(126)公演本番に向けての誓い
セシリアはリュウカ先生との口論を終えると、姿勢を正し、魔法少女たちに向き直った。
「あらためて、皆様にお願いがあります」
彼女は1週間後に町で歌劇を上演してほしいという話を説明し始めた。町の活性化のため、人々を元気づけるため、そして最高のエンターテイメントを提供するために――。
しかし、その話を聞いた瞬間、魔法少女たちが一斉に仰天した。
「1週間後!?」リリアが絶叫した。
「明日はもちろん無理だけど、1週間あっても無理だよ」ルルが大声で叫んだ。
「理論的に考えて、準備期間が全く足りません!」アイリーンが眼鏡を光らせながら分析した。
「わたくし、まだ歌も踊りも全然覚えてないのです」ミュウが猫耳を垂らしながら困惑している。
「自分、1週間で本番なんて、絶対無理です!」ステラも頭を抱えている。
リュウカ先生も顔を青くして叫んだ。
「セシリア、あなた、正気なの? 1週間で歌劇なんて、不可能よ」
俺は苦笑いしながら口を開いた。「だよな......」
「本当に無理だよ」ルルが涙目になっている。「ルル、まだ歌詞も覚えてないのに」
リュウカ先生がセシリアに詰め寄った。
「セシリア、あなた、何考えてるの? そんな無茶な要求をして」
「無茶じゃないわ!」セシリアが言い返した。「アポロナイトなら、そのくらいできるはずよ!」
「できるわけないでしょう」リュウカ先生が怒りを爆発させた。「あなた、歌劇がどれだけ大変か知ってるの? 脚本、演出、稽古、衣装、舞台装置――全部準備するのに、どれだけ時間がかかると思ってるのよ」
セシリアが少し弱気になった。「でも、町の活性化のためには......」
「町の活性化も大事だけど」リュウカ先生が詰め寄った。「生徒たちのことを考えなさい。無謀な公演で失敗したら、みんなのトラウマになるのよ」
「でも、私は町のリーダーとしての責任が......」
「責任があるなら、なおさら無責任な要求をするんじゃないわよ!」リュウカ先生の怒りが再燃した。「あなたって、昔から自分勝手なのよね。人の都合なんて考えないで」
「あなたこそ感情的になりすぎよ!」セシリアも負けじと言い返した。「冷静に考えれば、何とかなるはずでしょう!」
「何ともならないから言ってるのよ」
二人の口論がさらに激化していく。魔法少女たちは、この状況にただただ困惑していた。
その時、ルルの両親が仲裁に入った。
「まあまあ、お二人とも」母親が手をひらひらと振った。「とにかく盛り上がることが一番ですわ」
「そうそう」父親も嬉しそうに言った。「準備期間はともかく、盛大にやっていただければ、きっと大成功ですよ」
彼らは完全にビジネスモードで、歌劇の成功だけを考えていた。品質や準備期間のことは、二の次のようだ。
俺は状況を整理する必要があると判断した。
「ちょっと待ってください」俺が手を上げて全員の注意を引いた。「ルルのお父さん、お母さん、少し裏で話ができませんか?」
「はい、もちろんです」
俺はルルの両親と一緒に、温泉宿の裏手に移動した。そこは人目につかない静かな場所で、周囲には美しい庭園が広がっている。
「皆さんにお話しがあります」俺は真剣な表情で切り出した。「歌劇はやらせていただきます。しかし、一つ条件があります」
「条件ですか」母親が首を傾げた。
「俺たちは、深淵魔法を司る妖精アステリアについて調べています」
俺の言葉に、両親の表情が真剣になった。
「アステリア......」父親が呟いた。「百年以上前、魔法姫アリエルに深淵魔法を授けた伝説の妖精のことですね」
「ええ」俺は頷いた。「あなた方の書庫は広大すぎて、俺たちだけでは手がかりを見つけることができません」
俺は続けた。
「歌劇の準備に集中するため、その間にアステリアに関する情報を探していただけませんか? 古文書の中に、何か手がかりがあるはずです」
両親は顔を見合わせて、深く頷いた。
「それなら、任せてください」母親が力強く宣言した。
父親も自信を持って答えた。「アステリアに関する記録、必ず見つけ出してみせます」
「皆様が歌劇に専念している間に、私たちが責任を持って調査いたします」
その時、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、エレノア、リリア、ミュウが歩いてくるのが見えた。
「武流、話は聞かせてもらったわ」エレノアが腕を組んで言った。
「師匠」リリアが決意に満ちた表情で俺を見つめた。「ボク、主役として頑張ります。1週間という短い期間だけど、絶対に成功させてみせる」
彼女の瞳には、強い意志が宿っている。変身できない身でありながら、舞台の上で輝こうとする決意が。
「わたくしも」ミュウが猫耳をピンと立てて宣言した。「必ず歌劇を成功させたいのです」
俺は彼女たちの決意に心を動かされた。
「ありがとう、みんな」
エレノアが前に出て、ルルの両親に向き直った。
「私も、アステリアの調査に参加させていただきます」
「エレノア様も?」父親が驚いた。
「ええ」エレノアが頷いた。「王族として、古い歴史には詳しいつもりです。それに、この調査はリリアの魔力回復に関わる重要なものですから」
エレノアが俺を見つめた。
「武流、あなたは歌劇の演出に専念して。アステリアの調査は私たちに任せなさい」
「頼む」俺は深く頭を下げた。
俺は安堵のため息をついた。これで、歌劇の準備とアステリアの調査、両方を並行して進めることができる。
俺は心の中で決意を固めた。短期間での公演は確かに困難だが、不可能ではない。俺には元の世界でのスーツアクターとしての経験がある。厳しいスケジュールの中で、最高のパフォーマンスを作り上げてきた経験が。
そして何より、魔法少女たちの才能と情熱がある。この1か月間の稽古で、彼女たちの実力は確実に向上している。
さあ、1週間後の本番に向けて全力投球しよう。
公演当日まで、果たして何事もなく準備を進めることができるだろうか――。
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以上で第4章は完結です!
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明日から3日間は、魔法少女学園を舞台にした番外編を投稿します。どうぞお楽しみに!