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(26)朝倉明日香を襲う触手地獄

 光がまぶしい。


 目を開けると、そこは見覚えのある風景だった。


『蒼光剣アポロナイト』の撮影現場ではないか。


 俺の体を包むのは、白銀のアポロナイトのスーツ。だが、スーツに詰め物をした重さはなく、まるで自分の肌のように軽やかだ。周囲を見渡すと、そこは宇宙船の内部を模したセット。メカニカルな壁、点滅するコンソール、宇宙を映し出す巨大なモニター。すべてが完璧に作り込まれている。


「アポロナイト! こっちよ!」


 その声に振り返ると、スカイブルーのミニスカート衣装に身を包んだセレーネ、朝倉明日香が立っていた。彼女は長い黒髪を風になびかせ、しなやかな足取りで近づいてくる。


「明日香ちゃん?」


「もう、何言ってるの? 私はセレーネよ! 早く! ダークガイアスの攻撃が迫ってるわ!」


 セレーネは俺の腕を引っ張った。彼女の姿は今まで見た中で最も輝いていた。演技でなく、彼女自身がセレーネになりきっている。


「う、ああ、そうだった」


 俺は混乱しながらも、彼女についていく。このシチュエーションは撮影現場ではない。俺は今、アポロナイトそのものになっているようだ。夢なのか? それとも、何か別の現実?


 廊下を走り抜けると、突然、目の前に現れた巨大な扉が開く。そこには広大な宇宙船の艦橋があった。


「ついに来たな、アポロナイト!」


 低く響く声が宇宙船内に鳴り響く。艦橋の中央には、漆黒の装甲に身を包んだ巨大な敵が立っていた。黒いマントが宇宙の闇のように広がり、その赤い目が不気味に光る。ダークガイアス。シリーズ第一話から登場する宿敵だ。


「お前の野望は終わりだ、ダークガイアス」


 驚いたことに、俺の口から台詞が自然に飛び出した。まるで本当にアポロナイトになったかのように。


「ふはははは! 愚かな光の戦士よ。お前に何ができる?」


 ダークガイアスは両手を広げると、黒い光線を放った。俺は咄嗟に身をかわし、反撃する。体が勝手に動く。スーツアクターとして何度も練習したアクションが、今は自然な動きとなって現れる。


「蒼光剣!」


 腰に下がる光の結晶が伸長し、青白い光の刃となる。俺はその剣を振りかざし、黒い光線を斬り払った。


 セレーネも負けていない。彼女はミニスカートから覗くすらりとした脚で、得意の回し蹴りを放つ。ダークガイアスの放った敵兵たちが次々と吹き飛ばされていく。


「セレーネ、ナイスキック!」俺は声をかけた。


「当然よ! 私たちはパーフェクトコンビなんだから!」


 彼女は微笑み、さらに攻撃を続ける。脚を高く上げた蹴りは優美で力強い。短いスカートがめくれる度に、白い太腿が月明かりのように輝く。


「いくぞ! コンビネーションアタック!」


 俺の声に呼応し、セレーネが飛び上がる。俺は彼女を軽々と受け止め、投げ飛ばす。彼女は宙を舞いながら、両足蹴りでダークガイアスの胸を直撃した。


「くっ! このっ!」


 ダークガイアスが怒りの声を上げる。彼は大きく手を振り、何かの装置を操作した。


 突然、宇宙船内に警報が鳴り響く。赤い光が点滅し、壁から伸びるアームが動き出した。


「なっ!?」


 アームの先端から無数の触手が伸び、セレーネに絡みついた。細く長い触手が彼女の手首、足首、腰、胸に巻き付く。


「きゃあああ!」


 セレーネは悲鳴を上げた。彼女の体が宙に持ち上げられ、両手両足を広げられた状態で宙づりになる。触手は彼女の体を締め付け、スカートの裾をめくり上げ、その下の白い肌を露わにする。


「セ、セレーネ!」


 俺は驚きのあまり足が止まった。この展開は、『蒼光剣アポロナイト』には無かったはずだ。あまりにも過激すぎる。お子様には絶対に見せられない。


「うぅっ……! 助けて、アポロナイト……!」


 セレーネが苦しげに呼びかける。触手から流れる黒い電流が彼女の体を痺れさせ、彼女は小刻みに震えている。


「ふはははは! どうだ、アポロナイト! お前の大切なパートナーがこんな恥ずかしい姿になってしまったぞ!」


 ダークガイアスの声が響く。


「彼女を助けたければ、その蒼光剣を捨てろ! さもなくば、彼女の末路は……ふふふ」


「くっ!」


 葛藤する俺。セレーネの苦しむ姿を見るのは辛い。だが、蒼光剣は宇宙の平和を守るための武器。簡単に手放すわけにはいかない。


「アポロナイト! 私のことは気にしないで! 戦いを続けて!」


 セレーネの声が響く。彼女は触手に絡まれながらも、なおも勇気を失わない。


「セレーネ……!」


 俺は決断した。蒼光剣を地面に投げ捨てる。


「よく決断したな、アポロナイト」


 ダークガイアスは嘲笑う。「だが、約束は守らん! セレーネは解放しない! このまま彼女の純潔を奪い、魔力を吸収してやる!」


「なっ!」


 俺は愕然とした。そんな展開があるのか? いや、あってたまるか! これは一体何だ?


