(158)夜空に舞い散る魔法姫の誇り
エレノアはまだ蔦に全身を縛られ、空中に吊るされたまま、開脚ポーズを強制されている。にもかかわらず、エレノアは力強い表情でクラリーチェを見下ろした。
「この程度の屈辱、大したことないわ! 何時間でも耐えてみせる!」
見上げるクラリーチェが睨み返す。
「ほお。いい度胸じゃ。もちろんこれで終わりではない。スターフェリアの頂点に立つわらわを愚弄した罪、この程度で許されるものではないぞ」
クラリーチェの瞳が冷たく光る。
「わらわの怒り、とくと思い知れ!」
クラリーチェが杖を動かす。すると、エレノアの太ももを拘束する蔦が、両足を限界までグッと開脚させた。さらに、別の蔦の一本が、鞭のように彼女の身体を下から強く一撃した。それはこれまでを遥かに上回る強烈さだった。
ピシッ!!
「んひぃぃぃ!」
エレノアは開脚したまま、身体をのけぞらせた。まるで電流に痺れたかのように、足が痙攣し、胸が揺れる。
その蔦の衝撃で、エレノアが身につけていたシースルーのスカートが耐えきれず、生地が裂けて切れ端がひらひらと夜空に舞い落ちていく。
クラリーチェが、舞い落ちるミニスカートの生地の切れ端を指先でキャッチして、まじまじと見つめた。
「前から思っておったが……おぬし、このシースルーのスカート、王族にしては少々刺激が強すぎるのではないか? こんなに透けていたら履いていないも同然であろう。まさか、露出癖でもあるのか? まあ、男をムラムラさせたいのであれば効果的であろうが……おもらし姫の考えることは、よくわからぬ」
クラリーチェは、ふっと生地に息をかけて、吹き飛ばした。生地は空中で塵になって霧散した。
エレノアは言い返す気力もなく、空中で開脚したまま弱々しく体を震わせている。痛みと屈辱で意識が混濁しているようだった。ぼろぼろに破れたスカートが哀れさを際立たせている。
クラリーチェはもう飽きたと言わんばかりに、杖をぞんざいに動かした。
エレノアの全身を締め付けていた蔦が、ようやく拘束する力を弱め、緩んだ。両太ももを掴んでいた蔦も離れる。エレノアの体がカクンと崩れ落ちるようにしなり、全身から力が抜けた。
「はぁ……はぁ……」
安堵の息が漏れる。
だが、長時間同じ体勢を強制され、固定され続けたせいだろう。エレノアの両足はせっかく自由になったにもかかわらず、先ほどまでと同じカエル脚のまま元に戻らず、小刻みに震えている。威厳あるエレノアが、自らだらしなく足を開くことなどあるはずがない。空中に吊られたまま、自ら開脚しているその姿は、王族であるエレノアの清廉さとは正反対のみっともなさだった。
しかも、全身から流れ出る汗がエレノアの衣装に染み、スカートの下に見える薄手の下着もぴっちりと肌に張り付いている。その透け具合は、もはやシースルーのミニスカート以上だった。
俺はそれを見ながら、この世界に来たばかりの時、村でエレノアと戦ったことを思い出していた。あの時敗北したエレノアは、ぼろぼろのスカートで村民たちの前で土下座して謝罪した。あの時も濡れて透けた下着から全てが晒されていたが、今の状態はそれを上回る惨めさだった。
クラリーチェが呆れた笑みを浮かべる。
「何じゃ、おぬし。いつまでもそんな恥ずかしい格好を見せびらかしおって……。さては、本当に露出癖でもあるのか? 魔法姫の名が聞いて呆れるな。この変態女め」
クラリーチェは地面に落ちていたエレノアの氷の魔法杖を拾うと、それを掲げ、晒し物になったエレノアの身体を下からちょんと突いた。
「……はぁ……」
抵抗する様子もなく、エレノアは朦朧とした表情で吐息を漏らす。
クラリーチェは何度も杖の先でエレノアの身体のあちこちを探るようにつんつん突いて、反応を確認する。が、エレノアの目は虚ろで、どこを触られても、開脚した両足がピクッとする以外、無反応だった。
エレノアの魔法杖は先端に氷の結晶が施された気品ある武器だ。その自らの杖で身体中を探られるなど、屈辱以外の何ものでもない。だが、エレノアはもはや何をされているのか、そして何を晒しているのか、自覚がないのだろう。
