表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/224

(142)三度目の正直なるか?

 俺の注意は既に次の出来事に向けられていた。リュウカ先生の登場と、魔獣の着ぐるみ盗難事件だ。


 案の定、劇場の入り口から慌ただしい足音が聞こえてきた。


「リュウカ先生が来る」俺が先に告げた。「魔獣の着ぐるみがなくなったと報告するためだ」


「え? どうして師匠がそんなことまで――」


 リリアの言葉が途中で止まった。リュウカ先生が息を切らしながら劇場に駆け込んできたからだ。


「み、みなさん! 大変です!」


 リュウカ先生の豊満な胸が激しく上下し、金髪が汗で張り付いている。


「歌劇で使う魔獣の着ぐるみが......なくなったんです!」


 魔法少女たちは俺を見つめながら、完全に言葉を失っていた。


「武流先生の言った通りだ......」ステラが震え声で呟いた。


 俺は立ち上がりながら、冷静に指示を出した。


「セシリアの馬車をチェックしろ。そこに隠されている」


「え? セシリア様の馬車に?」アイリーンが困惑した。


「信じてくれ。そして、セシリアは犯人ではない。真犯人は別にいる」


 俺たちは馬車に向かい、案の定、魔獣の着ぐるみを発見した。セシリアが呼ばれ、状況を説明された時、俺は既に真犯人の名前を口にしていた。


「メリッサだ」


 沈黙が劇場を支配した。


「メリッサ・フレイムハートが真犯人だ。着ぐるみに付着した赤い毛、炎の魔法の痕跡、そして歌劇団を内部分裂させるという動機――すべてが彼女を指している」


 その時、劇場の影から拍手の音が響いた。


 パチパチパチ。


「さすがね、アポロナイト様の奴隷。信じられないくらい鋭い推理だわ」


 現れたのは、燃えるような赤い髪を風になびかせたメリッサだった。


「どうしてわかったの!?」メリッサが俺を睨み付けた。「奴隷の分際で、よくも私の完璧な計画を見破ったわね!」


 俺は冷笑しながら答えた。


「証拠を残しまくって、完璧だと? 君の髪の色と同じ赤い毛が着ぐるみに付着していた。それに、炎の魔法を使った痕跡もある」


 メリッサとエレノアの戦いも、前回と全く同じ展開だった。エレノアの圧倒的な勝利、メリッサの惨めな敗走――すべてが記憶通りに進行した。


 戦いが終わると、魔法少女たちは俺を神格化し始めた。


「師匠は本当にすごいよ!」リリアが目を輝かせて言った。「まるで全部見えてるみたい!」


「理論的に考えても」アイリーンが興奮気味に分析した。「これほど的確な推理ができるのは、超人的な観察力と洞察力があるからです!」


「師匠は天才なのです!」ミュウも猫耳をピンと立てて賞賛した。


 しかし、俺の心は複雑だった。すべては既に経験した過去の再現に過ぎない。俺は未来を予知しているのではなく、同じ時間を繰り返しているだけなのだ。


 そして、運命の夜が訪れた。


 前回のループでは、俺は野外劇場で最終確認をしていた時にクラリーチェの攻撃を受けた。今回は、その運命を回避するために、全く違う行動を取ることにした。


 俺は温泉宿の自分の部屋に留まることにした。ここなら、クラリーチェがいきなり現れても、温泉宿の人間が誰か気づくはずだ。それに、部屋の中なら背後を取られる心配もない。壁を背にして待ち構えていれば、どの方向から攻撃が来ても対処できるはずだった。


