(146)反撃への決意と王宮突入作戦
五度目の朝が始まった。しかし、今度は俺に迷いはなかった。
リリアが魔獣の着ぐるみで驚かそうと部屋に入ってくる前に、俺は既に立ち上がっていた。
「リリア、着ぐるみを脱いで入り口に置くな。ミュウが転ぶ」
「え? でも師匠、まだ――」
「武流様〜♪ 朝食をお持ちしたのです〜♪」
ミュウの声が響いた瞬間、俺は素早く着ぐるみを手に取った。
「あ、ありがとうございます、武流様」ミュウが困惑しながら朝食を置いた。
続いて現れたエレノアにも、俺は先回りして声をかけた。
「エレノア、怒って氷の魔法を使うな。自分も転ぶぞ」
「え? 私はまだ何も――」
「いいから、今日はこのまま稽古に向かおう」
三人は完全にキョトンとした表情で俺を見つめていた。五度目ともなると、俺の対応は完璧だった。
野外劇場に到着すると、俺は魔法少女たちを集めた。しかし、今回は稽古を始める前に、一人で考える時間が必要だった。
「みんな、少し準備の時間をくれ。俺は一人で考えたいことがある」
俺は劇場の隅に座り込み、これまでの四度の失敗を振り返った。
一度目は野外劇場で一人でいた時に襲撃された。二度目は温泉宿の部屋で警戒していたが、疲労で意識を失った隙を突かれた。三度目は魔法少女たちに真実を信じてもらい、仲間と協力したが、それでも失敗した。四度目は完璧な警備体制を敷いたにも関わらず、クラリーチェは謎の方法で警備を突破してきた。
魔法少女たちの中に裏切り者がいるとは考えにくい。彼女たちの忠誠心は本物だった。
では、クラリーチェはどうやって完璧な警備を突破したのか? 深淵魔法の力なのか? それとも、俺たちが想像もできない方法があるのか?
いずれにせよ、このままでは何度同じことを繰り返しても結果は変わらない。どんなに固い守りを築いても、クラリーチェは必ず突破してくる。そして俺は処刑され、永遠に明日へ進むことができない。
ならば――。
俺の心に、新たな作戦が浮かんだ。
守りを固めるのではなく、攻めに転じるのだ。クラリーチェが襲ってくるのを待つのではなく、こちらから先手を打って彼女のもとに攻め込む。
そもそも、この時間のループ現象を起こしているのは、クラリーチェ自身なのではないか? 深淵魔法の力で俺を永遠に同じ時間に閉じ込め、何度も処刑を繰り返すことで精神的に破綻させようとしているのかもしれない。
だとすれば、クラリーチェを圧倒し、問い詰めることで、この無限ループから脱出できる可能性がある。
問題は、クラリーチェがどこにいるかだ。しかし、魔法少女たちの協力を得れば、突き止めることは不可能ではない。
俺は立ち上がり、魔法少女たちのもとに向かった。
「みんな、集まってくれ。重要な話がある」
再び、俺はタイムループの真実を説明した。今回は五度目ということもあり、証拠を示すプロセスを大幅に短縮した。
「ロザリンダが古文書を持って午後に来る。エレノアの三人の弟子も一緒だ。メリッサが着ぐるみを盗んで、セシリアの馬車に隠す。すべて俺の予言通りになる」
案の定、すべてが俺の予言通りに進行した。魔法少女たちは完全に俺を信じ、協力を約束してくれた。
「今回は違う作戦を取る」俺が宣言した。「クラリーチェが襲ってくるのを待つのではなく、こちらから攻めに行く」
魔法少女たちの表情が変わった。
「師匠......まさか、クラリーチェ様のもとに?」リリアが不安そうに尋ねた。
「そうだ。このループ現象を起こしているのは、恐らくクラリーチェ自身だ。彼女を倒せば、この悪夢から抜け出せるかもしれない」
エレノアが眉をひそめた。
「武流、それは危険すぎるわ。クラリーチェの力は絶対的よ。正面から挑んでも勝ち目は――」
「一対一なら無理だ」俺が遮った。「だが、俺たち全員で挑めば話は違う。それに、今の俺たちには彼女の行動パターンを知っているという優位がある」
セシリアが水晶の杖を握りしめながら尋ねた。
「クラリーチェ様がどこにいらっしゃるか、わかるのですか?」
「それを調べてほしいんだ。君の情報網なら、クラリーチェの居場所を突き止められるはずだ」
セシリアは頷き、水晶魔法で遠方との通信を開始した。数分後、彼女は重要な情報をもたらした。
