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(30)ハーレム大暴走、朝の修羅場

第2章、武流の師匠としての物語、ここから本格始動です。

 この世界にやって来てから、一ヶ月が過ぎようとしていた。


 その朝、太陽が昇り始めた頃、俺は何か重みを感じてベッドで目を覚ました。


「んん……」


 まぶたを開けると、目の前に見慣れた顔があった。ピンクがかった茶色の髪、愛らしい寝顔、そして俺の胸にぴったりと身を寄せる小さな体。


「リリア!?」


 俺の声に、彼女はゆっくりと目を開けた。


「おはよう、師匠……」甘えた声で言いながら、彼女はさらに俺に体を寄せてきた。「朝の特訓、楽しみで待ちきれなくて……ボク、早く来ちゃった! というか、ずっと師匠のベッドで待ってたの〜♪」


「はあ!? ちょっと待て、それじゃお前、昨日の夜から――」


「えへへ、師匠の寝言、面白かったよ! 『そこは違う! もっと腰を落として!』とか、『受け身が甘い! やり直し!』とか。夢の中でも特訓してるんだねぇ」


「こら! 勝手に忍び込むなといつも言ってるだろう!」


 俺は慌てて起き上がり、彼女を捕まえようとした。だがリリアはにっこり笑うと、素早く俺の手から逃れた。


「ほら、捕まえてみて! これも特訓の一部だよ! 師匠との愛の追いかけっこ〜♪」


 彼女は寝間着姿のまま、部屋の中を走り回り始めた。その動きは一ヶ月前とは比較にならないほど洗練されていた。床を蹴る足さばき、重心の移動、体幹のバランス——すべてが見違えるように上達している。


「おっと! こっちこっち! 師匠の大好きなボクはここだよ〜!」


 テーブルを飛び越え、椅子の背に片足で立ち、そして壁を使った跳躍。彼女の動きには無駄がなく、まるでダンスのように美しい。


「どう? 師匠の特訓の成果、出てるでしょ? あのプランクのおかげだよ! 師匠のおかげでボクのお腹、ぺったんこになっちゃった!」


「プランクか、あれは確かに効果的だな」


 プランクとは、体幹を鍛えるためのトレーニングだ。地面に腹這いになり、前腕とつま先だけで体を支えて、頭からかかとまで一直線にする姿勢を維持する。スーツアクターのトレーニングとしては基礎中の基礎だけど、効果は絶大だ。


「最初は30秒も持たなかったのに、今じゃ3分できるよ! 師匠のために頑張ったんだから、ご褒美ちょうだい?」


 リリアはウインクをしながら、またも俺の手をすり抜ける。


「認めるよ。だが、それと俺のベッドに忍び込むことは別問題だ!」


「関係あるよ〜! だって、ボクは師匠の一番弟子だもん! 将来の奥さん候補No.1なんだから、師匠の寝姿くらいチェックしないと!」


「おい、勝手に決めるな!」


 俺は一気に距離を詰め、リリアの腕を掴んだ。彼女は小さく悲鳴を上げるが、すでに逃げ場はない。ベッドの上で、俺は彼女を押さえつけた。


「捕まえた! どんなに動きが良くなっても、まだまだだな」


「もう! 師匠ったら容赦ないんだもん! でも、こういう強引なところも好き〜♡」


 勝ち誇った瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。


「武流様! そろそろ朝の特訓の時間なのですが……って、ええええっ!?」


 入ってきたのはミュウだった。彼女の猫耳が驚きで真っ直ぐに立ち、瞳が丸く見開かれる。眼前の光景——乱れた布団の上で、俺がリリアを羽交い締めにしている状況——に彼女の顔が見る見る真っ赤になっていった。


「な……!? これは……! 武流様がリリア様を襲って……いえ、リリア様が武流様を誘惑して……違う、これは朝の情事なのですか!?」


「違う! これは……」俺は狼狽する。


「リリア様! 抜け駆けは良くないのです!」ミュウの猫耳が怒りで震えた。「武流様! 朝からこんな破廉恥なことを……わたくしがいない間に……! ズルいのです! わたくしも混ぜてほしいのです!」


「は!? お前も何言ってるんだ!」


 俺は慌ててリリアから離れようとしたが、リリアはニヤリと悪戯っぽく笑うと、俺にしがみついてきた。


「ボクと師匠の関係、バレちゃったね♪ ミュウちゃん、残念でした〜 師匠はボクのものなの!」


「何を言ってるんだ! やめろっ! これは特訓の延長で――」


「武流様はわたくしのものなのです! たとえリリア様と言えど、渡さないのです! わたくしの方が先に朝ごはんを作ってきたのです! 愛情たっぷりの味噌汁なのです!」


 ミュウの口から思いがけない言葉が飛び出した。普段はおとなしく控えめな彼女とは思えない激しさで、ミュウはリリアに飛びかかった。


「わわっ! ミュウちゃん! ちょっとタイム、タイム! 猫パンチは反則だよ〜!」


 リリアは俺から離れると、ベッドから飛び降り、リビングへと逃げ出した。ミュウは彼女を追いかける。


「待つのです! リリア様! 武流様の弟子なのですから、わたくしたちは公平に扱われるべきなのです! 特別扱いは許されないのです! わたくしだって武流様の寝顔を見たいのです!」


