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(145)魔法少女たちの中に裏切り者がいる?

 轟音と共に、石造りの壁が粉々に砕け散る。煙と破片が部屋中に舞い散り、俺の視界を遮った。予想外の方向からの攻撃に、俺は完全に不意を突かれた。


 あり得ないことだった。建物の周囲には完璧な警備が敷かれていたはずだ。どこにも隙はなかったはずだった。


 煙の中から、深淵魔法の暗黒エネルギーが襲いかかってきた。俺は咄嗟にアポロナイトに変身しようとしたが――間に合わなかった。


 暗黒のエネルギーが俺の胸を貫いた瞬間、激痛が全身を駆け巡った。意識が薄れていく中で、俺は謎への困惑を抱いたままだった。


 なぜクラリーチェは警備を突破できたのか? どうやって誰にも気づかれずに建物に接近したのか? 


 そして――。


 気がつくと、俺は十字の柱に縛りつけられていた。


 四度目の処刑台。四度目の絶望。


 俺の目の前で、深淵魔法の黒い炎がゆらゆらと燃え上がっている。周囲には、これまで共に歩んできた魔法少女たちの姿があった。


「師匠!」


 リリアが涙を流しながら叫んでいる。彼女の周りにも深淵魔法の黒い結界が張られており、近づくことができない。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 エレノアの声が響いた。彼女の瞳には、深い後悔と自責の念が宿っている。


「私が目を離した隙に......! でも、どうして!? 警備は完璧だったはずなのに!」


 エレノアの声は困惑と悔恨に満ちていた。完璧だと思われた警備体制が、なぜ破られたのか――誰にもわからない謎だった。


 俺は十字の柱に縛りつけられたまま、必死に声を絞り出した。


「エレノア! みんな! どうやってクラリーチェは警備を突破したんだ!? 誰か気づいた者はいないのか!?」


「武流様!」


 ミュウも猫耳を震わせながら必死に結界を叩いている。


「わたくし、何も気づけませんでした!」


 ミュウの優れた聴覚でさえ、クラリーチェの接近を察知できなかった。それがさらに謎を深めていた。


「武流先生!」


 ステラが絶望的な表情で叫んだ。


「私の風の魔法でも、空気の流れに異常は感じられませんでした! まるで、何もなかったかのように......」


 アイリーンも眼鏡を震わせながら困惑している。


「理論的に考えても理解できません! 私が張った結界は完璧だったはずです! どんな魔法的侵入も感知できるように設計していたのに......」


 ルルも小さな体を震わせて答えた。


「ルルも土の魔法で建物の振動を監視してたんだけど〜♪ 地面から侵入した形跡もないよ〜♪ 本当に不思議なの〜♪」


 リュウカ先生も電撃を纏いながら困惑していた。


「わたくしも警戒していましたのに〜! まったく気配を感じませんでしたわ〜! 一体どういうことなんでしょう〜!」


 セシリアが震え声で呟いた。


「私の水晶魔法でも、クラリーチェ様の接近を感知できませんでした......遠方からの監視も、魔法的探知も、すべてが無効でした......一体、どうやって......」


 俺は全員の証言を聞きながら、一つの重要な事実に気づいた。


「みんな、重要なことを教えてくれ」俺が大声で尋ねた。「クラリーチェの攻撃は、どこから放たれた? 遠距離からの攻撃か? それとも――」


「近距離よ!」エレノアが即座に答えた。「深淵魔法のエネルギーは、部屋のすぐ近くから放たれた。そうとしか思えないわ!」


 リリアも頷いた。


「そうだよ! 師匠のすぐ近くから攻撃が来たみたい!」


「わたくし、とても近い場所からの魔法の気配を感じたのです!」ミュウも猫耳をピクピクと動かしながら証言した。


 俺の心に、恐ろしい可能性が浮かんだ。


 攻撃が近距離から来た。建物の外からではなく、中からということか?


 ということは――。


「まさか......」俺の声が震えた。魔法少女たちの中に......裏切り者が......?


 いや、そんなバカな!


 俺は魔法少女たちの表情を見つめながら、その可能性を否定した。彼女たちの悲しみ、困惑、そして俺への忠誠心――すべてが本物に見える。彼女たちを疑うなんて......そんなことはできない。


 その時、クラリーチェの冷笑が響いた。


「混乱しておるようじゃな」


 七歳程度の幼女の姿をした彼女が、俺の前に立っている。漆黒のローブに身を包み、表面に無数の星が瞬いている。


「わらわがどうやって警備を突破したか、気になるのか?」


 クラリーチェの瞳に宿る冷酷な光は、長い年月を生き抜いた支配者の残酷さそのものだった。


「教えてやろう」クラリーチェが不敵に微笑んだ。「答えは簡単じゃ。わらわは――」


 しかし、クラリーチェは言いかけて口を閉ざした。


「いや、やはり教えてやらぬ。それを知ったところで、おぬしの運命は変わらぬからな」


 俺は歯ぎしりした。真実を知ることなく、また死んでしまうのか。


「おぬしがどれほど策を弄しようとも、仲間を集めようとも、わらわの前では無力じゃ」


 俺の心に浮かんだのは、仲間たちへの申し訳なさと、解けない謎への困惑だった。


 四度の失敗。そして今、四度目の処刑を迎えようとしている。


「さあ、何か言い残すことはあるか?」


 クラリーチェの瞳が冷酷に光る。


「深淵魔法・冥王の炎で、おぬしの存在ごと消し去ってやろう」


 黒い炎が俺に向かって伸びてくる。その熱さは皮膚を焦がし、絶望的な痛みが体を駆け巡る。


 意識が遠のいていく。


 魔法少女たちの悲鳴が、まるで遠い世界の出来事のように聞こえてくる。


 俺の意識は、完全に闇に沈んだ。




 俺は勢いよく目を覚ました。


 心臓が激しく鼓動している。全身が汗でびっしょりと濡れており、体の奥底から湧き上がる恐怖が俺を支配していた。


 ここは――。


 俺は絶望的な気持ちで周囲を見回した。ルルの温泉宿の客室だった。窓から昇る朝陽が差し込んでいる。


 ドアをノックする音が聞こえた。


 俺はもう驚かなかった。来る。リリアが魔獣の着ぐるみを着て、俺を驚かそうとしてやってくる。


 ドアが開き、扉から魔獣が現れた。


「あははは! 師匠、驚いた?」


 魔獣の頭部が外れ、その下からリリアの笑顔が現れた。


 五度目のループ。五度目の朝。五度目の絶望。


 一人では無理だった。仲間と一緒でも無理だった。完璧な警備体制を敷いても、なぜかクラリーチェは突破してくる。


 永遠に同じ一日を繰り返し、永遠に処刑され続ける。そんな悪夢のような運命から、俺は本当に抜け出すことができるのだろうか。

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