「神代さん! こんなの聞いてませんよ!」


 セレーネ……いや、明日香の声が響いた。彼女は触手にまとわりつかれながらも、怒りの表情を浮かべている。


「な、なんだ?」


「セクハラよ! パワハラよ! こんなミニスカート姿で、触手で体中締め付けて、あなた興奮してるんでしょ! この変態! プロデューサーに言いつけてやるんだから!」


 明日香は触手にまとわりつかれたまま泣き叫ぶ。


「明日香ちゃん……!?」


「そうよ! 私は朝倉明日香! 未来の映像業界を担う大物新人女優よ! あなたみたいな無名の俳優、事務所の力でクビにして、二度と現場に戻れないようにしてやるんだから!」


 その瞬間、これまで抑え込んでいた感情が爆発した。そうだ、この女のせいで俺は現場をクビになったんだ。二十年の功績が水泡に帰し、肩身の狭い思いをして去るしかなかった。理不尽な濡れ衣を着せられ、誰にも弁明する機会すら与えられなかった。


「……お前のせいで……」


 心の中で黒い炎が燃え上がる。復讐心、憎悪、そして何よりも正義感。俺が悪いのではない。彼女が悪いのだ。


「勝手にしろ!」俺は叫んだ。「セレーネなんか見捨ててやる! ダークガイアス、好きにしろ!」


 ダークガイアスが哄笑した。「ほう、アポロナイトが仲間を見捨てるとは。お前も結局、闇に堕ちたか」


「そんな……神代さん、冗談でしょう?」明日香の顔から血の気が引いた。


「冗談じゃない! お前がウソの告発をしたせいで、俺はすべてを失ったんだ!」


 俺の怒りに呼応するかのように、セレーネを絡めとる触手が増え、電流も強くなった。


「きゃああああっ!」


 彼女の悲鳴が響き渡る。触手は彼女の体をさらに締め付け、電流の青い光が全身を走る。空中でだらしなく両足を開き、スカートがめくれ上がり、腰と胸が痙攣する。


「いや、やめて! たすけ……ひぁぁぁん!」


 息も絶え絶えになる明日香。彼女はもはやセレーネではなく、朝倉明日香そのものだ。苦しげに体をよじらせ、涙を流す彼女の姿に、俺の心の中に満足感が広がった。


「因果応報だ。お前が俺にしたことの報いを受けろ」


 ダークガイアスが俺の横に並んだ。「お前も闇に堕ちるのだな、アポロナイト。さあ、一緒に支配者になろう」


 その言葉に、何かが引っかかった。


「支配者……?」


「覚えておけ! 俺は全ての悪を導く存在! そして、この世界の支配者になる男だ!」


 ダークガイアスの宣言に、俺の脳裏でハッとひらめいた。


「それ、俺のセリフじゃないか? なんでお前が言うんだ!?」


 ダークガイアスは一瞬固まったように見える。「お前のセリフ? 何を言っている?」


 混乱する俺。そうだ、あの時、王都で俺が言ったセリフだ。


 現実が歪み始めた。セットが揺れ、ダークガイアスの姿が消えていく。代わりに現れたのは不気味な影。それは徐々に俺自身の姿に変わっていく。アポロナイトの姿をした、もう一人の俺。


「お前は……俺?」


「そうだ、お前は俺、俺はお前だ」


 影が語りかける。「お前も結局は支配したいんだろう? この世界を。魔法姫たちを」


「違う! 俺は……」


「ふはははは!」


 影の高笑いが響き渡る。その後ろでは、明日香が触手に絡めとられたまま、苦悶の表情を浮かべている。俺の罪悪感と憎悪が混ざり合い、不気味な幻影となって現れているかのようだ。


「お前の心の奥底には闇がある。それを認めろ」


 影の声が、俺の心に深く響く。「復讐心、支配欲、そして何より、力への渇望。お前は真のヒーローにはなれない」


「違う! 俺は……俺は……」


 言葉が詰まる。自分の本心とは何なのか、もはや分からなくなっていた。


 すべてが光に飲み込まれ、俺の意識が遠のいていく。


 ☆


「うわっ!」


 俺は飛び起きた。汗で濡れたシーツ、激しく鼓動する心臓。


 夢だった。

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