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(1)クビになった特撮ヒーロー、異世界転移★

特撮ヒーロー×魔法少女×異世界×若返り!痛快ざまぁと師匠無双の物語。お楽しみいただけたら嬉しいです。

 俺は、この世界を破壊したかった。


 愛する子供たちのため、誇り高きヒーローを演じ続けた二十年が、一人の少女の甘い囁きと嘘によって踏みにじられた。


 特撮ヒーロー、その正義の象徴は、俺にとって生きる意味そのものだった。


 だが今、俺の胸にあるのは、正義などという陳腐な言葉ではない。


 ただ、すべてを焼き尽くす、燃え盛る憎悪だけだ。


 そして、その憎悪は、世界を滅ぼすほどの力に変わっていく。


 ☆


神代(かみしろ)! 何度言えばわかる! その動きじゃダメだ! お前のパンチには魂がこもってないんだよ! 力強さがねぇ、迫力がねぇんだ!」


 セットに響き渡る怒声は、俺の鼓膜を容赦なく叩いた。まるで俺の人格を否定するかのような、痛烈な罵倒。ベテラン監督のその言葉に、俺の心は微動だにしない。


 特撮ヒーローの影の功労者として、二十年以上を捧げてきた俺、神代武流(たける)は、口角を薄く歪めて苦笑した。


 この監督の無神経な言葉も、今日で聞き納めだ。


「すみません。もう一度、お願いします」


 冷静に応じる俺の声には、長年の経験が醸し出す余裕がある。しかし、内心は全く違う。


 監督は俺のパンチに「力がない」と言うが、それは違う。俺の本当の動きを見たら、この監督は恐怖で腰を抜かすだろう。


 俺はただのスーツアクターじゃない。真剣に格闘技を究めてきた武術家だ。本気で戦えば、この業界に俺に勝てる相手などいない。


 しかし、撮影はあくまで「見せる仕事」。本気の拳を放てば、相手役の俳優やスタントマンに怪我をさせてしまう。だから俺は、撮影の安全性とリアリティのバランスをギリギリのところで保っている。本気の七割しか出していない。


 それがプロフェッショナルとしての誇りであり、誰にも言えない秘密でもあった。


 だが、誰もその真実を知らない。監督は俺を見下し、口だけの若手アクターは俺を時代遅れだと嘲笑う。


 そんな腐った世界に、もはや未練などなかった。


「最後くらいバシッ! と決めてくれ。お前の撮影は今日限りだろ」


 監督の冷酷な言葉に、俺は黙って頷くしかなかった。業界の理不尽さは知り尽くしていた。


 四十歳、スーツアクターとしては賞味期限切れ。そして何より、若いアクターたちは監督の言いなりになる。


 日曜朝に放送中の特撮ヒーロー番組『蒼光剣(そうこうけん)アポロナイト』。三年前に始まり、俺がスーツアクターとしてアポロナイトを演じている。


 いや、「演じていた」と言うべきか。シリーズ最高のヒットを記録している最中の降板。これほどの皮肉はない。


 解雇の理由は年齢のせいだけではない。「彼女」が原因だ。


 アポロナイトと共に闇の勢力に立ち向かう顔出しのメインヒロイン、セレーネ役の朝倉明日香。


 十七歳の大型新人で、清純な顔立ちとは裏腹に、男なら誰もが魅了されるような抜群のスタイルと色気を持った女優だ。


 長い黒髪を風になびかせ、スカイブルーのミニスカートから覗く白い太腿は、まさに妖精のような美しさ。だが、彼女が演じるセレーネのキャラクターには、その妖艶さが完璧にマッチしていた。


 特撮の現場は命を懸ける場所。俺は彼女が怪我をしないよう、時に監督以上に厳しいアドバイスをしてきた。


 すべては彼女を守るためだったのに――。


「神代武流さんに、セクハラ及びパワハラを受けた」――そう上層部に訴えられた。


 俺の指導が「パワハラ」に映ったらしい。そして何より、際どいミニスカート衣装でのアクションシーンを何度も撮り直させたことが「セクハラ」だと。


 彼女は、俺の指導をむしろ積極的に求めていた。キックの仕方や見せ方の角度について、「武流さん、どうすれば綺麗に見えますか? 見てください」とアドバイスを求めたり、ミニスカートで惜しげもなく高く足を上げたり。


