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(184)魔法少女狩り[13]〜セシリア、高慢の報い〜

「第一攻撃フェーズ、開始」


 セシリアが杖を構え、計算し尽くされた魔法を発動した。


「クリスタル・プリズム・アレイ――全方位光線攻撃」


 無数の水晶のプリズムが空中に展開された。それらは複雑な三次元配置を取り、太陽光を精密に屈折させてクラリーチェを完全包囲する。光線は単純な直線ではなく、プリズム間で何十回もの反射を繰り返し、理論上は絶対に回避不可能な攻撃網を構築していく。


「これが完璧な戦術です。逃げ場は一切ありません」


 光線の嵐がクラリーチェを襲った。その威力は凄まじく、舞台の床を深く焦がし、周囲の装置を完全に溶解させるほどだった。攻撃が終わると、クラリーチェの姿が立ち上る煙と蒸気に包まれて完全に見えなくなる。


「第一フェーズ――完全命中確認」


 セシリアが冷静に戦況を分析する。煙の向こうから生命反応を探るように、水晶の探査魔法を展開していた。


 しかし煙が晴れると、そこには髪一筋乱れることなく立っているクラリーチェの姿があった。


「なるほど、なかなかの威力じゃったぞ」


 クラリーチェが楽しそうに手を叩いている。まるで花火でも見ていたかのような、のんびりとした表情だった。


「まだ余興の段階ですから。では、第二攻撃フェーズです」


 セシリアが動揺を見せることなく、次の攻撃を準備した。完璧主義者としてのプライドが、彼女を冷静に保たせていた。


「クリスタル・フォートレス・マキシマム」


 今度は巨大な水晶の城塞がセシリアの周囲に現れた。美しく荘厳な要塞は、攻撃と防御を完璧に両立した戦術的建造物だった。城塞の各所に配置された数十基の水晶砲台が、一斉にクラリーチェに向けて照準を合わせる。


「連続砲撃――開始」


 ドォン、ドォン、ドォン――!


 連続する砲撃音が劇場を激しく震わせた。水晶の砲弾がクラリーチェを次々と襲い、着弾と同時に巨大な爆発を起こしていく。爆発の煙で舞台が完全に白く煙り、観客席まで衝撃波が伝わる。


 攻撃は丸々三分間続いた。その威力は建物を完全に破壊し、地面に巨大なクレーターを作るほどの破壊力だった。セシリアは一切の手加減をせず、文字通り全力で攻撃を続けていた。


「第二フェーズ――砲撃完了」


 セシリアが砲撃を停止すると、舞台は静寂に包まれた。立ち上る煙と埃の中で、何かが動く気配は全くない。


「これで終わりでしょう」


 セシリアが勝利を確信した表情を見せた。これほどの攻撃を受けて生き残れる存在など、この世にあるはずがない。


 しかし煙が晴れると――またしても、クラリーチェは全く無傷で立っていた。それどころか、退屈そうにあくびをしている。


「素晴らしい火力じゃな。じゃが、まだ足りぬようじゃ」


「そんな――」


 セシリアの顔に、初めて動揺の色が浮かんだ。しかし、彼女はすぐに気持ちを立て直す。


「ならば、私の真の力を見せて差し上げます」


 セシリアの瞳に、これまでで最も強い決意と自信の光が宿った。完璧主義者としてのプライドが、彼女を最後の切り札へと向かわせる。


「クリスタル・リフレクション・アルティメット――完全複製術」


 セシリアの周囲に巨大な鏡のような水晶が次々と配置された。十二枚、二十四枚、最終的には六十枚を超える巨大な鏡が、複雑な幾何学模様を描いて空中に浮遊する。


 そして、それぞれの鏡からセシリア自身の完璧なコピーが現れ始めた。


「私自身を無数に複製し、その全員で一斉攻撃を行う。これが私の最終戦術です」


 無数のセシリアが鏡から現れ、それぞれが本物と同じ装備、同じ能力、同じ知識を持っている。十体、二十体、三十体――最終的には八十体を超えるセシリアのコピーが舞台を埋め尽くした。まさに壮観な光景だった。


「さあ、これでどうです!」


 セシリアが勝ち誇ったような表情を見せる。これほどの戦力差があれば、どんな相手でも勝てるはずだった。


 コピーたちが一斉に杖を掲げ、クラリーチェを完全包囲した。八十体を超える魔法少女による包囲陣は、まさに圧巻だった。


「全軍――最大威力一斉攻撃」


 八十体を超えるセシリアが、同時に最大威力の魔法を放った。無数の光線、無数の水晶の槍、無数の砲撃――あらゆる種類の攻撃が、あらゆる角度からクラリーチェに集中する。その威力は想像を絶するもので、舞台全体が眩い光に包まれた。


