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(35)にゃんにゃん♪ドMなスパルタ指導

 俺の頭にはさまざまな可能性が浮かんだ。


 もしや、ミュウは……Mなのではないか? 叱られるのが好きなタイプ? なんとも珍しいケースだ。


「お前、俺のダメ出しを楽しんでいるだろう?」


「ふぇぇぇ!?」


 ミュウは両手で顔を覆った。もはや否定する気力すらないようだ。


「あの……その……実は、武流様にダメ出しされるのが……嬉しくて……もっと叱ってほしくて……」彼女の小さな声は震えていた。


「やれやれ」俺は呆れながらも、思わず笑ってしまった。「だからいつも俺の特訓に熱心だったのか」


「叱られたくて、わざと失敗したことも何度かあったのです……」


「そうなのか!?」


 ミュウの顔はもはや限界まで赤かった。「他の人は猫耳を怖がったり、変に扱ったりするのに、武流様はわたくしを対等に扱ってくれて……。武流様の愛のこもったダメ出しが嬉しくて……」


 ほほう? ドMなのか……なら、いっそのこと徹底的に叱ってやろうか。


 俺の中でドSな心がムクムクと目覚め始めた。今まで抑えていた厳しさを思い切り解放してみようか。いっそのこと、朝倉明日香への厳しいアクション指導のように――。


「まったく」俺は急に声を低くした。「お前の態度、なんだそれは!」


「ひゃっ!」ミュウの体が小さく震えた。


「魔法少女としての誇りはどこへ行った? わざと失敗して人を困らせるなんて、最低だな!」


「は、はいぃぃ……」彼女の声は震え、目には涙が浮かんでいた。しかし、その表情は……明らかに喜んでいる。


「お前、今すごく幸せそうな顔してるぞ! 叱られてるのに、何ニヤニヤしてるんだ!」


「ご、ごめんなさいなのです!」ミュウは必死に表情を引き締めようとするが、口元がニヤけ続けている。


「体中から汗かいて、顔真っ赤にして……なのに嬉しそうにしやがって! お前、どこまで変態なんだ!」


「ああっ……」ミュウの膝が震え、地面にへたり込んだ。「も、もっと……武流様、もっと叱ってほしいのですぅ……」


「だめだ! そんな甘えた声を出すな! 魔法少女失格だ!」


「ふああっ……!」今度は完全に声が甘くなってしまった。ミュウの全身から汗が噴き出し、体がピクピクと痙攣している。


 俺の中のドSな部分が暴走し始めている。


「頭から足の先まで、ダメダメだ! お前の態度、姿勢、表情、全部サイテーだ! 魔法少女として恥ずべきだぞ! 野良猫みたいにゴミ捨て場に捨ててやろうか!?」


「はひぃぃ……」ミュウは涙を流しながら、うっとりとした表情を浮かべている。「素敵……武流様、最高なのですぅ……」


「おい! 完全に逆効果じゃないか!」


「もっと……もっとなのです……! わたくしの全部を否定してほしいのです……!」


「猫耳も尻尾もダメ! 風の魔法も中途半端! おまけにドMなんて、救いようがないぞ! このド変態猫! 罰としてお尻ペンペンだ!」


「あはぁん……! お尻ペンペンしてほしいですぅ……!」


 ミュウは地に這いつくばり、猫のように腰を突き出して懇願した。


 完全に理性が崩壊している。ミュウの体は痙攣し、全身から汗が滴り落ちている。顔は真っ赤で、涙でグチャグチャだ。体の疼きを抑えるように、片手で足の付け根を押さえて震えている。その表情は……至福に満ちている。


