちのトレーニングでしょう? 本番同様、『本気』でやらないと意味がないって、いつも言ってたじゃない」
「本気と殺気は違うだろ!」
セレーネ……いや、明日香は肩をすくめた。
「そう? じゃあ、私のこれまでの『本気の指導』はどうだったの? セクハラでパワハラで、私を苦しめただけじゃない!」
ああ、セレーネじゃない。
「お前……」
「そうよ、私は朝倉明日香。あなたに復讐するために来たの。あなたが私にしてきたことの報いを受けるのよ!」
明日香は再び攻撃を仕掛けてくる。今度は本格的な格闘技のコンビネーションだ。ジャブ、ストレート、アッパー。そして華麗なハイキック。生足が俺の顔面すれすれを通過する。そして、怯んだところに膝蹴りによる急所攻撃!
突き出された艶やかな太腿を、俺は両手で掴んで止めた。
「やるわね」明日香はニヤリと笑い、後退して間合いを取る。
「ふざけるな! お前が俺を陥れたんだろうが!」
怒りが込み上げる。そうだ、こいつのせいで俺はすべてを失った。二十年のキャリアが、たった一つの告発で消えたんだ。
「だったら、俺も『本気』で戦ってやる!」
俺は明日香に向かって突進した。タックルをかまし、彼女を地面に押し倒す。
「この嘘つき女! お前のせいで、俺の人生はめちゃくちゃだ!」
俺は明日香を罵倒した。溜め込んでいた怒りが、言葉となって噴出する。
「裏切り者! 恩知らず! お前みたいな女は、この業界から消えろ! 二度と顔を見せるな!」
すると突然、明日香の表情が変わった。
さっきまでの敵意に満ちた顔が、急に弱々しく、涙目になる。そして――驚くべきことに、恍惚の表情を浮かべ始めた。
「ひっ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
彼女は小さく震えながら、俺を見上げる。その目には恐怖と……いや、待て。これは……喜び?
「もっと……もっと叱って……神代さん……」
明日香の声が、甘えるような響きを帯びる。
「えっ?」
「もっと厳しく叱ってください! 私は悪い子なんです! 罰してください!」
彼女の態度の急変に、俺は言葉を失った。まるで、ミュウのようじゃないか。あの猫耳魔法少女も、叱られるのが好きなドMだった。
「まさか、お前……ドMなのか?」
明日香は顔を真っ赤にしながら、小さく頷いた。
「は、はい……実は、神代さんに厳しく指導されるのが……嬉しかったんです。でも、それを認めたくなくて……」
彼女は涙を流しながら告白する。その表情は恥じらいと期待が入り混じり、頬は朱に染まっていた。
「本当は、もっと叱ってほしかった。もっと厳しくしてほしかった。でも、プライドが邪魔をして……それで、あんな告発を……」
俺は唖然とした。まさか、あの告発の裏にこんな事情があったとは。
「だから、あなたが怒るほど……あなたが厳しく指導するほど……私は……」
彼女は言葉を詰まらせ、小刻みに体を震わせた。その潤んだ瞳は、明らかに快感を求めていた。なんだ、こいつは?
「変態だな、お前……」
俺の声が低く、冷酷になる。すると、明日香の体がビクッと震えた。
「そ、そうです……私は変態です……神代さんに叱られるだけで、体が熱くなって……でも、それを認められなくて……あんな卑怯なことを……」
「俺を陥れておいて、今さら何を言ってる? 最低な女だな!」
「ひぃ!」
明日香は俺の罵倒に、小さな悲鳴を上げた。しかし、その表情には明らかな喜びが広がっている。
「……私は最低です……卑怯者です……だから、もっと厳しく罰してください……神代さん……」
彼女は四つん這いになり、ミニスカートから腰を突き出した。その姿は、まさにミュウを彷彿とさせる。ドMの本性を露わにし、恥じらいながらも懇願する様子。
「お願いです! お尻ペンペンしてください! 私は悪い子です!」
彼女の体は小刻みに震え、顔は紅潮し、瞳は涙で濡れている。
しかも、よく見ると、明日香の頭部には何かが生えている。これは……猫耳だ! ミュウそっくりの猫耳、さらには腰からは尻尾も生えている。
俺の中で、何かが目覚めた。怒りを通り越して、支配欲だ。
この女を思い通りにできる。あの告発で俺を苦しめた女を、完全に支配できる。その喜びが、全身を駆け巡る。
「それがお前の本性か。逆恨みして俺を貶めるなんて……」
明日香は背筋を弓なりに反らせながら嘆願する。
「罰を与えてください……罵倒してください……どうか……」
俺は彼女のスカートをまくり上げた。
「望み通り、罰を与えてやる」
明日香の猫耳と尻尾が歓喜に震える。
このまま行けば、俺は明日香を完全に支配できる。彼女は俺の言いなりになり、もう二度と逆らわない。俺のキャリアは回復し、すべてが思い通りになる……
「あぁん……早く……早くお願いします……!」
彼女の声は期待に震えている。
俺の手が振り上がる。
パチン!
手が振り下ろされる音が響き――
☆
「はっ!」
俺は飛び起きた。ベッドの上だ。
また夢か……。