 倒れそうになってわざと俺の腕にしがみついてきたことも一度や二度ではない。休憩時間も、わざと顔や体を近づけてきて、俺を誘惑しようとしているのは見え見えだった。


 だが、真面目な俺は彼女の誘惑には乗らず、あくまでドライに、仕事の関係として接した。


 そのことが、彼女を怒らせたのだろう。


 俺のような顔の見えない影の存在は、簡単に切り捨てられる。二十年の功績など、一瞬で消し飛ぶほど軽かった。


「出番まであと十分です、神代さん」


 助監督の声に、俺は無言で頷いた。まだスーツは着ていない。俺は生身の体で、セットの隅に立っていた。


 最後の出番。この三年間、アポロナイトとして命を懸けてきた日々が、今日で終わる。


 心の奥底に深い空虚感と、そして燃え盛る怒りが渦巻いていく。


 セットの陰で、朝倉明日香の姿が見えた。その瞬間、俺の視線は釘付けになった。


 セットの陰で、明日香がこの作品の男性プロデューサーとこっそりキスし合っていたのだ。


 彼女の剥き出しの右太腿が、プロデューサーの股間に差し入れられ、小刻みに刺激を与えている。プロデューサーは恍惚とした表情で、彼女の胸を揉んでいる。


 あまりに衝撃的な光景に、俺は絶句した。


 プロデューサーは俺に気づかず、満足げな表情で奥へと去っていく。明日香は、その背中を見送ってから、ゆっくりと振り向いた。


 そして、俺に気づく。


 一瞬、「しまった」と絶句したような表情を浮かべるが、すぐに開き直ったように、ニヤリと唇の端を吊り上げた。


 その表情は、普段の清純な顔からは想像もできない、悪女そのものだった。


 ああ、そうか。俺はすべてを悟った。


 俺が彼女の誘惑を無視したのが、彼女のプライドを傷つけた。前から俺を外して若手に替えたいと思っていたプロデューサーは、明日香と共謀して、ありもしないセクハラとパワハラをでっちあげ、俺を現場から追放しようとしていたのだ。


 憎しみが、怒りが、俺の心の臓を掴んで激しく揺さぶる。


 こんな腐った、理不尽な世界で、俺の二十年が、誇りが、踏みにじられようとしている。


「神代さん、最後の撮影、頑張ってくださいね」


 朝倉明日香が俺に話しかけてきた。


 清純な顔立ちに、どこか哀しげな色が滲んでいる。長い黒髪が彼女の頬に柔らかく触れ、その美しさは相変わらず人形のようだった。


「寂しいなぁ。神代さんがいなくなっちゃうなんて……」


 彼女は今にも泣き出しそうな表情で、声まで震わせている。その見事な演技に、俺の腹わたが煮えくり返る。


 十七歳の少女とは思えない、完璧な演技力。いや、これは演技ではない。彼女にとって、これこそが「素」なのだ。人を騙し、操ることが、彼女の本性なのだ。


 その本性に、周囲のスタッフたちは誰も気づかない。誰もが、セクハラとパワハラをした男として、俺を遠巻きにしている。


「あの、神代さん。現場を去る前に、何かすることがあるんじゃないですか?」


 明日香が、まわりのスタッフに聞こえるようにわざとらしく言った。その瞳には涙さえ浮かんでいる。


 俺は心の底から驚愕していた。十七歳の小娘が、ここまで計算高く、悪辣になれるものなのか。まだ高校生の年齢で、男を手玉に取り、プロデューサーと肉体関係を結び、気に入らない相手を陥れる。