 俺は部屋の中央に椅子を置き、そこに座って入り口を見据えた。変身ブレイサーは既に手に持ち、いつでもアポロナイトに変身できる状態だった。


 三度目の正直。今度こそ処刑の運命を回避してみせる。徹夜してでも生き延びてやるぞ。そう心に誓った。


 時間が経過していく。夜が更けても、クラリーチェは現れなかった。


 午後十一時、十二時――静寂が続いている。温泉宿は完全に静まり返り、廊下を歩く足音も聞こえない。


 俺は緊張を保ちながら、クラリーチェの襲撃に備え続けた。しかし、時間が経つにつれて、疲労が蓄積されていく。一日中、魔法少女たちの指導をし、メリッサとの戦いにも立ち会った。精神的にも肉体的にも疲れていた。


 午前一時を過ぎた頃、俺の意識が朦朧としてきた。椅子に座ったまま、ついウトウトし始める。


 だめだ、意識を保たなければ――。


 俺は自分を奮い立たせようとしたが、疲労の波が押し寄せてくる。瞼が重くなり、頭がガクンと下がる。


 そして、午前二時頃――。


 俺はついに限界に達し、ベッドに腰を下ろした。少しだけ、ほんの少しだけ休憩するつもりだった。椅子では体が痛くて仕方がない。ベッドの端に腰かけて、軽く体を休めるだけのつもりだった。


 しかし――その瞬間、俺の意識は完全に途切れた。


 疲労と緊張の反動で、俺は深い眠りに落ちてしまったのだ。


 その時、背後でドアが開く音が聞こえた。


 カチャリ。


 俺は慌てて振り返ろうとした。しかし――。


 次の瞬間、深淵魔法の暗黒エネルギーが俺の背中を貫いた。


 またしても、失敗した――。


 気がつくと、俺は十字の柱に縛りつけられていた。


 深淵魔法の黒い炎が、俺の胸に向かって一直線に迫る。


 俺の目の前で、その炎がゆらゆらと燃え上がっている。三度目の処刑台。三度目の絶望。


 俺は全身の力を込めて、深淵魔法の鎖を引きちぎろうとした。しかし――。


「無駄じゃ」


 クラリーチェが冷ややかに言った瞬間、鎖がさらに強く俺を締め付けた。


「深淵魔法の束縛は、魔力を込めるほど強くなる。抵抗すればするほど、自分を苦しめるだけじゃ」


 次に、俺は関節を外して鎖から抜け出そうとした。


「ほほう、そのような芸当ができるとは」


 クラリーチェの指先から黒い糸が伸び、俺の関節に巻きつく。


「だが、それも想定済みじゃ」


 最後の手段として、俺は重心移動で柱を倒そうとした。


「おお、力任せではないな。なかなか知恵を使う」


 クラリーチェが感心したような声を出したが、次の瞬間――。


「だが、それも無意味じゃ」


 すべてが前回と同じパターン。同じ台詞、同じ結末。


「さあ、何か言い残すことはあるか?」


 クラリーチェの瞳が冷酷に光る。


「深淵魔法・冥王の炎で、おぬしの存在ごと消し去ってやろう」


 黒い炎が俺の胸を貫いた瞬間、激痛が全身を駆け巡った。


 意識が遠のいていく。


 そして――。


 俺は勢いよく目を覚ました。


 心臓が激しく鼓動している。全身が汗でびっしょりと濡れており、体の奥底から湧き上がる恐怖が俺を支配していた。


 ここは――。


 その時、ドアをノックする音が聞こえた。


 ドアが開き、扉から魔獣が現れた。黒い毛に覆われた人間大の怪物――。


「あははは! 師匠、驚いた?」


 魔獣の頭部が外れ、その下からリリアの笑顔が現れた。


 また――戻った――。

お読みいただき、ありがとうございます!

本日で記念すべき100日連続投稿達成です!

同時に、今回で150話目の投稿という節目でもあります。(世界観・登場人物解説含む)

いつも読んでくださる皆様に心から感謝申し上げます。

面白いと思った方、続きが気になる方は、ブックマークや★★★★★評価をいただけると励みになります!

また、皆さんのお気に入りキャラクターやお気に入りシーンがあれば感想で教えてください。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