(151)無限ループの果てに
「おまえが信じているものを、もう一度見直してみろ。真実は、おまえが最も信頼している場所に隠されているかもしれない」
アリエルの言葉が、俺の心に深く刻まれていた。俺が最も信頼している場所――それは魔法少女たちの中にあるのかもしれない。
だとすれば、彼女たちと密接に行動することで、真実が見えてくるはずだ。
六度目のループが続いていた。
「エレノア」俺が真剣な表情で彼女に向き合った。「今日一日、俺と一緒にいてくれ。一時も離れずに」
「え? どうして急に......」
「頼む。理由は後で説明する」
エレノアは困惑したが、俺の真剣さを感じ取って頷いてくれた。
「わかったわ。でも、何があったの?」
エレノアは普段のような反発を見せずに素直に同意した。いつもなら「なぜ私があなたの指示に従わなければならないの?」と皮肉の一つでも言いそうなものだが、今日は従順だ。俺の顔を見て、尋常ではないことが起きていると察したのかもしれない。
その後、エレノアの三人の弟子たちがやってきた。
「エレノア様をお守りするのは私たちの役目です!」ケインが筋肉質な腕を組んで宣言した。
「美しきエレノア様のお側で、私たちも武流様をお守りいたします」ルークも優雅に膝をついた。
「戦術的に考えても、護衛は多い方が有利です」サイモンが眼鏡を光らせながら分析した。
しかし、エレノアは優しく断った。
「ありがとう。でも今日は武流と二人だけで行動したいの。あなたたちは他のみんなと一緒にいてくれる?」
三人は困惑したが、エレノアの丁寧な頼みに逆らえず、渋々引き下がった。
俺たちは朝から夜まで、一時も離れずに行動した。稽古の時も、食事の時も、エレノアは常に俺の側にいた。氷の魔法で周囲を警戒し、完璧な護衛を務めてくれる。
夜が更けても、エレノアは俺の部屋で警戒を続けていた。
「武流、あなた何を恐れているの?」
「もうすぐわかる」
深夜になった時、エレノアが立ち上がった。
「少し廊下の様子を見てくるわ。念のために」
「一人で大丈夫か?」
「心配いらないわ。すぐに戻る」
エレノアが部屋を出て行った。その瞬間――部屋の壁を突き破って、深淵魔法の暗黒エネルギーが俺に向かって飛んできた。
俺は背後から何者かに攻撃され、意識を失った。
気がつくと、十字の柱に縛りつけられていた。
「武流! ごめんなさい!」エレノアが涙を流しながら叫んでいる。「私が廊下に出た隙に......! もっとしっかり守っていれば......!」
俺は処刑され、また朝に戻った。
七度目のループ。今度はリリアと一日中行動を共にすることにした。
「師匠、何かあったの? すごく心配そうだよ」
「大丈夫だ。君がいてくれれば安心だ」
リリアは変身できない身でありながら、持ち前の運動神経と勘の良さで俺を守ろうとしてくれた。しかし、結果は同じだった。深夜の攻撃を防ぐことはできず、俺は再び処刑台に立つことになった。
「師匠......ボクが弱いから......」リリアが自分を責めながら泣いていた。
八度目はミュウ、九度目はステラ、十度目はアイリーン――。
俺は魔法少女たちと一人ずつ行動を共にし、彼女たちの護衛を受けた。しかし、どんなに警戒していても、どんなに完璧な防御を築いても、結果は変わらなかった。
深夜になると必ず攻撃を受け、俺は処刑されてしまう。
そして、エレノア同様、誰にも怪しいところは見つからなかった。
ミュウが猫族の優れた聴覚で周囲を警戒している時も、ステラが風の魔法で空気の流れを監視している時も、アイリーンが魔法的な結界を張っている時も――誰もが真剣に俺を守ろうとしてくれていた。
彼女たちの忠誠心に嘘はない。それなのに、なぜ俺を守ることができないのか?
十一度目のループでは、ルルと行動を共にした。
「ルル、師匠を絶対に守るからね〜♪」
小柄な体で懸命に俺を守ろうとする彼女の姿に、俺の心は痛んだ。しかし、結果は同じ。深夜の攻撃で俺は倒れ、処刑台に送られた。
十二度目はリュウカ先生、十三度目はセシリア――。
ループを重ねるたびに、俺は魔法少女たちを疑うことの罪悪感に苛まれていた。彼女たちは皆、心から俺を慕ってくれている。その純粋な想いを疑うなど、あってはならないことだった。
しかし、アリエルの言葉が頭から離れない。「おまえが最も信頼している場所に隠されている」――一体、何が隠されているというのか?
十四度目のループでは、ロザリンダと行動を共にした。
「武流さん、一体何が起きているのですか?」
「説明できない。でも、君を信じている」
ロザリンダは魔力を失った身でありながら、古文書の知識と豊富な経験で俺をサポートしてくれた。しかし、やはり深夜の攻撃は防げなかった。
十五度目、十六度目、十七度目――。
エレノアの三人の弟子たちとも行動を共にしたが、結果は変わらなかった。ケイン、ルーク、サイモン――彼らも真剣に俺を守ろうとしてくれていた。
もう何度目のループなのか、数えることすら困難になっていた。
俺の心は疲れ果てていた。何度同じことを繰り返しても、答えは見つからない。仲間たちの中に裏切り者はいない。それは確信していた。
だとすれば、俺は一体何を見落としているのか?
そして、ついに――。
数え切れないループの果てに、俺は再び十字の柱に縛りつけられていた。魔法少女たちの悲鳴が響く中、クラリーチェが俺の前に立っている。
「またダメだった......」
俺は力なく呟いた。もう何度目の敗北なのか、覚えていない。希望も、闘志も、すべてが失われつつあった。
その時、クラリーチェが俺に歩み寄ってきた。
「さあ、何か言い残すことはあるか?」
いつもの台詞だった。しかし、今回は様子が違った。クラリーチェが俺のすぐ近くまで来て、他の誰にも聞こえないような小声で言った。
「もしや……おぬし......タイムループしておるな?」