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(137)名探偵武流と真犯人の登場

 リュウカ先生とセシリア、二人の魔法少女は戦闘態勢に入る寸前だった。


「二人とも、魔法を解け。戦う必要はない」


「でも、武流先生~♪」リュウカ先生が抗議の声を上げた。「この人が着ぐるみを盗んだのは明らかじゃないですか~♪」


「私は何もしていないと言っているでしょう!」セシリアも怒りを隠さない。


 俺は冷静に二人を見据えた。確かに状況証拠だけを見れば、セシリアが犯人のように思える。しかし、俺の心の奥底には妙な確信があった。まるで、この出来事を以前にも体験したかのような既視感が――。


「セシリア、君は本当に着ぐるみを盗んでいないんだな?」


「当然です!」セシリアが即答した。「そんなつまらない嫌がらせをする理由がありません!」


 俺は彼女の瞳を見つめた。怒りと屈辱は確かにあるが、嘘をついている様子は感じられない。それに、もし本当に彼女が犯人なら、もっと巧妙に隠すはずだ。自分の馬車に証拠を残すような間抜けなことはしないだろう。


「わかった。信じよう」


「武流先生~♪」リュウカ先生が困惑した。「でも、証拠が――」


「証拠は状況を示しているだけだ。真実ではない」


 俺は着ぐるみを改めて観察した。黒い毛の質感、破れた部分、そして――。


「これは......」


 着ぐるみの表面に、微かに赤い毛が付着しているのを発見した。炎のように燃える赤い色の髪の毛だった。


「赤い毛......」俺は呟いた。


 さらに観察を続けると、着ぐるみからは微かに焦げたような匂いも漂ってくる。火の魔法を使った者の痕跡だ。


「それに、この置き方も不自然だ」俺は馬車の中を指差した。「もしセシリアが隠したなら、もっと見えないところに隠すはずだ。これは急いで放り込んだような乱雑さがある」


 アイリーンが眼鏡を光らせながら頷いた。


「確かに、理論的に考えて不自然です。セシリア様ほど几帳面な方が、こんな雑な隠し方をするとは思えません」


「それに」俺は続けた。「犯人の真の目的は着ぐるみを盗むことではない。俺たち歌劇団の内部分裂を狙ったんだ」


「内部分裂?」エレノアが眉をひそめた。


「そうだ。着ぐるみを盗んで、その罪をセシリアに着せる。そうすれば、俺たちは彼女を疑い、明日の公演どころではなくなる。歌劇団は空中分解し、公演は中止に追い込まれる」


 リリアが息を呑んだ。


「じゃあ、師匠。本当の犯人は――」


「歌劇団の成功を妬み、エレノアの復活を快く思わない者。そして、炎の魔法を使い、この場に容易に侵入できる立場にいる者だ」


 魔法少女たちの表情が変わっていく。そして、俺自身も不思議な感覚に包まれていた。なぜ、こんなにスムーズに推理できるのか。まるで答えを知っているかのように――。


「犯人は――」


 その時、劇場の影から拍手の音が響いた。


 パチパチパチ。


「さすがね、アポロナイト様の奴隷。なかなか鋭い推理だわ」


 現れたのは、燃えるような赤い髪を風になびかせた魔法少女だった。赤と黒を基調とした衣装に身を包み、手には炎の剣を握っている。


「メリッサ!」エレノアが驚愕の声を上げた。


 炎の魔法少女メリッサ・フレイムハートが、挑発的な笑みを浮かべながら姿を現した。彼女の周りには熱気が立ち昇り、地面が微かに焦げている。


「どうしてわかったの!?」メリッサが俺を睨み付けた。「奴隷の分際で、よくも私の完璧な計画を見破ったわね!」


 やはり、メリッサはいまだに俺をアポロナイトだと認識していない。あくまで、アポロナイトに仕える男性奴隷だと思っているようだ。彼女とは1ヶ月前に戦ったばかりだが、その際もアポロナイトには変身せずに中身で圧倒し、最終的に打ち上げ花火にしてやった。


「完璧な計画?」俺は冷笑した。「証拠を残しまくって、完璧だと?」


「証拠? 私がいつ証拠を――」


「君の髪の色と同じ赤い毛が着ぐるみに付着していた。それに、炎の魔法を使った痕跡もある。もう少し注意深くやるべきだったな」


 メリッサの顔が青ざめた。自分の失敗に気づいたのだろう。


「くっ......でも、どうせアタシの動機は見抜けないでしょう?」


「動機?」俺は腕を組んだ。「歌劇団がスターフェリア全土の注目を集めているのが気に入らなかった。特に、エレノアが再び脚光を浴びることが我慢ならなかった」


 メリッサの表情が一変した。


「そう! その通りよ!」彼女が叫んだ。「『おもらし姫』のエレノアがまたしても注目を浴びるなんて、許せるわけがないじゃない!」


 エレノアの顔が怒りで歪んだ。


「おもらし姫.....!?」


「本当はそこに出演するべきなのは、アタシのはずよ!」メリッサが続けた。「実力的にも、美貌でも、アタシの方が上に決まってるじゃない! なのに、なんでアタシが除け者にされなければならないのよ! 私は元宮廷の魔法少女なのよ!」


 彼女の嫉妬と怒りが、全身から炎となって噴き出している。


「それで、嫌がらせをしたのか」俺は静かに言った。「着ぐるみを盗んで、セシリアに罪を着せ、俺たちを内部分裂させようとした」


「そうよ!」メリッサが堂々と認めた。「アタシが出演できないなら、誰も出演させるもんですか! 歌劇なんて失敗すればいいのよ!」


 俺の怒りが込み上げてきた。魔法少女たちが一か月間、必死に稽古を重ねてきた。その努力を踏みにじろうとする彼女の行為は、絶対に許せない。


「お前のような卑劣な魔法少女に、歌劇の舞台に立つ資格があるわけがない」


 俺の声には、普段にない厳しさが込められていた。


「舞台とは、観客に感動を与えるための神聖な場所だ。自分の嫉妬と虚栄心を満たすためのものではない」


「舞台が神聖ですって?」メリッサが嘲笑った。「所詮、見世物じゃない。アタシのような美人が出演してこそ、価値があるのよ」


「違う」俺は首を振った。「舞台の価値は、演者の心にある。観客を想う気持ち、仲間を思いやる心、そして役に対する真摯な姿勢――それこそが舞台を神聖なものにするんだ」


 メリッサの表情が醜く歪んだ。


「綺麗事を言ってるんじゃないわよ! 奴隷の分際で、アタシに説教するなんて!」


 彼女が炎の剣を振り上げた瞬間――。


「待ちなさい、メリッサ」


 エレノアが前に出た。氷の魔力が彼女の周りに渦巻いている。


「あなたの相手は私よ」


 エレノアの瞳には、冷たい怒りが宿っていた。


「上等じゃない。相手になるわ! おもらし姫!」


 青白い光がエレノアを包み、氷の魔法姫の姿が現れた。青銀色の華麗な衣装に身を包み、手には氷の杖を握っている。


「フフフ......変身したわね」メリッサが挑発的に笑った。「今度こそ、完膚なきまでに叩きのめしてやるわ!」


「やってみなさい」エレノアが冷静に答えた。


 二人の魔法少女が対峙した。炎と氷、正反対の属性を持つ者同士の戦いが始まろうとしている。

お読みいただき、ありがとうございます!

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