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(181)魔法少女狩り[10]〜リュウカ先生、愛の嵐〜

「さてさて、次の餌食は――」


 クラリーチェが楽しそうに舞台を見回した。その視線が、恐怖に震えながらも勇気を振り絞ろうとしているリュウカ先生に止まる。金髪を高く結い上げ、胸元の大きく開いた服装を纏ったリュウカ先生の豊満な胸が、激しい呼吸と共に上下していた。


「武流先生」


 リュウカ先生が俺に向かって震え声で呟く。その瞳には、仲間たちの無様な敗北を目の当たりにした恐怖と、それでも俺を守ろうとする強い意志が混在していた。しかし、俺にはわかっていた。彼女の感情が高ぶると、魔法の制御が不安定になってしまう癖があることを。


 俺は蔦に拘束されたまま、彼女を見つめる。七歳の小さな体では、声をかけることしかできない。


「リュウカ先生、無理をするな」


 しかし、リュウカ先生は俺の制止を聞かなかった。愛する男性を救うために、そして魔法戦闘術教師としての責任感から、立ち向かう決意を固めていた。


「私は……私は武流先生の同僚として、教師として、生徒たちを守る義務があります!」


 リュウカ先生が拳を握りしめながら立ち上がった。その瞬間、彼女の周囲に電撃がスパークし始める。普段から情緒不安定な彼女の魔力が、感情の高ぶりと共に暴走の兆しを見せていた。


「あ、危険です! みなさん、下がってください……」


 リュウカ先生が慌てて周囲に呼びかけた。彼女の電撃魔法は強力だったが、制御が困難で、しばしば周囲を巻き込んでしまう欠点があった。舞台袖で倒れている魔法少女たちも、彼女の魔法の余波を避けようと身を縮めている。


「ほほう、まだ戦う気概を持つ者がいるのか」


 クラリーチェが十七歳の美しい顔に興味深そうな表情を浮かべた。成長した身体を漆黒のローブに包み、まるで年上の先輩が後輩を見下ろすような視線を向けている。その美貌には慈愛すら感じられるが、俺にはわかっていた。それが獲物を前にした捕食者の笑みであることを。


「しかし、教師風情がわらわに挑もうとは……身の程知らずにも程がある」


 クラリーチェの嘲笑に、リュウカ先生の感情が爆発した。


「教師風情ですって!? 私は、私は武流先生と同じ教育者として……生徒たちを守る使命を帯びているんです!」


 その瞬間、リュウカ先生の魔力が臨界点に達した。


「雷と愛の守護者よ! 今こそ私に力を!」


 眩い赤と黄色の光がリュウカ先生の全身を包み込む。光の粒子が螺旋を描きながら彼女の周囲を舞い踊り、やがて収束していく過程で、彼女の姿が劇的に変化した。普段の胸元の開いた服装が光となって舞い散り、代わりに現れたのは赤と黒のコルセット風魔法少女衣装だった。


 胸元を強調したコルセットは彼女の豊満なバストを際立たせ、短いプリーツスカートからは健康的な太腿が覗いている。赤いマントが背中から流麗に垂れ下がり、電撃を象徴する雷文様が全身に刻まれていた。頭部には小さな雷のティアラが輝き、手にした杖には雷の魔力を宿した水晶球が嵌め込まれている。


「雷と愛の魔法少女、リュウカ・サンダーフィスト!」


 彼女が力強く名乗りを上げ、杖を天に向かって掲げた。そして――


「愛の雷で、あなたを制裁します!」


 最後の決め台詞と共に、杖から激しい雷光が迸る。しかし、その雷光は制御が不安定で、あちこちに飛び散ってしまった。


 その隙を狙って、セシリアが密かに行動を開始していた。


「今です」


 水晶の魔法少女セシリアが、観客からは見えない舞台裏から、俺を拘束している蔦に向けて精密な光線魔法を放った。細くて鋭い光の刃が、蔦の結び目を的確に切断していく。


 俺は驚いた。セシリアが密かに救出作戦を実行していたのだ。リュウカ先生の派手な魔法でクラリーチェの注意を引きつけ、その隙に俺を解放する。確かに理にかなった戦術だった。


 蔦の拘束が緩んでいく。あと少しで自由になれる。


「武流先生 私の愛の雷を受けてください!」


 リュウカ先生が渾身の力を込めて攻撃魔法を放った。


「サンダー・ラブラブ・アタック――!」


 武流への一方的な愛情を込めた電撃が、クラリーチェに向かって一直線に襲いかかる。その威力は確かに強力で、舞台の床を焦がしながら進んでいった。


 しかし、クラリーチェは微動だにしなかった。


「愛の雷? 面白い発想じゃな」


 クラリーチェが楽しそうに手を差し出すと、リュウカ先生の電撃が彼女の掌に吸い込まれていく。まるで避雷針のように、すべての雷を一手に引き受けていた。


「じゃが、所詮は三流教師の戯れ。この程度の雷など――」


 クラリーチェが軽く手首を返した。その瞬間、吸収した電撃が何倍にもなってリュウカ先生に跳ね返されてきた。


「きゃあああああ――!」


 自分自身の雷に撃たれたリュウカ先生が、激しく感電して舞台上でのけぞった。制御不能な電撃が彼女の全身を駆け巡り、豊満な胸が激しく震える。コルセット風の衣装に包まれたバストが、電気ショックで痙攣するように上下に跳ねていた。


「あっ……うああ! 止まらない――!」


 リュウカ先生の口から、苦悶と快感が入り混じった嬌声が漏れる。自分の魔法による感電で、身体が勝手に反応してしまっているのだ。赤いスカートが電撃で舞い上がり、下着が観客席から見えそうになる。


 しかし、俺の注意はそれどころではなかった。蔦の拘束がほぼ解けかけている。あともう少しで――


「ふふふ、なるほど」


 突然、クラリーチェの声が俺のすぐ近くで響いた。


 振り返ると、クラリーチェが俺のすぐそばに立っていた。いつの間に移動したのだろうか。


「セシリアよ、なかなか巧妙な作戦じゃったが……わらわの眼を誤魔化せると思ったか?」


 クラリーチェの指先から、新たな黒い蔦が無数に現れた。それらは瞬く間に俺の全身に絡みつき、先ほどよりも遥かに強固に拘束してしまう。


「くそ――!」


 俺は必死にもがいたが、七歳の筋力では新しい拘束を引きちぎることは不可能だった。それどころか、今度の蔦は俺の手足を完全に固定し、身動きすら取れない状態にしてしまった。


「武流先生……!」


 リュウカ先生が電撃の後遺症で震えながらも、俺の窮地を見て絶望的な叫び声を上げた。


「では、愚かな三流教師よ。おぬしには特別な授業をしてやろう」


 クラリーチェが残酷な笑みを浮かべながら、今度はリュウカ先生に向き直った。


「『雷』の本当の恐ろしさを、身をもって体験させてやる」

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