(167)幼女エレノア爆誕
エレノアと俺の異変を最初に発見したのは、リハーサルを終えて控室に戻ってきたリリアだった。
「あれ? あの子たちは誰――」
リリアの言葉が途中で止まった。俺とエレノアの顔をまじまじと見つめると、その瞳が次第に大きくなっていく。
「え? まさか――師匠? お姉様?」
リリアの声に驚いて、他の魔法少女たちも続々と集まってきた。ミュウ、ステラ、アイリーン、ルル、リュウカ先生、セシリア――そして、ロザリンダとエレノアの三人の弟子たちも現れる。
全員が俺とエレノアの姿を見て、一様に困惑した表情を浮かべた。
「武流先生……?」ステラが恐る恐る声をかけてくる。
「エレノア様……?」ケインも信じられないという表情だった。
「本当に……本当にお二人なのですか?」
サイモンが眼鏡を光らせながら分析的に俺たちを観察する。確かに、いきなりこんな姿になったと言われても、簡単には信じられないだろう。
「俺だ」俺が子供のような高い声で答えた。「神代武流だ。何らかの魔法で、この姿に変えられてしまった」
「私もエレノア・フロストヘイヴンよ」エレノアも同じように答える。「信じられないかもしれないけれど、中身は変わっていないわ」
しばらくの沈黙の後――。
「きゃああああ♪」
ミュウが突然大きな声を上げて、俺に抱きついてきた。
「師匠、とても可愛いのです! まるで天使のような美少年なのです〜!」
猫耳をピンと立てたミュウが、俺の頬をすりすりと撫でている。その感触は確かに気持ちいいのだが、俺の尊厳的にはかなり複雑だった。
「ちょっと、ミュウ――」
「わあ♪ 師匠の声も可愛い! 高い声でとても愛らしいのです〜!」
ミュウが更に俺にしがみついてくる。普段なら俺の胸の高さにあった彼女の頭が、今では俺より高い位置にあった。身長差が完全に逆転してしまっている。
「ちょ、ちょっと待て――」
「きゃー! 信じられない!」
リリアが目を丸くして両手を頬に当てた。
「師匠が……師匠が子供になってる! しかもこんなに可愛い!」
「う、うそでしょ……」
ステラが口をぽかんと開けたまま、俺とエレノアを交互に見つめている。
「武流先生とエレノア様が、本当に七歳の子供に……」
「き、きゃあああ!」
突然、ステラが感情を爆発させた。
「こんな可愛い武流先生なんて反則よ! エレノア様も天使みたい!」
そして勢いよくエレノアを抱き上げた。
「エレノア様、こんなに小さくなっちゃって! まるでお人形さんみたい!」
「ちょっと、降ろしなさい!」エレノアが抗議するが、その高い声がかえって可愛らしさを増している。
「あわわわわ……」
ケインが完全に放心状態で、幼いエレノアを見つめている。
「エレノア様が……七歳の……あまりの美しさに……言葉が……」
そして突然、感激で涙を流し始めた。
「幼いエレノア様も、まるで天使のようです! この美しさは反則的です!」
「あ、あの……ケイン……」
「待て待て、落ち着けよケイン」
ルークが慌ててケインを支えた。しかし、彼自身も動揺を隠せずにいる。
「エレノア様の幼少期のお姿……想像を絶する美しさです……」
「だ、だから、そんなに大げさに……」
エレノアが照れているが、その表情もまた幼い顔立ちと相まって、言いようのない愛らしさを醸し出していた。
「お、落ち着いて分析しましょう」
サイモンが眼鏡を光らせながらも、明らかに動揺している。
「理論的に考えても……いえ、これは理論を超越した可愛さです」
「うわあああ!」
アイリーンが突然叫んで俺に抱きついてきた。
「武流先生の幼い頃のお姿、想像以上に愛らしくて……こんなに可愛い先生に教えてもらえるなんて、夢みたい!」
「アイリーン、落ち着け……」
「わああ! 師匠と同じくらいの大きさ!」
ルルが大興奮で俺に駆け寄ってきた。
「ルル、師匠とお友達になれる〜♪ 一緒に遊べる〜♪」
「遊ぶって……」
「武流先生〜♪ 私も抱っこさせてくださいませ〜♪」
リュウカ先生まで参戦してきた。豊満な胸で俺を包み込もうとするが、俺の小さな体では完全に埋もれてしまいそうになる。
「リュウカ先生、息ができない……」
「あ、すみません〜♪ でも、あまりにも可愛くて〜♪」
「み、みんな……」
俺は子供の声で必死に状況をコントロールしようとしたが、その声がさらに愛らしさを増してしまう。
「こ、これは夢じゃないよね……」リリアが自分の頬をつねった。「本当に師匠とお姉様が子供になってる……」