「ボク、先に弟子入りしたも〜ん! 師匠争奪戦なら負けないよ!」


「順番は関係ないのです!」


 二人の姿は廊下の向こうへと消えていった。直後、家中から物音や悲鳴、笑い声が聞こえてくる。


「あっ! それボクの秘密のお菓子!」

「見つけたのです! これで武流様を買収するつもりだったのですね!」

「違うもん! 師匠へのプレゼントだもん!」


「やれやれ……朝からこんな調子じゃ、本当の特訓に入る前に疲れちまうな……」


 俺はため息をついて立ち上がり、窓の外を見た。そこには訓練で整備された村が広がっていた。この一ヶ月で、村全体が活気づいている。女性たちはより自立し、男性たちは自己鍛錬に励むようになっていた。俺が「男も強くなれる」と示したことで、村の男たちにも希望が生まれたのだ。


 廊下から騒がしい音が続く。


「つかまえたのです! もう逃がさないのです! 武流様への愛の深さはわたくしの方が上なのです!」


 リビングに行くと、そこではミュウがリリアの上に乗り、両脇をくすぐっていた。


「やめてぇ! くすぐったいよぉ!ボクの弱点を攻めるなんて卑怯だよぉ!」リリアは涙目で笑いながら悶えている。「降参! 降参だよ! 師匠、助けて〜!」


「もう許さないのです! 武流様をこんな朝っぱらから誘惑するなんて! わたくしだって毎日プランク5分できるようになったのです! 腹筋だって割れてきたのです!」


「ごめんごめん! 許して! 師匠とは何もしてないよ! まだね……えへへ」


 リリアが白状すると、ミュウはようやく手を緩めた。「本当なのですか? じゃあ、まだわたくしにもチャンスがあるのですね!」


「うん! ただ師匠の寝顔が見たくて……すっごく可愛かったよ! 寝言で『エレノア、そこは違う』って言ってた!」


「ま、待て! それは誤解を招くだろ!」と俺は慌てる。


 ミュウの猫耳がピクッと動いた。「エレノア様の名前を……! まさか武流様、エレノア様のことを……」


「違う! 特訓の夢を見てただけだ!」


 俺はロザリンダに教えてもらったスターフェリアの伝統を思い出した。魔法少女は自分より強い男性と出会ったら、将来その男と結婚しなければならない。リリアもミュウも、俺のことを狙って切磋琢磨しているのだろう。エレノアの心はわからないが――。


「師匠〜、ボクと結婚したら毎朝こうやって起こしてあげるよ!」リリアが甘えた声で言う。


「わたくしなら、毎朝愛情たっぷりの朝ごはんを作るのです! 猫耳サービスもするのです!」ミュウも負けじと主張する。


 俺は結婚なんて興味はないのだが……正直、この状況は悪くない。いや、ダメだ! 何を考えてるんだ、俺は!


「にしても、お前たち、動きが随分良くなってきたな」


 話題を変えようと、俺は二人の成長を褒めた。


「師匠のおかげだよ!」リリアが飛び上がるように言った。「毎日の特訓のおかげで、体がめちゃくちゃ軽くなったの! お姉様も認めてたよ! 『リリア、随分動きが良くなったわね』って!」


「わたくしも、武流様の指導で風の魔法がより精密に使えるようになったのです」ミュウも嬉しそうに言った。「体幹が安定すると、魔力の放出もコントロールしやすいのです。猫族の特性と合わさって、超精密な風の制御ができるようになったのです! 見てください!」


 ミュウが手を振ると、風がリビングの中で小さな竜巻を作り、散らかっていたクッションや雑誌をきれいに片付け始めた。


「おお、便利だな!」


「えっへん! これで武流様のお部屋の掃除もバッチリなのです! 将来の奥様候補として、家事能力もアピールなのです!」


「ミュウちゃん、それはズルい! ボクだって——」


 ふと、玄関から強い気配が感じられた。


「ん? この威圧感は……」


 次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。いや、正確には——


 ガチャン! バキバキバキ!


「って、おい! ドアが凍って砕けた!?」


 銀青色の髪と青い瞳の持ち主、エレノアが仁王立ちしていた。

お読みいただき、ありがとうございます!

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