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(121)決戦! アポロナイトVS魔法少女セシリア

 町の中央広場は、石畳の美しい円形の空間だった。周囲には商店や住宅が立ち並び、既に何人かの町民が集まってきている。


「アポロナイト様だ!」


「本当にアポロナイト様が来てる!」


「セシリア様と戦うの?」


 町の人々がざわめき始めた。しかし、俺は群衆の中に微妙な空気を感じ取った。


「また、セシリア様の横暴が始まった......」


「いい加減にしてほしいわ」


「今度は何を押し付けるつもり?」


 小声でつぶやく町民たちの声が、俺の耳に届いた。どうやら、セシリアに対して不満を抱いている人々も多いようだ。


「あの方、いつも自分の思い通りにならないと怒り出すのよ」


「先月も、祭りの準備で気に入らないことがあって、準備委員全員に謝罪させたらしいわ」


「税金の使い道も勝手に決めて、反対意見は一切聞かないし......」


「町の修繕工事も、自分の気に入った業者しか使わないのよ」


「高圧的で、人の話を聞かないし......」


「うちの息子も、町の清掃作業で遅刻しただけで、一時間も説教されたって」


「商店の看板も、セシリア様の許可なしには変更できないのよ」


 俺は心の中で納得した。確かに、セシリアは町のことを真剣に考えているのだろうが、態度は傲慢で、町のリーダーとしては問題があるかもしれない。


 ルルの両親も緊張した面持ちで見守っている。父親が「武流先生、頑張って」と小声で応援してくれた。


 俺は内心で決意を固めた。この戦いは単なる意地の張り合いではない。町の人々が長い間我慢してきた理不尽な扱いに、一石を投じる機会でもある。セシリアのような独善的なリーダーには、きちんと現実を教えてやる必要がある。


 俺は変身の準備をする。ブレイサーに手をかけ、蒼い宝石に魔力を込めた。


「蒼光チェンジ!」


 ブレイサーの蒼い宝石から眩い光が迸り、超科学の力が俺の全身を包み込んだ。光粒子が螺旋状に集約され、体表に白銀の装甲を形成していく。変身の光が広場を照らし、町の人々が息を呑んで見守っている。


「星々の導きも、太陽の加護も、この一太刀に宿る!――蒼光剣アポロナイト!」


 変身が完了すると、町の人々から歓声が上がった。


「本物のアポロナイト様だ!」


「かっこいい!」


「頑張って、アポロナイト様!」


 しかし、セシリアは冷ややかに俺を見つめていた。その瞳には、相変わらず傲慢な光が宿っている。


「さあ、始めましょう」セシリアが杖を俺に向けた。「あなたの実力、見せていただきましょう」


 彼女の声には、明らかな見下しの色があった。まるで、俺が自分より劣った存在だと決めつけているかのようだ。


 セシリアが続けた。「私が勝った暁には、町の皆さんにも私の正しさを認めてもらいましょう」


 彼女が群衆を見回した。その視線には、町民を見下す色が露骨に表れている。


「皆さん、よく見ていてください。アポロナイトが、私にどのように敗北するかを」


 セシリアの言葉に込められた傲慢さに、俺は内心で怒りを感じた。しかし、感情に流されて戦ってはいけない。冷静に、確実に、彼女の鼻を明かしてやる必要がある。


 町の人々の間に、嫌悪感が走った。


「また、あの調子......」


「人をバカにして......」


「負けてくれないかしら、セシリア様」


 町の人々は、アポロナイトである俺ではなく、セシリアの敗北を望んでいるのだ。


 俺は心を決めた。町の人々のためにも、なんとしてもセシリアの傲慢さを打ち砕かなければならない。


「では、手始めに――クリスタル・レイン!」


 セシリアの呪文と共に、無数の水晶の破片が俺に向かって飛んできた。一つ一つは小さな破片だが、その軌道は計算されており、まるで将棋の駒を動かすように戦略的だった。破片は単なる直線軌道ではなく、空中で方向を変えながら俺を追跡してくる。


 俺は蒼光剣を抜いて、飛んでくる水晶を切り払った。しかし、破片は切られても再生し、より細かい破片となって俺を襲ってくる。一つ一つは威力が小さくても、数百個が同時に襲いかかってくれば、その威力は侮れない。


「その程度ですか?」セシリアが嘲笑った。「随分と平凡な太刀筋ですね」


 彼女の態度に、町の人々からため息が漏れた。俺は内心で冷静さを保ちながら、セシリアの攻撃パターンを観察していた。まだ本気を出すには早い。相手の実力を見極めてから、一気に畳み掛ける作戦だ。