 そんな小娘に、俺は敗北しようとしている。


 二十年のキャリアを持つ男が、十七歳の悪女に膝を屈しようとしている。


 屈辱だった。


 明日香は、俺への謝罪を要求していた。俺はそっけなく「悪かった」とだけ口にした。


 謝るべきことなど何もない。だが、そう言わなければ、この場を収めることはできない。


「それだけですか?」


 明日香の声が、悲劇のヒロインを演じるかのように震えた。彼女は両手で顔を覆い、肩を小刻みに震わせる。


「私、あなたのせいで、どれだけ傷ついたと思ってるんですか……毎日、夜も眠れなくて……」


 完璧な演技だった。本当に被害者のように見える。いや、周囲の誰もが、彼女を被害者だと信じている。


 俺は、この見え透いた芝居に付き合わされる屈辱に、奥歯を噛み締める。


 深々と頭を下げて、もう一度、心にもない謝罪を口にした。


「申し訳ありませんでした」


 だが、明日香は納得できない、と首を横に振る。その表情はあくまで清純で、悲痛だ。


「お言葉だけでは……私の心の傷は……」


 涙を頬に伝わせながら、明日香はそう呟く。まるで、俺が彼女を地獄に突き落としたかのような振る舞い。


 その時、一人の男が俺たちの近くにやってきた。さっき明日香とキスしていた、この作品のプロデューサーだ。


 彼は一瞬、明日香と視線を交わした。その瞳は、ほんの一瞬だけ、ねっとりと甘い色を帯びていた。


 プロデューサーは俺を睨みつけ、厳しい声で叱責する。


「神代、お前は本当に謝る気があるのか? その態度じゃ、明日香ちゃんが納得するはずがないだろう」


 プロデューサーは明日香に優しい声で訊ねた。


「明日香ちゃん、どうしてほしい?」


 明日香は震え声で、か細く答えた。


「私……神代さんに、誠意を見せてほしいです……心からの謝罪を……」


 その言葉の裏にある「土下座しろ」という要求を、俺ははっきりと理解した。


 俺は断れない。スタッフ全員の視線が、俺に突き刺さっている。周囲の空気は完全に明日香に同情的で、俺は加害者として糾弾されている。


 十七歳の小娘の策略に、四十歳の男が完全に屈服させられようとしている。


 俺は、屈辱に顔を歪ませながら、明日香の足元に跪いた。そして、額がつくまで頭を下げて、土下座する。


「……あなたにセクハラとパワハラをして……本当に申し訳ありませんでした……」


 その瞬間、俺の心に宿っていた怒りは、憎しみに変わった。


 明日香、お前だけは絶対に許さない。この屈辱を、一生忘れない。


 ゆっくりと顔を上げると、明日香の艶かしい生足があった。光沢ある太腿が冷たく光っている。さっきプロデューサーの股間を刺激していた、穢らわしい太腿だ。俺を見下ろす彼女と、視線が合った。


 彼女は、まるで怯えるかのように、スカイブルーのミニスカートの裾をぎゅっと押さえる。


「や、やだ……また覗こうとしてる……」


 芝居がかった声でそう言うと、明日香は恐怖に震えるフリをした。一歩後ずさり、尻餅をつく。


 この期に及んで、まだ俺を貶めようとする。その悪辣さに、俺の憎悪は頂点に達した。


 俺は、反射的に否定の言葉を口にしようとする。だが、その前にプロデューサーが俺を叱責する。


「神代! お前はどこまで腐ってやがるんだ!」


 明日香は冷たく俺を見下ろしている。


 その時、監督が手を叩いた。


「もういいだろう! 最後の撮影いくぞ! みんな、準備!」


 スタッフが散っていく。プロデューサーも去り、俺と明日香だけになった。


 明日香は、まだ跪いている俺に、ゆっくりと歩み寄ってきた。


 そして、正面にかがみ込むと、顔を近づける。黒髪から漂う爽やかなシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。


