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(149)魔法姫アリエル、現る

 リリアの無邪気な笑顔が、俺の心に複雑な感情を呼び起こした。六度目の同じ台詞。六度目の同じ光景。しかし、今回はこれまでとは違う視点で物事を見つめなければならない。


 クラリーチェがタイムループの真犯人ではない――その事実が、俺の思考を根本から覆していた。では、一体誰が俺を同じ時間に閉じ込めているのか? そして、なぜそんなことを?


 俺は疲れ果てた表情でリリアを見つめた。もう何も驚かない。すべてが予定調和の繰り返しに過ぎない。


 朝の騒動も、いつものように素早く処理した。ミュウの転倒を防ぎ、エレノアの氷魔法による混乱を事前に制止し、三人をキョトンとさせる。この流れも、もはや機械的な作業と化していた。


 野外劇場に到着すると、俺は一人で考える時間を作った。魔法少女たちに適当な理由をつけて、劇場の隅に座り込む。


 これまでの五度の失敗を振り返りながら、俺は新たな可能性を模索していた。


 一度目と二度目は、野外劇場で一人でいた時に襲撃された。三度目は温泉宿の部屋で待ち伏せしたが、疲労で意識を失った隙を突かれた。四度目は魔法少女たちに協力してもらい、完璧な警備体制を敷いたのに、クラリーチェは謎の方法で突破してきた。そして五度目は、直接攻撃に出たが、背後からの謎の攻撃で敗北した。


 共通しているのは、どのパターンでも最終的に俺が処刑されるという結末だった。そして、クラリーチェ自身はタイムループを知らない。


 ということは――。


 魔法少女たちの中に、裏切り者がいるのではないか。


 いや、裏切り者という言葉は適切ではないかもしれない。彼女たちが意図的に俺を裏切っているとは思えない。しかし、誰かがクラリーチェに操られているのかもしれない。


 四度目、完璧な警備体制でさえ突破されたという事実は、内部に協力者がいることを強く示唆していた。外部からの侵入が不可能な状況で、なぜクラリーチェは俺の居場所を正確に把握できたのか?


 そして、五度目の戦いでは、背後から何者かに攻撃された。地下での戦いを見ていたのは魔法少女たちだけだった。しかし、全員が「見えなかった」と証言している。


 謎は深まるばかりだった。


 時間が経過し、午後になった。予定通り、ロザリンダがエレノアの三人の弟子たちと共に到着した。美しい装飾の施された馬車が劇場前に停まり、彼女が降り立つ。


「武流さん、お久しぶりです」


 ロザリンダが俺に向かって微笑んだ。六度目の同じ台詞、同じ表情。


 俺は先回りして声をかけた。


「古文書に異変が起きているんだろう? 挿絵が光っている。特に、アステリアの部分が強く輝いているはずだ」


 ロザリンダの瞳が大きく見開かれた。


「どうして......? まだ何も説明していませんのに」


 魔法少女たちも、俺の完璧な予測に驚愕している。しかし、俺の注意は別のことに向けられていた。


 古文書――そこに、タイムループの謎を解く鍵があるかもしれない。


「ロザリンダ、その古文書を見せてくれ」


「はい......」


 ロザリンダが革製の袋から古文書を取り出した。確かに、挿絵全体が微かに青白い光を放っており、特にアステリアの部分が強く輝いている。


 俺は古文書を受け取り、詳細に観察した。美しい挿絵に描かれた女性の姿――エレノアやリリアによく似た王族の血筋を示す顔立ち。そして、その傍らに描かれた小さな妖精アステリア。


 この光る現象と、俺のタイムループには何らかの関連があるかもしれない。


「武流さん?」ロザリンダが心配そうに声をかけた。


「少し調べさせてもらう」


 俺は古文書の輝いている部分――特にアステリアの挿絵に手を伸ばした。もしかすると、直接触れることで何かがわかるかもしれない。


「師匠、危険じゃない?」リリアが不安そうに言った。


「武流、何をするつもり?」エレノアも眉をひそめている。


 しかし、俺は構わず古文書のアステリアの部分に指先を触れた。


 その瞬間――。


 強烈な光が俺の視界を覆った。意識が浮遊するような感覚に襲われ、体が宙に浮いているような錯覚を覚える。


 気がつくと、俺は見たことのない空間にいた。


 純白の光に満ちた神秘的な空間。天井も壁も床も、すべてが柔らかな光で構成されている。まるで雲の上にいるような、現実離れした美しい場所だった。


 そして、その空間の中央に――一人の女性が立っていた。


 エレノアやリリアによく似た美しい顔立ちだが、より気高く、より威厳に満ちている。長い髪は銀色に輝き、白いドレスを身に纏っている。その存在感は、まさに伝説の魔法姫と呼ぶにふさわしいものだった。


「ふん、ようやく来たか」


 女性が俺を見下すような視線で言った。その男のような一人称と高慢な態度に、俺は困惑した。


「あんたは......?」


「オレの名はアリエル・フロストヘイヴン」女性が胸を張って宣言した。「百年以上前にこの世界に君臨していた、真の魔法姫だ」


 俺の心に衝撃が走った。アリエル――エレノアとリリアの祖先であり、深淵魔法を使いこなした伝説の魔法姫。


「エレノアとリリアの......」


「そうだ。オレの血を引く末裔たちだ」アリエルが誇らしげに頷いた。「だが、あいつらはオレに比べれば、まだまだ未熟者だがな」


 アリエルの口調は、エレノア以上に高慢で尊大だった。まるで世界のすべてを見下しているかのような態度だ。


「しかし、あんたは死んでいるはずじゃ......」


「当然だ。オレの肉体は百年以上前に滅びた」アリエルが冷静に答えた。「今ここにいるのは、オレの意識体のみだ。星の妖精アステリアの力を借りて、この空間を維持している」


 俺の頭に様々な疑問が浮かんだ。なぜアリエルが俺にコンタクトを取ってきたのか? このタイムループとは関係があるのか?


「なぜ俺を......?」


「決まっているだろう」アリエルが不機嫌そうに言った。「オレはずっと見ていたのだ。異世界から来て、『この世界の支配者になる』と大見得を切った男の正体をな」


 俺の宣言を、アリエルは知っていた。百年前の魔法姫の意識体が、現在の出来事を観察し続けていたということか。


「だが、期待外れもいいところだ」アリエルが厳しい視線で俺を見据えた。「支配者になると豪語したくせに、クラリーチェごときに何度も敗北するとは。情けないにも程がある」


 アリエルの言葉に、俺の心に屈辱が湧き上がった。


「何度も......? あんたは知っているのか?」


「当然だ」アリエルが当たり前のように答えた。「オレがずっと見守っているからな。おまえの無様な敗北を、何度も何度も」


 俺の胸に、新たな疑念が生まれた。もしかして――。


「まさか......このタイムループは......」


「そうだ」アリエルが満足そうに頷いた。「オレがアステリアの力を借りて起こしている現象だ。おまえに何度もやり直すチャンスを与えているのだ」

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