表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/225

(24)炎の魔法少女、推参!

 エレノアの氷柱は砕け散り、魔獣は赤い光線の衝撃で建物の壁に激突し、半ば気絶したような状態になった。


「え?」エレノアの顔から血の気が引いた。


 舞い降りてきたのは、一人の魔法少女だった。


 赤と黒を基調とした衣装に身を包み、金色のアクセントが煌めいている。火のように赤く長い髪は、高く結い上げられ、肩には小さな炎の模様が刺繍された装飾が施されている。彼女の手には炎の形をした細長い剣が握られ、その刃からは実際に火花が散っていた。


 彼女は高い建物の上から、優雅に飛び降りてきた。着地の衝撃でできた小さなクレーターから、赤い炎のようなオーラが立ち上る。その姿は17歳くらいだろうか。エレノアと同世代だが、その目には自信と経験が宿っていた。


「あららー? 魔法姫さんが何の用?」彼女は挑発的な笑みを浮かべた。その口調には高飛車な印象が漂う。「王宮から追放された身で、よくもまぁ恥ずかしげもなく戻ってこられたわねぇ。根性あるじゃない!」


 エレノアは息を詰まらせた。「メリッサ・フレイムハート……」


「まあ! 覚えててくれたのね。光栄だわ」メリッサと呼ばれた魔法少女は、わざとらしく会釈した。「今や王都を守る魔法少女、メリッサ・フレイムハート! あんたなんかより、ずっと強い本物の魔法少女よ!」


 人々の間から歓声が上がった。


「メリッサ様だ!」

「私たちの英雄!」

「メリッサ様、お待ちしていました!」


 彼女の名前を呼ぶ声が広場中に響き渡る。メリッサは自信に満ちた表情で人々に手を振った。


 俺はアポロナイトの姿のまま、状況を冷静に観察していた。メリッサという少女、彼女の身のこなしには無駄がない。スーツアクターの目から見ても、その戦闘技術は本物だ。エレノアの氷の魔法と違い、彼女の炎は攻撃的で直接的。その違いは明白だった。ただし、アポロナイトの力を持つ俺なら、彼女の動きはすべて読み切れる。


 リリアとミュウは固唾を呑んで見守っていた。


「メリッサ……」リリアが小さな声で言った。


「わたくし、噂だけは知っていたのです」ミュウの猫耳が緊張で震えた。「エレノア様とリリア様が追放された後、王宮を守るために選ばれた魔法少女なのです」


 ロザリンダは険しい表情で状況を見つめていた。「王族ではないが、その力は本物。魔法の適性と戦闘能力が評価され、正式に王宮の守護者に任命されたのよ」


 エレノアとメリッサは睨み合っていた。空気が張り詰め、二人の間に緊張が走る。


「久しぶりー、頭カチンコチンのお姫さま」メリッサが炎の剣を肩に担ぎ、余裕の表情を浮かべた。「まさか今日のお祭りに顔出すなんてね。勇気あるじゃな~い? でも、王都の人々はあんたが何をしたか忘れてないわよ」


 エレノアの表情が強張った。「黙りなさい!」


「あらあら、怖い怖い」メリッサは両手を上げて、わざとらしく恐怖を演じた。「でも、本当に怖かったのはあんたでしょ? あの時、逃げ出すくらいにね」


「……っ!」


 エレノアの表情が強張った、その時――


 魔獣が唸り声を上げ、再び動き始めた。建物の壁から身を引き剥がし、より強い怒りを帯びて立ち上がる。


「アタシの獲物に手を出さないでよね!」メリッサが叫んだ。


 エレノアは彼女の言葉を無視し、残された魔力を振り絞って再び杖を構えた。二人は同時に魔獣へと向かっていく。


 俺は状況を見守った。二人の魔法少女の戦いを邪魔すべきか? エレノアのプライドを考えれば、今はまだ見守るべきだろう。だが、いつでも飛び込める距離を保ったまま、緊張感を持って観察を続けた。