「ハァ、ハァ……! 早く! 早くお願いしますなのですぅ!」


 自ら腰を向けてフリフリする。反り返った腰の曲線美が艶めかしい。


「はぁ……。ダメだこりゃ……」


 俺は深くため息をついた。こんなに徹底的なドMを見たのは初めてだ。叱れば叱るほど喜ぶなんて、どうすればいいんだ。


 突然、ミュウがハッと我に返った。自分の醜態に気づいたのか、起き上がり、体を小さく縮めた。


「あ……あぁ……」彼女は自分の姿を見下ろし、愕然とした。「わ、わたくし……なんということを……」


 全身汗まみれで、顔は涙でグチャグチャ。地面にへたり込んで、情けない格好。ミュウの顔から血の気が引いていく。


「武流様に……こんな姿を見られて……」彼女の声は絶望に満ちていた。「もう、嫌われてしまったのです……こんな変態、気持ち悪いですよね……」


「おい、ミュウ」


「もう……武流様に会わせる顔がないのです……」彼女は泣きながら顔を覆った。「わたくし、消えてしまいたい……」


 俺はゆっくりと彼女の隣にしゃがみ込んだ。


「ミュウ、顔を上げろ」


「いやなのです……」


「命令だ」


 ビクッと体を震わせ、ミュウはおそるおそる顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃの顔、怯えた瞳が俺を見上げている。


「まったく……しょうがないやつだ」俺は苦笑した。「恥ずかしがりなのに叱られるのが好きなんて……。でも、そんなミュウの隠れた一面が知れて、俺は嬉しいよ」


 これは紛れもない本心だった。


 ミュウはぴくっと顔を上げた。「武流様……わたくしの変態なところも受け入れてくれるのです?」


「当たり前だろ」俺は優しく彼女の頭を撫でた。「お前は俺の大切な弟子だ。猫耳も叱られるのが好きな部分も含めて、ミュウはミュウだ」


「武流様……」彼女の目に新たな涙が光った。「わたくし……もっと頑張るのです! だから、もっともっと叱ってほしいのです!」


「おいおい。まだ叱られ足りないのか……?」


 そのツッコミも嬉しいのか、ミュウは体をもじもじとくねらせている。「ごめんなさいなのです……」


 やれやれ……。


 ミュウはにっこりと笑顔を見せた。その表情には、これまで見たことのない安心感が浮かんでいた。


「でも」俺は再び厳しい声に戻った。「『にゃんにゃん♪』のところはきちんとやれるようになれよ。いいな?」


「は、はいなのです!」


 彼女は再び変身し、最後のポーズに挑戦した。


「風と音の守護者、魔法少女ミュウ・フェリス!」


 そして今度は、恥ずかしさを押し殺して、精一杯の声を振り絞った。


「にゃんにゃん♪」


 体は少し震えていたが、はっきりとした声が森に響いた。


「よし! やっとできたな!」俺は胸をなでおろした。「午後の演武会でも、その調子でやれ」


「はいっ!」猫耳が嬉しそうに揺れた。が、すぐに、ちょっと物足りない表情に変わった。「武流様、もうダメ出しはないのです?」


「ない。俺だって、四六時中お前を叱るわけにいかないんだよ」


「うぅぅ……」ミュウの猫耳が残念そうに垂れた。


 まったく……。魔法少女で、猫耳で、恥ずかしがり屋で、実はドMって……属性、盛りすぎじゃないか? お子様向けの朝の魔法少女アニメでは、あり得ないキャラ設定であることは間違いない。


 森の木々を通して、日差しが彼女の姿を柔らかく照らしていた。


 いずれにしても、午後の演武会で、ミュウの成長を村人たちに見せてやるのが楽しみだ。恥ずかしがり屋の猫耳魔法少女が、どれだけ輝けるのか。


 次はエレノアの元へ向かおう。あの高慢な魔法姫も、きっと特訓の成果を見せてくれるはずだ。

お読みいただき、ありがとうございます!

ミュウは特にお気に入りキャラなので、これからも大事に育てていきたいです。

ここまで1週間、毎日3回更新を達成しました。明日からまた、1日1回の更新に戻りますが、引き続き、お楽しみください。

面白いと思った方、続きが気になる方は、ぜひブックマークや★★★★★評価をいただけると励みになります!

よろしくお願い致します。

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