腰回りの千切れたミニスカートの裾が夜風にひらひらと揺れている。開脚した白い太ももと、スカートからはみ出した曲線美の双丘が、星明かりを反射し、皮肉にも美しく輝いていた。
「いつまで恍惚に浸っておる? しっかりせんか、この露出狂め!」
クラリーチェが痺れを切らしたように、氷の杖を突き上げた。その先端がエレノアの身体にめり込む。
「ひぁぁ……!」
エレノアは我に返り、目を見開いて、太ももを開脚させた。カエル脚をカクカクと上下させる。そこは以前「虚空結界」の中でもさんざん攻められた弱点だった。
「……つ、冷たい……」
エレノアの口から漏れたのは、愛用する武器の感触だった。氷の魔法姫が、自らの氷の感触に身震いしている。
「目が覚めたか。この玩具も少しは使えるようじゃのお」
クラリーチェは満足げな笑みを深め、エレノアの杖を引っ込めると、無造作に投げ捨てた。高貴な魔法杖もただの棒切れだった。
「さて、おもらし魔法姫よ、最後の仕上げじゃ」
エレノアが怯えた目でクラリーチェを見た。まだ続きがあるのか、と恐れをなしている。
「ふん!」
クラリーチェは自らの杖を振るって、エレノアの体に巻きついた蔦を伝って深淵魔法を送り込む。全身を包むように魔力が波打つと、彼女の青銀色の魔法衣装が、まるで命を得たかのようにかすかな光を放ち始める。
「やめて……!」
エレノアの絶叫が夜空に響いた。衣装の生地に細かな裂け目ができ、華麗な装飾が砕け散っていく。
傍で静観していたディブロットが、呆れたような声を漏らす。「クラリーチェ様、ほどほどに、と申し上げたはずですよ。このままではこの弱小な魔法姫は塵になってしまいます」
「わかっておる。ちゃんと手加減しておるわ。黙って見ておれ」
エレノアの深い黒と鮮やかな青のコントラストを保っていた衣装は、徐々に輝きを失い、肩や胸元から生地が薄く裂けていった。汗ばんだ肌がさらにあらわになる。
抵抗するエレノアの魔力が、胸元のペンダントからかすかに漏れ出すが、深淵の魔力に押しつぶされていく。裂け目は、レオタード全体に広がり、かろうじて残っていた生地にも波及した。
ひらりと舞い落ちたスカートの切れ端を追うように、衣装の生地も破れ、舞い落ちていく。エレノアの身体の線は、無防備に晒されていった。
「やめ……いやぁ……いやぁぁ!」
悲鳴が途切れるかどうかの瞬間、クラリーチェは邪悪に微笑み、送り込む魔力を一気に高めた。それまで徐々に破れて舞い落ちていた衣装が、まるで爆ぜるように、一瞬で光の粒子へと変わる。風に舞い散る砂粒のように、細かな銀色の粒子が夜空に溶けていった。
エレノアの体は、魔法の光に包まれてはいるものの、衣をまとうことのない姿になってしまった。
「あああ……そんな……いやぁぁ!」
突然の出来事に、エレノアは震えながら悲鳴を上げた。しかし、よく見ると、体を拘束する蔦が、彼女の大切な部分を隠すように絶妙に絡みついている。胸元も、足の付け根の奥も、肌にぴったりとくっついた蔦によって覆われ、その姿はかろうじて無垢なままに保たれていた。
その体勢は、引き続き、無様なカエル脚である。
「喚くでない。大事なところは見えないようにきっちり隠してある。魔法少女のヌードなど、学園の清純な女子生徒たちには刺激が強すぎる。幼女のわらわが見るのも御法度じゃからのう。いわゆるレーティングというやつじゃ。はっはっはっ」
クラリーチェは高らかに笑ってみせた。
「くっ……」
もがき続けるエレノアだが、両腕を蔦によって背中で強く縛られており、どうすることもできない。
「おまえは言っておったな? 『生意気な幼女は、全身ひん剥いて、この手でお仕置きしてやる』と。わらわが代わりに実行してやったぞ。服は剥いでやったし、お仕置きもしてやった。おまえの言葉を現実にしてやったわ。どうじゃ、満足か?」
エレノアは羞恥と恐怖を払いのけ、顔を上げた。
「ふざけないで……」その目に光が宿る。「私は誇り高き魔法姫よ。この屈辱……この恨み……必ず晴らしてみせるわ!」
クラリーチェは白けた顔をした。
「呆れた根性じゃな。ここまでされて、まだ懲りぬとは……」そして、目を細めた。「ならばエレノア、おまえに永遠の屈辱を刻んでやろう」