(122)人々を愚民と見下す魔法少女にお仕置きを
「まだまだ続けますよ――クリスタル・リフレクション・アルティメット!」
セシリアが新たな魔法を発動すると、俺の周りに巨大な鏡のような水晶が配置され、俺の姿が無数に映し出された。そして、それぞれの鏡から俺の完璧なコピーが現れた。コピーたちは本物と同じ装備、同じ能力を持っているようで、蒼光剣も同じように光っている。
こんな能力まであるとは、彼女を侮っていた。
「あなたと寸分違わぬコピーです」セシリアが得意げに笑った。「どれが本物か、愚民どもには見分けがつかないでしょうね」
その「愚民」という言葉に、町の人々が一斉に怒りの声を上げた。
「愚民だって!?」
「私たちのことを何だと思ってるの!」
「許せない!」
俺も、セシリアの傲慢さに内心で憤りを感じた。町の人々をそんな風に呼ぶとは、リーダーとして完全に失格だ。
しかし、俺の前には十数体のコピーが立ちはだかっている。それぞれが蒼光剣を持ち、一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「蒼光斬!」
十数本の光の刃が俺に向かって飛んでくる。俺も同じ技で応戦したが、数的不利は否めない。一対一なら確実に勝てる相手でも、十数体が同時に攻撃してくれば話は別だ。
「どうです、アポロナイト?」セシリアが嘲笑った。「自分自身と戦う気分は?」
俺は温泉で得た魔力を僅かに使って、コピーの動きを観察した。コピーは複数いるが、その本体は1つ。それを攻撃すればダメージを与えられるはずだ。微細な魔力の流れを読み取ることで、コピーの本体を見極めようとする。
しかし、セシリアの幻術は非常に精巧で、簡単には見破れない。
「なかなか見分けがつかないようですね」セシリアが満足そうに言った。「では、さらに難しくしてあげましょう」
彼女が杖を振ると、コピーの数がさらに増加した。今度は二十体を超える俺のコピーが、狭い広場に立ち並んでいる。
「これでどうでしょうか?」
コピーたちが再び攻撃を開始した。今度は連携攻撃で、俺を包囲しながら交替で攻撃を仕掛けてくる。一体が攻撃している間に、他の体が次の攻撃の準備を整える、非常に効率的な戦術だった。
俺は蒼光剣を振り回して防御したが、コピーの攻撃は止まらない。
「そろそろ限界でしょう?」セシリアが勝ち誇った表情を見せた。「諦めて、私の要求を受け入れなさい」
町の人々が心配そうに俺を見守っている。中には「頑張って、アポロナイト様!」と声援を送る人もいたが、セシリアの圧倒的な魔力の前に、多くの人が不安を抱いていた。
「アポロナイト様、大丈夫?」
「あんなにたくさんの敵と戦って......」
「セシリア様、強すぎる......」
だが、俺はまだ本気を出していなかった。相手の実力を測るために、あえて受け身に回っていたのだ。セシリアの攻撃パターン、魔力の使い方、戦術の傾向――すべてを分析し終えた。
そして、町の人々の心配そうな声を聞いて、俺は決意を固めた。
そろそろ、本当の戦いを始める時だ。
俺は深く息を吸い、これまで温存していた力を解放する準備をした。セシリアの実力は確かに高い。しかし、俺には切り札がある。
「セシリア、確かにあなたは強い」俺はコピーたちに囲まれながら言った。「しかし、俺もまだ本気を出していない」
「何ですって?」セシリアの表情に僅かな動揺が走った。「まさか、この状況でまだ余裕があるというの?」
俺はルルの両親の方を振り返った。
「ルルのお父さん、お母さん、あなた方の温泉のおかげで、俺は新たな力を得ることができました。感謝しています」
両親が驚いた表情で俺を見つめている。
「武流先生......」
「私たちの温泉で、新たな力を......?」
俺は内心で、温泉での出来事を思い返していた。あの古代魔獣の背中で湧く神秘の温泉。その魔力が俺の体に宿り、新たな可能性を開いてくれた。今こそ、その力を使う時だ。
俺は温泉で得た魔力を全開にした。体の奥底から溢れ出る新しいエネルギーが、全身を駆け巡る。血管を流れる血液が、まるで溶岩のように熱くなり、筋肉の一本一本に力が宿る。
「蒼光剣、極限大解放!」
俺の剣が以前とは比べ物にならないほど強く光り始めた。その光は温泉の魔力と融合し、金色の輝きを帯びている。剣身から放たれる光は、セシリアの水晶よりもはるかに美しく、神々しささえ感じさせた。
「なっ!?」セシリアが驚愕した。「そんな力が......」
町の人々も、俺の変化に気づいて息を呑んでいる。
「アポロナイト様が光ってる......」
「まるで太陽みたい......」
俺は一気に動いた。温泉で強化された身体能力により、コピーたちの動きが止まって見えるほどのスピードで移動する。風を切る音さえ聞こえないほどの速度で、コピーたちの間を縫って移動した。
「温泉流奥義、蒼光一閃!」
俺の剣から放たれた光の刃が、全てのコピーを一瞬で切り裂いた。二十体を超えるコピーが、まるで幻だったかのように消失していく。幻術は完全に破れ、跡形もなく消えた。
「そんなバカな......」セシリアが後ずさりした。「私の最高傑作の幻術が......一瞬で......」
「幻術では、人の心は動かせない」俺は静かに言った。「あなたにはそれがわからない」
俺は内心で、セシリアの根本的な問題を理解していた。彼女は魔法の技術は確かに優秀だが、人の心を理解していない。リーダーとして最も重要な資質が欠けているのだ。
セシリアの顔が怒りに歪んだ。
「調子に乗らないで! まだ私の本当の力を見ていない!」
彼女が杖を高く掲げると、空中に巨大な水晶の城塞が現れた。その美しさは息を呑むほどで、まるで氷の女王の宮殿のようだった。しかし、その威圧感は先ほどまでとは桁違いだった。城塞の表面には無数の水晶の砲台が配置され、それぞれが異なる色の光を放っている。
セシリアはその城塞に飛び乗った。
「クリスタル・フォートレス・マキシマム!」
城塞から無数の水晶の槍が発射された。その数は数百本にも及び、まるで雨のように降り注ぐ。しかも、今度の槍は一本一本が誘導弾のように俺を追跡してくる。槍の先端は螺旋状に回転しており、貫通力を高めている。
しかし、俺は慌てなかった。温泉の力で強化された身体で、槍の嵐の中を縫うように動く。一本一本の軌道を正確に読み取り、最小限の動きで回避していく。
「どうですか、アポロナイト!」セシリアが城塞の上から見下ろしている。「私の最強の攻撃は!」
「確かに強力だ」俺は認めた。「しかし、完璧ではない」
俺の剣が残像を残しながら連続で振るわれ、飛来する槍を次々と切り落としていく。切り落とされた槍は光の粒子となって消散し、美しい光の雨を作り出した。
俺は蒼光剣に温泉で得た全ての魔力を込めた。剣が金色に輝き、その光は城塞を上回る輝きを放つ。剣身から立ち上る光の柱が、雲まで届きそうなほど高く伸びていく。
「温泉流奥義、蒼光剣ファイナルジャッジメント!」
巨大な光の刃が城塞に向かって飛んだ。その威力は想像を絶するもので、セシリアの水晶の城塞を一瞬で貫通した。城塞の中央に大きな穴が開き、そこから崩壊が始まった。
「な、なんて力......」セシリアが震え声で呟いた。
城塞が崩壊し、セシリアは空中から落下してくる。しかし、俺の反撃はここからが本番だった。