 清純な表情は、一瞬で冷ややかな笑みに変わった。


 彼女は俺の額に手を差し出すと、その細く白い指で、強烈にデコピンした。


 ピシッ。


 痛みと屈辱。そして――


「ざまぁみろ」


 彼女の小声の罵りは、俺以外の誰にも聞こえない。俺だけが、彼女の本当の顔を知っている。


「私の誘惑に乗らなかった男なんて、あなただけよ。ホント、ムカつくおっさん……」


 俺はすべてを悟った。明日香はこうして、自分に言い寄る男たちを誘惑し、利用して、のし上がってきた。腐敗した業界の、象徴のような女だ。


「だからこうして俺を潰したのか?」


 俺は小声で尋ねる。


「そう。現場で私のこと、さんざん厳しく叱りつけた罰よ。いい気味だわ。十七歳の私に、四十歳のおっさんが土下座するなんて、どんな気分?」


 明日香の言葉には、勝ち誇ったような、そして憎々しい感情が込められていた。彼女はほくそ笑みながら続ける。


「ねえ、現場で私の下着を見て、どう思ってたの? いつも真面目腐った顔してるくせに……本当はムラムラしてたんでしょ? 男なんて、みんなそうよ」


 明日香は俺の目の前でぴったり合わせた両太腿を、わざと数センチ開いて見せた。嫌でもミニスカートの中の小さな下着が視界に飛び込んでくる。皮肉にも、小さなピンクのリボンがついた清純な純白の下着だった。


 これを見せつけられて反応しない男などいないだろう。俺はごくんと生唾を呑み込む。


 彼女はそんな俺の反応を見逃さなかった。跪いたままの俺の足の付け根にこっそり指を伸ばすと、そこを嘲笑うように指先で弾いた。


 ピシッ!


「うっ……」


 俺は眉間に皺を寄せ、足の付け根を両手で押さえる。痛みと屈辱に苛まれながら、身体を震わせる。


 そして、明日香は俺の耳元に口を近づけ、囁いた。


「このド変態ヒーロー。家に帰って私でオナニーでもしてろ」


 俺はゾッとした。明日香の美しい顔に浮かぶ表情は、まさに悪魔のそれだった。彼女の下衆で悪どい性格は、歴代の特撮ヒーローものに登場するどんな悪の女幹部もかなわないだろう。


「どうした?」


 監督が怪訝な顔で近づいてきた。その瞬間、明日香の顔は、いつもの清純な表情に戻る。


「なんでもありません。神代さん、もういいから立ってください」


 明日香は白々しく俺に手を差し伸べて、立たせた。そして、両手で俺の手を握り締め、にっこりと微笑む。


「最後の撮影、頑張ってください。私、見守ってますから」


 俺は、今にも殴り掛かりたい気分だった。だが、俺はヒーローを演じなければならない。


 俺は黙ってアポロナイトのスーツに着替え、憎しみと絶望を胸に抱きながら、撮影へと向かった。


 ☆


「よし、最後のシーンいくぞ! 必殺技のカットだ!」


 監督の声が響く。今日の最後のシーン。それは皮肉にも、アポロナイトが必殺技「アポロ・ジャッジメント」を放つシーンだった。最凶の敵を倒す決め技――それが俺の「最後の仕事」なのだ。


「神代さん、これが最後の撮影になって申し訳ありません」


 若手スタッフが小声で話しかけてきた。


「僕は神代さんのファンです。子供の頃から見てきました。今日のシーン、最高のものにしましょう」


 彼の真摯な眼差しに、思わず胸が熱くなる。こんな若者がいる限り、特撮の世界は続いていく。


 だが俺には、もはや関係ない。


 アポロナイトのスーツに身を包みながら、俺の心は冷え切っていた。この二十年間、俺が築き上げてきたすべてが、十七歳の小娘の嘘ひとつで崩壊した。


 セットの向こうで、朝倉明日香が俺を見つめているのが分かる。清純な顔で心配そうな表情を浮かべているが、俺にはその化けの皮が透けて見える。プロデューサーと戯れていた時の、あの悪魔のような笑みが。


 ――このド変態ヒーロー。


 彼女の囁きが、まだ耳に残っている。


 憎い。憎くて憎くて、胸が張り裂けそうだ。だが、それ以上に虚しい。


 俺が守ろうとしていたものは何だったのか? 子供たちの夢? 正義の象徴? それとも、自分自身のプライド?