「クラリーチェ様は現在、王宮にいらっしゃいます。理事長室ではなく、王宮の最深部――古い魔法の研究室にいるようです」
俺の胸に決意が固まった。
「よし、みんなで王宮に向かう。クラリーチェを倒し、この無限ループに終止符を打つんだ」
ロザリンダとエレノアの三人の弟子たちも、俺たちの作戦に加わってくれた。総勢十三人の一団となった俺たちは、王宮に向けて出発した。
王宮が見えてきた時、エレノア、リリア、ミュウの三人の表情が緊張で強張った。
「あの時のことを思い出すわ......」エレノアが呟いた。
彼女たちにとって王宮は、屈辱的な敗北を喫した因縁の地だった。中でもエレノアは深淵魔法「虚空結界」の力で球体の中に閉じ込められ、衆人環視の中、辱めを受けた。
「大丈夫だ」俺が彼女たちを励ました。「今度は違う。俺たちは団結している。必ず勝利する」
リリアが拳を握りしめた。
「そうだよね、師匠。今度こそ、あの時の借りを返すんだ」
ミュウも猫耳をピンと立てた。
「わたくし、今度は絶対に負けないのです」
王宮の外周に到達すると、俺たちは慎重に警備の状況を確認した。衛兵たちが規則正しく巡回しており、魔法的な探知システムも作動している。
「どうやって突入しますか?」アイリーンが眼鏡を光らせながら分析した。
「正面突破は無謀ですね」サイモンも冷静に状況を判断している。
俺は作戦を練った。
「ステラとミュウが偵察を担当しろ。風と聴覚で警備の穴を見つけるんだ。アイリーンは魔法的な探知を無効化する結界を準備。エレノアとリリアは突入時の先鋒を務める」
「わたくし、頑張るのです!」ミュウが張り切っている。
「任せて、武流先生!」ステラも風の魔法を準備した。
ルルとリュウカ先生には、陽動作戦を任せた。
「ルル、王宮の反対側で地震を起こせ。リュウカ先生は電撃で騒動を演出してくれ」
「わかったよ〜♪ ルルに任せて〜♪」
「武流先生〜♪ お任せくださいませ〜♪」
セシリアとロザリンダ、そして三人の弟子たちは、それぞれの特技を活かして作戦を支援する。
「ケイン、ルーク、サイモン。君たちはエレノアをサポートしろ。ロザリンダは古文書の知識で魔法的な対策を指示してくれ」
「エレノア様をお守りします!」三人が一斉に宣言した。
作戦が始まった。ルルの地震魔法が王宮の地下を揺らし、リュウカ先生の電撃が夜空を照らす。警備兵たちが騒動の方向に向かった隙を突いて、俺たちは王宮の側面から侵入を開始した。
アイリーンの結界が魔法的な探知を無効化し、ステラとミュウの偵察が安全なルートを確保する。エレノアの氷の魔法が衛兵を無力化し、リリアの身軽さが俺たちの進路を切り開いていく。
王宮内部に侵入すると、豪華な装飾に彩られた廊下が続いていた。しかし、俺たちの目的地は最深部にある古い魔法の研究室だ。
「この先ですね」セシリアが水晶魔法で方向を確認した。
廊下を進む途中、王宮の魔法少女たちとの遭遇も予想されたが、陽動作戦の効果で多くの警備が外に向かっていた。
「順調すぎない?」エレノアが不安そうに呟いた。
「クラリーチェ様が、私たちの侵入に気づいていないはずがありませんわね」リュウカ先生も警戒を怠らない。
確かに、これほど簡単に王宮の深部まで侵入できるとは思わなかった。まるでクラリーチェが俺たちを待ち受けているかのようだ。
古い魔法の研究室への扉が見えてきた時、俺の胸に不安と期待が交錯していた。
果たして、俺たちはクラリーチェに勝利することができるのか? この無限ループから脱出することは可能なのか?
扉の前で、俺は仲間たちを見回した。エレノア、リリア、ミュウ、そして全ての魔法少女たち。ロザリンダと三人の弟子たち。
「いよいよだ」俺が静かに宣言した。「みんな、準備はいいか?」
「はい、師匠!」リリアが力強く答えた。
「わたくし、武流様のために全力を尽くすのです!」ミュウも決意を固めている。
「私たちの力を合わせれば、必ず勝てるわ」エレノアも氷の魔力を纏いながら頷いた。
俺は扉に手をかけた。この扉の向こうに、すべての謎を解く鍵があるはずだ。
扉を開けば、クラリーチェとの最終決戦が始まる。勝利すれば無限ループからの脱出。敗北すれば――また同じ朝に戻ることになる。
俺は深く息を吸い、扉を押し開いた。