 爆発音が途切れることなく五分間も続き、舞台は完全に煙に包まれた。その間クラリーチェの姿は完全に見えなくなり、生命反応すら感じられない状態が続いた。


「これで終わりです!」


 セシリアが息を切らしながら、しかし満足そうに呟いた。八十体という圧倒的な戦力による一斉攻撃。これほどの攻撃を受けて無事でいられる存在など、この世にあるはずがない。


 観客席からも、固唾を飲んで見守る視線が集まっている。誰もがセシリアの勝利を確信していた。


 煙が晴れ始めた。そして――


「ほほう、なかなか見事な攻撃であった」


 煙の中から、全く無傷のクラリーチェが現れた。髪一筋乱れることなく、服にしわ一つなく、まるで微風に当たっていただけのような表情で立っている。


「そんな……あれほどの攻撃を受けて……八十体による一斉攻撃を……」


 セシリアが愕然とした。理論上、どんな敵でも倒せるはずの必殺技が、全く効果を示していない。彼女の完璧な戦術が、完全に無効化されていた。


「効いていないのではない」


 クラリーチェが教師のような口調で、まるで生徒を諭すように解説を始めた。


「わらわは、おぬしの力を詳細に分析させてもらっていただけじゃ。攻撃パターン、魔力の流れ、戦術の傾向、そして何より……おぬしの心理的な弱点まで、すべてを観察していた」


 クラリーチェの瞳に、これまでとは違う光が宿った。本気の戦闘意欲ではなく、獲物で遊ぶ猫のような、残酷で楽しそうな光だった。


「そして今、おぬしという存在の全てを理解した。完璧主義者の脆さ、高慢さの裏に隠された不安、そして何より、失敗への恐怖をな」


 セシリアの顔が青ざめていく。まるで心の奥底を見透かされたかのような恐怖が、彼女を襲い始めた。


「では、お返しをさせてもらおうかの。おぬしが作り出した完璧な軍団を使って、特別な授業をしてやる」


 クラリーチェが軽く指を弾くと、セシリアのコピーたちに異変が起こった。鏡から生まれたコピーたちの瞳が、突然赤い光を帯び始める。そして、彼女たちが一斉にセシリア本人に向き直った。


「な……なぜ、私のコピーが私の方を……」


「深淵魔法――鏡像反転」


 クラリーチェが冷酷に宣告した。


「おぬしが作り出したコピーを、わらわが支配下に置いた。今や、それらはすべてわらわの忠実な手駒じゃ」


「まさか……そんなことが……」


 セシリアの声が震えていた。自分が作り出した完璧な戦力が、敵の手に落ちるなど、想像すらしていなかった事態だった。


「おぬしの完璧な戦術――わらわが利用させてもらうぞ」


 クラリーチェが楽しそうに手を叩くと、八十体を超えるセシリアのコピーが、本物のセシリアに向かって一斉に攻撃態勢を取った。


「やめて……!」


 セシリアが必死に懇願するが、コピーたちの瞳に宿る赤い光は、もはや彼女の声を聞いていなかった。


「攻撃開始」


 クラリーチェの命令と共に、八十体を超えるセシリアのコピーが、本物のセシリアに向かって一斉に魔法を放った。


 最初は光線攻撃だった。無数の光線がセシリアを襲い、彼女の美しいドレスを次々と切り裂いていく。青と白のエレガントな衣装に、無数の裂け目が走った。


「きゃあああ――やめて――!」


 セシリアが必死に回避しようとするが、八十体による攻撃は回避不可能だった。彼女自身の完璧な戦術が、今度は彼女を苦しめる凶器と化している。


 次は水晶の槍攻撃だった。鋭利な水晶の破片が彼女の衣装を削り取り、美しいドレスの装飾を一つ一つ破壊していく。胸元のサファイアのブローチが砕け散り、頭部のティアラも粉々になって地面に落ちた。


「私の……私の完璧な衣装が……」


 セシリアの悲鳴が劇場に響く。完璧主義者である彼女にとって、自分の美しい姿が破壊されることは、精神的な拷問に等しかった。


 さらに砲撃が始まった。自分自身が作り出した水晶の砲弾が、容赦なくセシリアを襲う。彼女は必死に魔法で防御しようとするが、コピーたちは本物と同じ能力を持っているため、彼女の防御パターンも完全に把握していた。


「深淵魔法――屈辱のショーステージ」


 クラリーチェが残酷な笑みを浮かべながら、舞台全体をまるでサーカスのように変化させた。無数の鏡が観客席に向かって配置され、セシリアが自分のコピーに攻撃される様子が、あらゆる角度から観客に映し出される。

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