「わたくしも……信じられないのです……」
ミュウが俺を抱きながら、まだ現実を受け入れきれずにいる。
セシリアも水晶の杖を持ちながら、俺とエレノアを観察していた。
「確かに、お二人ともとても愛らしいお姿ですね。まるで貴族の子弟のようです」
ロザリンダも微笑みながら近づいてくる。
「武流さん、エレノアさん……本当にお二人なのですね。とても信じられませんが、その表情と話し方は確かにお二人のものです」
俺は魔法少女たちに囲まれながら、複雑な気分になっていた。確かに彼女たちの反応は純粋で愛らしいものだったが、俺としてはもう少し事態の深刻さを理解してほしかった。
「みんな、気持ちはわかるが、今は喜んでいる場合じゃない」俺が声を上げようとしたが、子供の声では迫力に欠ける。
「そうよ」エレノアも同意した。「この異変の原因を突き止めて、元に戻る方法を見つけなければならないの」
しかし、魔法少女たちの興奮はまだ続いていた。
「ちょっと、みんな――」
俺が抗議しようとした時、ミュウが俺の両頬を手のひらで包み込んだ。
「師匠、この頬のぷにぷに感がたまらないのです〜!」
「ぷにぷにって……」
俺は必死に抵抗しようとしたが、七歳の体では力が足りない。普段なら軽く避けられるような動きも、今の俺には困難だった。
エレノアの方も似たような状況で、ステラとアイリーンに挟まれて身動きが取れずにいる。
「エレノア様、このまま私たちが守って差し上げます」
「そんな小さな体では、危険が多すぎます」
「私は自分で身を守ることができるわ」エレノアが抗議するが、その声もまた愛らしい。
しばらくして、ようやく魔法少女たちの興奮が落ち着いた頃、俺は改めて状況を整理することができた。
「エレノア、お前にも同じ異変が起きたのか?」
「ええ」エレノアが頷く。「私もあなたと同じよ。突然激しい耳鳴りがして、それから意識を失った。気がついた時には、もうこの姿になっていたの」
「耳鳴り……やはり同じか」
俺の予想通り、エレノアにも俺と同じ現象が起きていた。これは偶然ではない。明らかに何者かが、意図的に俺たちを狙ったのだ。
「他に異変を感じた者はいるか?」俺が周囲を見回して尋ねた。
魔法少女たちは首を振る。
「わたくし、何も感じませんでした」
「私も同じです」
「理論的に考えても、師匠とエレノア様だけに起きた現象のようですね」
アイリーンの分析通り、異変は俺とエレノアだけに起きていた。他の魔法少女たちに変化はない。
「それにしても」俺が自分の体を見下ろした。「力も弱くなってしまったようだな」
俺は変身ブレイサーを見つめた。右腕に装着されているが、サイズが合わなくなって緩くなっている。
「試してみよう」
俺は変身ブレイサーを掲げた。
「蒼光チェンジ!」
いつもの決めポーズを取りながら、変身を試みる。しかし――何も起こらなかった。
ブレイサーは光ることもなく、変身のエネルギーも発生しない。まるで普通の装飾品になってしまったかのようだった。
「ダメか……」
俺は落胆した。アポロナイトに変身できなければ、戦闘力は大幅に低下してしまう。
「私も試してみるわ」
エレノアも氷の魔法を使おうとしたが、やはり何も起こらない。魔力自体が大幅に減少してしまっているようだった。
「魔法も使えないのね……」
エレノアの表情に不安の色が浮かんだ。
「問題は」俺が深刻な顔になった。「この状態で歌劇の本番に臨めるのかということだ」
確かに、それは深刻な問題だった。エレノアは氷の女王役で出演予定だが、この七歳の姿では衣装がぶかぶかになってしまう。
「衣装の調整が必要ですね」セシリアが実務的に提案した。「幸い、まだ少し時間があります。急いで直せば――」
「いや、それ以前に」俺が手を上げた。「この異変の原因を突き止めて、元に戻らなければならない」
俺は拳を握りしめた。小さな手だが、決意は変わらない。
「このまま放置すれば、他の魔法少女たちにも同じことが起こる可能性がある。それに、歌劇を成功させるためにも、俺たちは元の姿に戻る必要がある」
「そうね」エレノアも同意した。「でも、どうやって元に戻るの? 解呪の方法がわからなければ……」
確かに、それが最大の問題だった。原因がわかっても、解決策がなければ意味がない。
俺は決意を固めた。
「なんとしても、原因を突き止めて元に戻らなければならない。歌劇の成功のためにも――」