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番外編●アイリーン店長の魔法少女カフェ経営奮闘記(2)

「一つ一つ見て回るとするか」


 クラリーチェが歩き始めると、他の出店の生徒たちは皆、恐怖で震え上がった。


 そして、ついに魔法少女カフェ☆スターライトの前に到達した。


「ほう。こちらが魔法少女カフェか」


「ク、クラリーチェ様!」


 アイリーンが慌てて立ち上がったが、あまりの緊張で眼鏡がずり落ちる。


「メガネ! メガネ! どこ!?」


「アイリーン先輩!」ステラが慌てて眼鏡を拾い上げる。


「クラリーチェ様〜! いらっしゃいませ〜!」ルルが大声で挨拶したが、声が裏返っている。


 リュウカ先生は完全に固まっていた。


「ひ、ひぃい……ク、クラリーチェ様……わ、わたくし……」


 クラリーチェは冷ややかにカフェを見回した。その視線は鋭く、まるで獲物を狙う鷹のようだった。


「ふん。見た目からして稚拙極まりない。この程度の装飾で魔法少女の威厳を表現したつもりか?」彼女の声は氷のように冷たい。「民が魔法少女に抱く畏敬の念、その信頼こそがわらわたちの力の源。それを理解しておらぬ愚か者どもめ。わらわは甘くはないぞ。半端な覚悟で魔法少女の名を冠した店など開くでない。こんな稚拙な店で、わらわを満足させられると思っておるのか?」


 その言葉に、四人の心臓が止まりそうになった。


「ク、クラリーチェ様……どうぞお席の方へ……」


 アイリーンが案内しようとしたが、あまりの緊張で再び眼鏡を落としてしまう。店長としての責任感と恐怖が入り混じり、手が震えて止まらない。


「メガネ! メガネが!」


「申し上げます。落ち着いてご対応ください」ディブロットが冷静に助言した。


「だ、大丈夫です!」ステラが前に出たが、緊張で小麦粉の袋にぶつかってしまう。


「あっ!」


 小麦粉が舞い散り、ステラの顔は真っ白になった。


「で、でも、絶対美味しいの作ります! クラリーチェ様にも絶対満足してもらいます!」


「ほほう」クラリーチェが冷笑した。「そんな状態で、わらわを満足させるつもりか? 去年退学になった愚か者どもと同じではないか」


「ひぃい……」リュウカ先生が情けない声を上げた。


 その時、ルルが勇気を振り絞って前に出た。


「ク、クラリーチェ様〜! 特別席をご用意いたします〜! 実家の温泉宿で一番いい席と同じですよ〜!」


 ルルが案内した席は、カフェの最も眺めの良い場所だった。しかし――


「この程度で特別席と言うのか? 王宮の調度品と比べれば、まるで乞食の住処じゃな」


 クラリーチェの辛辣な評価に、四人は顔を青ざめた。彼女の視線がさらに厳しくなる。


「聞くがよい。魔法少女への信頼は一朝一夕に築かれるものではない。だが、失墜するのは一瞬じゃ。こうした細部への配慮を怠る者に、どうして民が安心して身を委ねることができようか」


「は、はい! す、すみません!」ルルはすっかり平身低頭だ。


「ディブロット、やはり時間の無駄のようじゃな。深淵魔法の出番かもしれん」クラリーチェの瞳が暗く光った。「さっさと不合格の烙印を押して、相応の処分を与えた後、次に行くとするか」


「承知いたしました、クラリーチェ様。虚空結界の準備をいたしましょうか?」


 一同は戦慄した。「虚空結界」――球体の異空間に閉じ込められ、辱めを受けるという地獄のような罰。想像しただけで震えが止まらない。


「ま、待ってください!」


 リュウカ先生が慌てて前に出た。しかし、その手は震えている。深淵魔法の恐怖が彼女を支配していた。


「ク、クラリーチェ様! せ、せめて一品だけでも!」


「教師が出てくるか。じゃが、無駄じゃ。どうせ学生の作った粗末な菓子など、わらわの舌を満足させることなどできぬ」クラリーチェの声は容赦ない。「魔法少女の名に恥じる出来栄えなら、厳正なる処分が待っておるぞ」


「い、いえ!」アイリーンが魔法書を握りしめて立ち上がった。今度は眼鏡を落とさない。店長としての責任感が、恐怖を上回った瞬間だった。「私たちの真心が込もったお菓子です! きっと気に入っていただけます!」


「真心? ふん、そのような感傷で味が変わるとでも思っておるのか。魔法少女の真価は結果で示すもの。口先だけの美辞麗句など、わらわには通用せぬぞ」


 その時、アイリーンたちの絶望感は最高潮に達していた。このままでは本当に退学になってしまう。それだけでなく、深淵魔法で恐ろしいお仕置きが待っている。リュウカ先生も減給や左遷だけでは済まないかもしれない。


 しかし――


「みんな〜!」ルルが突然大声で叫んだ。「作戦会議です〜!」


 四人は急いでカフェの奥に集まった。クラリーチェは呆れたような表情で時計を見ている。明らかに時間切れが近い。


「どうしよう……このままじゃ本当に退学ですよ……」アイリーンが眼鏡を曇らせながら呟いた。店長としての責任感が、彼女を押し潰しそうになる。「それに……深淵魔法で……想像もつかない恐ろしいお仕置きが……」


「わ、わたくしも減給! 左遷! それに深淵魔法による処分も!」リュウカ先生が泣き始めた。


「で、でも〜! 諦めちゃダメです〜!」ルルが元気よく言った。「実家の温泉宿でも〜、すっごく厳しいお客様がいるんです〜! 王様とか〜、お姫様とか〜! でも〜、最後はみんな笑顔になってくれるんですよ〜!」


「どうやって?」


「秘密は〜、お客様の本当に欲しがってるものを見つけることです〜! 表面的な文句じゃなくて〜、心の奥底で求めてるものを〜!」


 アイリーンが必死に考え始めた。魔法書を開いて、クラリーチェに関する情報を検索する。眼鏡の奥の瞳に、店長としての決意が宿った。


「クラリーチェ様……王宮最強の魔法少女……深淵魔法の使い手……見た目は幼女だけど年齢不詳……」


「そうだ!」アイリーンが突然閃いた。「みんな、聞いて!」


 四人がアイリーンに注目する。


「クラリーチェ様は何百年も生きてらっしゃる。でも見た目は可愛らしい幼女のまま。ということは――」


 アイリーンの瞳が輝き始めた。


「きっと、心の奥底では、本当の子供だった頃の記憶を懐かしんでいるのかもしれない! 王宮の豪華な料理じゃなくて、幼い頃に母親が作ってくれた、素朴で温かいお菓子を!」


「それって……」ステラが身を乗り出した。


「私たちの手作りケーキこそが、クラリーチェ様の求めているものかもしれないの! でも、ただの手作りじゃダメ。私たちの心を一つにして、本当の家族の愛情を込めたお菓子を作るの!」


 ルルの目がキラキラと輝いた。


「それなら〜! 実家の秘伝レシピがあります〜! お母さんが子供の頃から作ってくれた〜、『愛情たっぷりふわふわケーキ』〜!」


「でも、材料が――」ステラが心配した瞬間、


「私が魔法書で最適な配合を計算します!」アイリーンが宣言した。


「自分が心を込めて作ります!」ステラも拳を握った。


「わたくし……」リュウカ先生が震えながら言った。「最後の仕上げの魔法をかけます!」


「みんなで力を合わせれば! きっと!」


 四人は手を重ねた。


「絶対に成功させましょう!」

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