 すべてが嘘だった。すべてが、この腐りきった世界の茶番劇でしかなかった。


 カチンコの音と共に撮影が始まる。


「スタート!」


 俺はアポロナイトの姿で、腕輪の変身ブレイサーを高々と掲げる。二十年間、何千回と繰り返してきた動作。だが今日は違う。


 今日で、すべてが終わる。


「真の正義の前に、悪しき魂よ、消え去れ! アポロ・ジャッジメント!」


 台詞を吐き出す瞬間、俺の心の中で何かが弾けた。


 表の顔と裏の顔が激突し、砕け散ったのだ。「真の正義の前に」と口にしながらも、心の中では「真の正義など、この世界には存在しない」と叫んでいた。


 朝倉明日香。あの小娘のせいで――いや、違う。


 俺が憎んでいるのは、明日香だけじゃない。この世界そのものだ。力のない者を踏みにじり、嘘と欺瞞が真実を覆い隠す、この腐った現実すべてが。


 俺の中で、二十年分の怒りと絶望が渦巻く。すべてを焼き尽くしたい。すべてを破壊したい。この世界を、この理不尽を、すべて――


挿絵(By みてみん)


 その時、予想外の事態が起きた。


 ライトの光が急激に強まり、ブレイサーに反射した。だが通常ならそれだけのはずが、反射光が制御不能に増幅され、青白い光線となって放射された。


「おい、何が起きてる!?」


 監督の怒声。


「ライトの出力、おかしいです!」


 照明担当の混乱した声。


 だが、その声はもはや遠い彼方から聞こえてくる。俺の体は青い光に包まれ、現実感が薄れていく。


 まるで俺の絶望と怒り、そしてこの世界を破壊したいという渇望が、物理的な形となって現れたかのように。


 光の中で、俺は笑った。ヘルメットの奥で、誰にも見えない笑みを浮かべた。


 これは偶然なのか? それとも――


「これは……演出じゃない」


 スーツの中で呟いた。感覚が変容していく。必殺技を繰り出す腕の動きと共に、現実そのものが歪み始めた。


 俺の中で、何かが目覚める。二十年間封印してきた、本当の力が。


「カット、カット!」


 監督の叫びが遠くから届く。


「神代さん!」


 若手スタッフの切迫した声。もう、彼らとは別れの時だ。


「あの光……」


 朝倉明日香の声も聞こえた。初めて聞く、彼女の本当に驚いた声だった。計算も演技もない、純粋な恐怖。


 それが妙に心地よい。


 ブレイサーが放つ光が現実を貫いた。俺の周りには青い光の渦が形成され、その中心に何かが見えた。


 扉――別の世界への入り口。


 そして、青い閃光の向こうに現れた人影。


 二十歳ほどの若い女性。頭上には実際の星々が冠のように輝き、豪奢な魔法衣装に身を包んだ、その高貴な姿は――


 魔法少女。


 彼女は朝倉明日香とは正反対だった。その瞳には嘘偽りがなく、真っ直ぐな意志の光が宿っている。


 彼女の唇が動き、直接俺の魂に響くように声が届いた。


「来たれ、星の導きし光の勇者よ」


 来たれ、と彼女は言った。


 勇者、と呼んだ。


 俺を、勇者と。


 心の奥底で、何かが燃え上がる。二十年間、影でしかなかった俺を、彼女は勇者と呼んだ。


 これが……答えなのか?


 光の門を見つめながら思った。これは新たな始まりなのかもしれない。本当の戦いの始まりかもしれない。


 腐りきったこの世界で、俺は「正義のヒーロー」を演じることしかできなかった。だが、あの世界でなら――


 あの世界でなら、俺は本物の英雄になれるかもしれない。


 本当の敵と戦い、本当の正義を貫き、本当の力を振るうことができるかもしれない。


 俺の心に、これまで感じたことのない強い意志が芽生えた。希望という名の炎が燃え上がった。


 明日香への憎しみも、この世界への絶望も、すべてが力に変わっていく。破壊への渇望が、創造への意欲に昇華されていく。


 俺はもう、この世界の住人ではない。


 俺は、新たな世界の勇者だ。


 光の門の向こうから、冒険の予感が漂ってくる。強大な敵、美しい仲間、壮大な戦い――俺が本当に求めていたものすべてが、そこにある。


「やるしかねえか。ここから、俺の"本番"が始まる!」


 そして俺は、自らの絶望から生まれた裁きの光に飲み込まれていった。

お読みいただき、ありがとうございます!

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