「今度は少し本気を出しましょう――クリスタル・メイズ!」


 セシリアの呪文と共に、俺の周りに水晶の壁が次々と現れた。まるで迷路のように複雑な構造で、俺の動きを制限しようとしている。壁は単なる障害物ではなく、それぞれが魔力を帯びており、触れると電撃が走る仕組みだった。さらに、壁の表面には鋭い突起があり、迂闊に触れれば切り傷を負う危険性もある。


「さあ、どうします? この迷路から出られますか?」


 セシリアが高笑いしながら、さらに壁を増やしていく。迷路は三次元的に拡大し、上下左右すべてが水晶の壁で囲まれた。天井部分も水晶で覆われ、完全に密閉空間となっている。


「もしかしたら、一生そこから出られないかもしれませんね」


 俺は蒼光剣に魔力を込めて、水晶の壁を一気に切り裂いた。しかし、壁は瞬時に再生し、以前より厚くなって俺を包囲する。切り裂いた部分から新たな突起が生えて、より危険な罠となった。


「あら、力任せでは無駄ですよ」セシリアが余裕の表情を見せた。「私の水晶は、破壊されるたびに強度を増すのです」


 俺は別のアプローチを試した。細かく剣を振るって、水晶の弱点を探る。しかし、迷路の構造は刻一刻と変化しており、パターンを読み取るのは困難だった。


 だが、どんな物質にも弱点はある。迷路の壁を打ち破るのは難しい。だが、天井の水晶の構造は単純で脆い。


 それを見抜いた俺は、跳躍すると、蒼光剣で天井の水晶を切り裂いた。思惑通り、呆気なく水晶は崩壊し、俺は地上に着地する。


 だが、セシリアは既に次の攻撃を準備していた。


「クリスタル・プリズム・アレイ!」


 巨大な三角柱の水晶が空中に次々と現れ、太陽の光を屈折させて強烈な光線を俺に放った。一本だけでなく、十数本のプリズムが協調して、複雑な光線パターンを作り出す。光線は単純な直線ではなく、プリズム間で反射を繰り返し、予測不可能な軌道を描いた。


 俺は間一髪で回避したが、光線は地面を焦がし、石畳に深い溝を刻んだ。溝からは白い煙が立ち上り、石が溶けるほどの高温だったことがわかる。


「あら、避けられましたか」セシリアが残念そうに言った。「でも、次はどうでしょう?」


 彼女が杖を振ると、今度は複数のプリズムが回転し始め、四方八方から光線が俺を襲った。しかも、光線の角度が絶えず変化するため、予測が困難だった。回転速度も徐々に上がり、光線の嵐がますます激しくなっていく。


 俺は蒼光剣で光線を弾き返そうとしたが、一筋の光線が群衆の方向に向かった。


「危ない!」


 俺は咄嗟に身を投げ出し、光線を自分の肩で受け止めた。アーマーが焦げ、鋭い痛みが走る。


「あら、余計なことを」セシリアが冷たく言った。「そんなことをしていては、勝てませんよ?」


 その言葉に、俺は内心で怒りを覚えた。町の人々の安全を軽視するような発言は、リーダーとして失格だ。しかし、俺は感情を抑え、冷静さを保った。


 町の人々の怒りが爆発する。


「ひどい! 私たちのことなんてどうでもいいって言うの?」


「自分のことしか考えてない!」


「アポロナイト様、頑張って!」


 町の人々の声援が俺を勇気づけた。俺は彼らのためにも、絶対にセシリアを負かさなければならない。


 しかし、セシリアは容赦なく次の攻撃を放ってくる。


「クリスタル・スパイラル!」


 巨大な水晶の竜巻が俺を包み込んだ。内部では無数の水晶片が高速で回転しており、まるで巨大なミキサーの中にいるようだった。水晶片一つ一つが鋭利な刃となって、俺の装甲を削り取っていく。竜巻の内部では上下感覚も失われ、どちらが空でどちらが地面なのかもわからなくなった。


 俺は蒼光剣で防御を固めたが、攻撃は全方向から来るため、完全に防ぎきることは困難だった。アーマーの各所に小さな傷が増えていき、じわじわとダメージが蓄積されていく。


「どうです? 私の水晶の嵐は?」セシリアが竜巻の外から見下ろしている。「あなたの装甲も、じわじわと削れていますね」


 確かに、俺のアーマーには無数の傷がついていた。このままでは、消耗戦で負けてしまう。しかし、俺はまだ温泉で得た新たな力を使っていない。


 勝負はここからだ。

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