(162)劇的ざまぁの末路
俺の突き出した蒼光剣が、クラリーチェの心臓部に迫る。
ヒュン!
「……っ!」
クラリーチェの身体が硬直する。だが、衝撃は来ない。
ハッと目を開けると、蒼光剣は胸に触れる直前、わずか数ミリのところでピタリと止まっていた。俺が絶妙な剣技で、寸止めしたのだ。
「はぁ……はぁ……」
クラリーチェは大きく息を吐いた。自分がエレノアにしたのと同じ仕打ちを受けたことを悟った様子だ。
俺はそのまま剣を鞘に収めると、空中に固定されたクラリーチェに近づく。彼女はまだ「恥ずかし固め」の体勢で、空中に逆さまのまま拘束されている。
「お前の罪はエレノアを辱めたことだけじゃない。俺たち魔法少女歌劇団の歌劇を危険視し、公演中止に追い込もうとするとは……そのために俺の公開処刑まで目論むとは……断じて許さん!」
クラリーチェがビクッとする。
俺の中に、クラリーチェに何度も何度も処刑された記憶が甦る。もちろん、クラリーチェにとっては今日は一は一度きりなのだろうが、俺には無限の地獄だった。
「幼女の身体に多少の慈悲はくれてやる。だが、支配者としての誇りだけは、徹底的にへし折らせてもらうぞ!」
俺はそう告げると、蔦に覆われたクラリーチェの身体から覗く汗まみれの素肌を、指先で素早く弾いた。
ピシッ!
鋭い音が夜空に響き渡った。エレノアが受けたのと同じ屈辱だ。
「ひゃあ……!」
クラリーチェの全身が激しく跳ね上がり、彼女の口から情けない悲鳴が漏れる。
「可愛い声で鳴くじゃないか。さすがは穢れなき可憐な幼女だな」
俺は冷ややかに言った。
「くっ……!」クラリーチェの顔が歪む。
俺は続けて、もう一度、素肌の別の一点を指先で弾いた。
ピシッ!
「……っ!」
今度は声にならなかった。だが、クラリーチェの身体はさっきよりも大きく跳ねた。全身が制御を失い、小刻みに震え続ける。俺は彼女の恐怖に染まった顔を見つめ、さらに三度、四度と、あちこちを執拗に弾き続けた。
ピシッ! ピシッ! ピシッ!
連続する乾いた音と、その度に小さく跳ね上がるクラリーチェの身体。彼女の目からは、もう恐怖の涙ではなく、ただひたすらに精神的な屈辱によるものが溢れていた。口元は引きつり、幼い赤子のような声にならない呻き声が漏れる。
「はぅぅ……」
体はすでに俺の指の動きに反射的に反応し、弾かれる度に、意思とは関係なく身体が弾むような動きを繰り返した。それは、支配者の威厳が完全に崩れ去り、ただただ弄ばれるだけの存在になったことを如実に示していた。
「これが、エレノアを弄んだ罰だ。そして、俺がお前を支配した証だ」
俺は最後に、最も強く、深く、渾身の力で素肌の一点を弾いた。
ビシィッ!!
「んはぁぁぁ……!」
クラリーチェの全身が硬直したかと思うと、次の瞬間、糸が切れた人形のようにガクンと力を失った。彼女の目から光が消え、ただ虚空を見つめている。
逆さまのまま、だらしなく両足を開き、全身を震わせているその姿には、支配者としての誇りも、威厳も、もう何も残っていなかった。
これだけやれば十分だろう。俺は振り向き、見守っていたエレノアを見つめた。俺たちは無言で視線を交わし、頷き合う。彼女が俺の「おしおき返し」をどんな気持ちで見守っていたのか、それはわからない。だが、俺の想いはエレノアに伝わっただろう。
その時、遠くから駆けつけるロザリンダの姿が見えた。
「武流さん! クラリーチェ様!」
ロザリンダの声が響いた。彼女が慌てたように駆け寄ってくる。手には例の古文書を抱えており、その表情は切迫したものだった。
ロザリンダの声に、俺は攻撃を止めた。クラリーチェを拘束していたエネルギーが解け、彼女の小さな身体が地面にドサっと崩れ落ちる。
「はあ……はあ……」
地面に手をついて四つん這いになったクラリーチェは、荒い息を繰り返していた。汗だくの身体は震え、破れたローブは肌に張り付いている。長時間、カエル足状態で開脚させられたせいか、まだ太ももを開いたまま小刻みに腰を痙攣させている。威厳ある支配者の面影は、もはや完全に失われていた。
「やめろ、だと?」
汗だくのクラリーチェが不機嫌そうに言った。声は震えているが、それでも俺への憎悪が込められている。
「何の権利があって、わらわの戦いに口出しするのじゃ」
「古文書が——挿絵が!」
ロザリンダが古文書を開くと、そこには神々しい光が放たれていた。アステリアの挿絵が、これまで見たことがないほど強烈に輝いている。まるで太陽のような眩しさで、夜の闇を完全に照らし出していた。
「何じゃ、あの光は——」
クラリーチェが困惑した。
「これは——」
俺も驚愕した。
古文書から放たれる光は、どんどん強くなっていく。そして、その光が俺とクラリーチェを包み込み始めた。
「うおおお!」
俺の視界が純白の光で覆われ、意識が浮遊するような感覚に襲われた。体が宙に浮いているような錯覚を覚える。
気がつくと、俺は見覚えのある空間にいた。
純白の光に満ちた神秘的な空間。天井も壁も床も、すべてが柔らかな光で構成されている。まるで雲の上にいるような、現実離れした美しい場所だった。
そして、その空間の中央に——アリエル・フロストヘイヴンが立っていた。
百年以上前の伝説の魔法姫。エレノアやリリアによく似た美しい顔立ちだが、より気高く、より威厳に満ちている。長い髪は銀色に輝き、白いドレスを身に纏っている。
そして、俺の隣には——クラリーチェがいた。
彼女も同じように光の空間に引き込まれたらしい。七歳程度の幼女の姿のまま、困惑した表情で周囲を見回している。先ほどの屈辱的な仕打ちでボロボロになった姿で。
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