(154)本物のエレノアVS偽りのエレノア
エレノアの後ろから、リリア、ミュウ、そして他の魔法少女たちも姿を現した。
「師匠!」リリアが駆け寄ってくる。
「武流様、ご無事で!」ミュウも猫耳をピンと立てて安堵の表情を見せた。
ステラ、アイリーン、ルル、リュウカ先生、セシリア――全員が戦闘態勢を整えて、ニセモノのエレノアを取り囲んでいる。
突如現れたもう1人の――本物のエレノアを見て、ニセモノのエレノアの表情に更なる動揺が走った。しかし、彼女は必死にそれを隠そうとする。
「な……何よ、これは」ニセモノのエレノアが震え声で言った。「まさか、あなたが本物だと言い張るの? 私こそが本物のエレノア・フロストヘイヴンよ!」
しかし、俺は冷静にアポロナイトの姿のまま、彼女を見据えた。
「もう無駄だ。種明かしをしてやろう」
俺の声は確信に満ちていた。
「俺はタイムループを繰り返し、全員と一緒に行動して気づいたんだ」俺が説明を始めた。「エレノアの時だけ、俺が攻撃を受けた時、俺の視界の外にいた。王宮に攻め込んだ時も同様だった」
ニセモノのエレノアの表情が青ざめていく。
「しかし、いくら俺を跪かせたいと思っているエレノアでも、俺を裏切ってクラリーチェに味方するとは到底思えない」俺が続けた。「クラリーチェはエレノアとリリアの両親を殺した敵だからだ」
本物のエレノアの瞳に、深い怒りが宿った。両親の仇であるクラリーチェへの憎悪が、氷のように冷たく燃えている。
「ならば、エレノアがどこかでニセモノと入れ替わったと考えるのが筋だ」俺の推理は続く。「午前中の稽古の様子を見る限り、エレノアは確かに本物だった。だから、午後からエレノアの様子をリリアたちにこっそり監視させた」
俺は六回目のループのことを思い出しながら続けた。
「六回目のタイムループの時、『今日一日、俺と一緒にいてくれ』と頼んだ際に、エレノアが妙に従順だった」
本物のエレノアが眉をひそめた。
「従順? 私が?」
「いつもなら武流に反抗的な態度を多少見せてもいいはずなのに、素直に『わかったわ』と答えた。三人の弟子たちが協力すると言った際も、優しくやんわりと断った」俺が振り返る。「あの時既に入れ替わっていたんだな」
本物のエレノアの表情に、理解の光が宿った。
「確かに、私ならもっと皮肉の一つでも言っているはずね」
リリアが頷きながら証言した。
「夕方頃、お姉様が一人で劇場の裏手に向かった時、黒い影のような存在が背後から襲いかかったんだ」
ミュウも猫耳を震わせながら続けた。
「わたくし、エレノア様が地下の倉庫に運ばれるのを見たのです。そして、その後に現れたニセモノが……」
ニセモノのエレノアの顔面が蒼白になった。完璧だと思っていた計画が、すべて見抜かれていたのだ。
「そんな……バカな……」
「つまり、何者かがエレノアを不意打ちで襲撃し、本物を地下へ閉じ込め、ニセモノがエレノアと入れ替わったんだ」俺が結論を述べた。「六回目のループと同じことを繰り返すことで、真実を暴くことができた」
本物のエレノアが前に出た。氷の魔力が彼女の周りに渦巻き、その威圧感はニセモノとは比較にならない。
「よくも私の姿を騙り、武流を欺いたわね」本物のエレノアの声は、怒りで震えていた。「許せないわ」
ニセモノのエレノアも氷の杖を構えて応戦しようとする。
「まだよ! 私だって負けないわ!」
二人のエレノアが対峙した。本物とニセモノ――見た目は全く同じだが、纏う気迫が明らかに違っていた。
「アイス・ジャベリン!」
ニセモノのエレノアが最初の攻撃を仕掛けた。巨大な氷の槍が本物のエレノアに向かって飛んでいく。
しかし、本物のエレノアは冷静だった。
「真の氷魔法を見せてあげる――グレイシャル・シールド」
美しい氷の盾が瞬時に形成され、ニセモノの攻撃を易々と防いでみせる。その技術の精度は、ニセモノとは次元が違っていた。氷の結晶一つ一つが完璧な幾何学模様を描き、まるで芸術品のような美しさを放っている。
「私の技を真似ても、所詮はニセモノね」本物のエレノアが冷ややかに言った。「これがホンモノよ! グレイシャル・ストーム!」
無数の氷の結晶がニセモノのエレノアを包囲した。美しい螺旋を描きながら、圧倒的な物量で攻撃を仕掛ける。一つ一つの氷の結晶が刃のように鋭く、空気を切り裂きながら舞い踊る。ニセモノも同じ技を使おうとしたが、その威力と精度は本物に遠く及ばなかった。
「同じ技のはずなのに……なぜこんなに差が……」
ニセモノのエレノアが困惑の声を上げる。
「当然よ」本物のエレノアが断言した。「この技には、王族としての誇り、両親への想い、そして――」
彼女の視線が一瞬俺に向けられた。
「武流への想いが込められているの。支配したいという欲望も、守りたいという想いも、すべてが氷の魔法に宿っているのよ。それを理解せずに形だけ真似ても、本当の力は発揮できないわ!」
本物のエレノアの氷魔法がニセモノを圧倒していく。技術、威力、精神力――すべてにおいて本物が上回っていた。
「これで終わりよ――フリージング・アブソリュート!」
本物のエレノアが必殺技を放った。氷の魔力を極限まで圧縮し、一点に集中させる。空気中の水分がすべて凍りつき、美しい氷の結晶が空間を埋め尽くした。ニセモノのエレノアが同じ技で対抗しようとしたが、力の差は歴然としていた。
ニセモノの氷魔法が一瞬で粉砕され、彼女の身体に本物の技が直撃する。
「きゃああああ!」
ニセモノのエレノアが絶叫と共に吹き飛ばされた。地面に激突し、そのまま動かなくなる。
しかし、その瞬間――ニセモノのエレノアの身体が歪み始めた。
美しい顔が崩れ、氷の魔法少女の衣装が溶けていく。そして、その下から現れたのは――。
黒い毛に覆われた人間大の怪物。鋭い爪、牙をむき出しにした口、赤く光る目。触手のような不定形の部分も見える、醜悪な魔獣の姿だった。
「やはりな」
俺の思惑通り、魔獣がエレノアに化けていたのだ。