(152)俺には真実がわかった
クラリーチェの言葉に、俺の心臓が止まりそうになった。まさか、彼女が俺のタイムループに気づいているとは。
「な......なぜそれを......」
「ふふふ......」クラリーチェが不敵に微笑んだ。「わらわは百年以上生きておる。深淵魔法を司る妖精アステリアの力についても、詳しく知っておるのじゃ」
俺は息を呑んだ。クラリーチェがアステリアの力について知っているとは思わなかった。
「アステリアは時間を操る深淵魔法を使える」クラリーチェが続けた。「その力で、おぬしは何度も同じ一日を繰り返しておるのであろう?」
俺はもう隠すことはできないと悟った。
「......その通りだ」
俺の告白に、クラリーチェの瞳が興味深そうに光った。
「やはりな。おぬしの絶望的な表情、諦めきった様子......初めて処刑される者の反応ではなかった」
「俺は既にアリエルから聞いている」俺が力を込めて言った。「このループを起こしているのは、アリエル・フロストヘイヴンとアステリアだ。そして俺は、必ずお前の処刑を回避して明日へ進んでやる」
クラリーチェがニヤリと笑った。
「ほほう、意気込みは立派じゃな。だが、アリエルも言わなかった大事なことを教えてやろう」
俺の心に不安が芽生えた。
「何だって?」
「いくらアステリアでも、深淵魔法の力には限界がある」クラリーチェの声に、残酷な愉悦が込められていた。「タイムループできる回数には限りがあるのじゃ」
俺の血の気が引いた。
「限りがある......?」
「そうじゃ。時間を操るという行為は、この世界の根幹に関わる。無制限に行えるものではない」クラリーチェが説明した。「おぬしがこれまで何度ループしたかは知らぬが、その表情……もうそろそろ限界に近いのではないか?」
俺の心に恐怖が広がった。もしクラリーチェの言葉が本当なら――もしタイムループがもうできないとしたら――。
「嘘だ......」
「嘘? ふふふ......せいぜい頑張るのじゃな」
クラリーチェが満足そうに微笑みながら、俺から離れていく。
「深淵魔法・冥王の炎で、おぬしの存在ごと消し去ってやろう」
黒い炎が俺に向かって伸びてくる。しかし、俺の心はクラリーチェの言葉に支配されていた。
タイムループの回数に限りがある――。
その絶望的な事実が、俺の意識を闇に沈めた。
俺は目を覚ました。
また同じ部屋、同じ朝陽。しかし、今回は違った。クラリーチェの言葉が本当なら、これが最後のチャンスかもしれない。
俺は急いで古文書に触れ、光の空間へと向かった。
純白の光に満ちた神秘的な空間で、アリエルが俺を待っていた。
「また来たか」
「アリエル!」俺が声をかけた。「クラリーチェから聞いたんだ。タイムループできる回数には限りがあるって本当なのか?」
アリエルの表情が一瞬曇った。
「......クラリーチェがそんなことを言ったのか」
「答えてくれ! 本当なのか?」
アリエルは深いため息をついた。
「......その通りだ」
俺の心に衝撃が走った。やはり、クラリーチェの言葉は真実だったのか。
「なぜ教えてくれなかったんだ?」
アリエルが俺を見据えた。その瞳には、これまで見たことのない温かさが宿っていた。
「おまえなら必ず乗り越えられると信じているからだ」アリエルの声に、確固たる信念が込められていた。「オレはおまえという男を見極めてきた。たとえ何度失敗しようとも、最後には必ず答えを見つけ出す。それがおまえだ」
俺の胸に熱いものが込み上げてきた。アリエルは俺を信じてくれていたのだ。だからこそ、余計なプレッシャーを与えることなく、俺に試練を乗り越えさせようとしてくれていた。
「だが、もう隠し続けることはできんな」アリエルが重い口を開いた。「アステリアの深淵魔法といえど、無限ではない。時間を巻き戻すという行為は、この世界の法則に逆らう大きな負荷を伴う」
「じゃあ、俺はあと何回......」
「今回が最後だ」
アリエルの言葉が、俺の心を凍りつかせた。
「最後......?」
「そうだ。もうタイムループさせることはできない」アリエルの声に、切迫感が込められていた。「おまえは今夜、クラリーチェの襲撃を阻止して処刑を回避しなければならない。それができなければ、明日へ行くことはできず......」
アリエルが言いよどんだ。
「おまえの死の運命が確定してしまう」
俺の全身が震えた。これまでは何度失敗しても、また朝に戻ることができた。しかし、今回は違う。失敗すれば、本当に死んでしまうのだ。
「どうすればいいんだ? 俺は何を見落としているんだ?」
「それを見つけるのが、おまえの最後の試練だ」アリエルの姿が薄くなり始めた。「オレが言えるのは、もう一度オレの言葉を思い出せということだけだ」
「あんたの言葉?」
「『おまえが最も信頼している場所に隠されている』――その意味を、今度こそ理解するのだ」
アリエルの姿が消え去り、俺の意識は現実世界に戻された。
目を開けると、心配そうな魔法少女たちの顔が俺を見つめていた。
「師匠! 意識を失って......」リリアが涙ぐんでいる。
「武流様、大丈夫なのですか?」ミュウも猫耳を震わせて心配している。
俺は立ち上がり、彼女たちを見回した。
最後のチャンス。今夜を乗り切れなければ、本当に死んでしまう。
俺は必死に考え始めた。これまでの数え切れないループ。すべての失敗。すべての謎。
アリエルの言葉――「おまえが最も信頼している場所に隠されている」。
俺が最も信頼している場所......。
俺は魔法少女たちと一人ずつ行動を共にした。エレノア、リリア、ミュウ、ステラ、アイリーン、ルル、リュウカ先生、セシリア、ロザリンダ、そしてエレノアの三人の弟子たち......。
彼女たちは皆、真剣に俺を守ろうとしてくれていた。誰にも怪しいところはなかった。それなのに、なぜ毎回失敗するのか?
俺の頭に、一つの可能性が浮かんだ。
俺が最も信頼している場所とは――。
そうか......そういうことか......。
「わかった」
俺は呟いた。ついに、すべての謎が繋がった。真実が見えた。
これまでの失敗の理由。クラリーチェが俺の行動を完璧に予測できた理由。完璧な警備を突破できた理由。背後から攻撃してきた正体……。
今度こそ、死の運命を乗り越えてやる。
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