 魔獣に向かうエレノア。彼女の杖から放たれた氷の嵐が魔獣を包み込む。しかし、その氷が魔獣の体を凍らせ始めた瞬間――


「ちょっとー! 邪魔しないでって言ったでしょ!」


 メリッサが放った炎の渦がエレノアの氷を溶かし、その勢いで魔獣の体表を覆っていた。氷と炎が激しくぶつかり合い、蒸気が立ち上る。


「どっちが強いか、試してみる?」メリッサの声には挑発が込められていた。「勝負よ!」


 彼女の両手から巨大な火球が放たれ、エレノアの氷の盾めがけて飛んでいく。エレノアは必死に防御を固めたが、メリッサの炎の勢いに押され、徐々に後退していく。


 俺は二人の戦いぶりを分析した。エレノアの氷は防御に適しているが、メリッサの炎は破壊力に優れている。その相性の悪さが、戦いの行方を決めるだろう。


「熱くなってきたわね!」メリッサが笑った。彼女の全身から赤いオーラが立ち上り、地面を踏み締めるたびに小さな炎の花が咲く。「もっと燃え上がらせてあげるわ!」


 彼女が空中高く飛び上がり、両手を広げた。その指先から無数の火の矢が放たれ、エレノアを取り囲むように降り注ぐ。エレノアは氷の盾を張り巡らせたが、メリッサの炎によって次々と溶かされていく。


「くっ……!」エレノアが苦しげに唸った。


 メリッサの戦い方は情熱的で攻撃的だった。彼女の性格がそのまま戦闘スタイルに現れている。飛び回りながら繰り出す火の攻撃、熱くなる地面、そして炎の剣を振るう姿。


「燃えろ燃えろー!」メリッサが興奮気味に叫んだ。「冷たい氷なんて、アタシの炎で溶かしてあげるわ!」


 エレノアの防御が限界に達する。彼女の氷の盾が完全に崩れ落ち、彼女自身も膝をつく。


 その隙に、メリッサは魔獣に向き合った。


「これで終わりよ! 魔獣!」


 メリッサは炎の剣を振りかぶった。彼女が放った炎の波動は魔獣に向かって飛んでいくはずだった。が――


「えっ!?」


 炎の軌道が途中で変わり、エレノアを直撃した。いや、変えたのだ。メリッサが意図的に。


 青白い氷の魔法衣装が赤い炎に包まれ、エレノアは悲鳴を上げた。


「きゃああああっ!」


 彼女は爆発の衝撃で吹き飛ばされ、近くにあった家の頑丈な石壁に激突する。壁にヒビが入り、エレノアの体が壁にめり込むような形で止まった。


「エレノア!」俺は思わず叫んだ。


「……んんっ……くっ……」


 数秒後、エレノアの体が壁から剥がれるように落下し、地面に崩れ落ちた。彼女の全身がわなわなと震えている。衣装は炎でところどころ焦げ、ボロボロになっていた。


 メリッサは冷ややかな笑みを浮かべた。「あらら、狙いが外れちゃった。ごめんなさーい」


 彼女の声には、明らかに嘲りが含まれていた。


「お姉様……!」リリアが泣きながら駆け寄ろうとした。


 俺は彼女を止めた。「待て、まだ危険だ」


 魔獣が咆哮を上げる。


 メリッサは炎の剣を高々と掲げ、魔獣に向かって一直線に飛んだ。彼女の全身が赤い炎に包まれ、まるで流星のような姿になる。そのまま魔獣の胸に突き刺さると、魔獣の全身が炎に包まれた。


 彼女は剣を魔獣の胸から引き抜き、空中で優雅に回転しながら着地した。魔獣はその場で燃え続け、やがて赤い光の中で消滅した。炎の余波が四方に広がり、建物の壁を焦がす。それでも、彼女の魔法は見事に魔獣だけを打ち砕き、周囲への被害は最小限に抑えられていた。


「ふぅ。これくらい余裕よね」メリッサは髪をかき上げ、満足げに言った。


 エレノアの体から青い光が消えていき、魔法姫の姿から通常の姿に戻った。魔力を使い果たし、変身が解除されたのだ。彼女は丸焦げの惨めな姿で地面に横たわっていた。


「あらら、変身解除しちゃった?」メリッサが高らかに笑った。「さすがは腰抜け姫様、すぐに力尽きちゃうのね」


 リリア、ミュウ、ロザリンダが、エレノアのもとへ駆けつける。


「お姉様、大丈夫!?」リリアが涙を流しながら姉の手を取った。「ひどいよ……こんなことするなんて……」


「エレノア様、しっかりなのです!」ミュウも震える声で呼びかけた。


 エレノアは意識を失っていた。その姿は弱々しく、高慢な王女の面影はなかった。焦げた衣服に覆われた彼女の肌は、月明かりの下で青白く見えた。


「魔獣はアタシが倒したわ! この勝負、アタシの勝ちぃぃぃ! アハハハハハッ!」


 メリッサの高らかな笑い声が辺りに響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