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(118)予想の斜め上を行く真相

 雷に打たれて黒焦げになったルルの両親を、俺たちは温泉宿の前の空き地に運び出した。


 二人は髪の毛が完全に逆立ち、顔は煤で真っ黒になっている。口からは時々「ぷはー」と煙が出ており、まるで漫画のキャラクターのようだった。


「お、お父様! お母様! 大丈夫ですか〜?」ルルが心配そうに両親を覗き込んだ。


「リュウカ先生、やりすぎですよ」俺が呆れながら言った。


「でも、武流先生を監視するなんて許せませんの!」リュウカ先生は魔法少女姿のまま、まだ怒っている。


 エレノア、リリア、ミュウ、そして他の魔法少女たちも心配そうに見守っている。アイリーンは眼鏡を光らせながら「理論的に考えて、あの電撃量は人体の限界を超えています」と分析していた。


 数分後、ルルの父親がようやく意識を取り戻した。


「うう......ん......」


「お父様!」ルルが飛び寄った。


「ルル......」父親が煙を吐きながら苦笑いした。「心配をかけて......すまない......」


 続いて母親も目を覚ました。


「あら......私たち......」


「お母様も大丈夫ですか?」


「ええ......でも、髪の毛が......」母親が自分の逆立った髪を触って困った表情を見せた。


 俺は二人の前にしゃがんで、真剣な表情で尋ねた。


「さて、もう隠し事はやめにしましょう。なぜ俺たちを監視していたんですか?」


 ルルの両親は顔を見合わせて、深いため息をついた。


「もう、隠しても仕方ありませんね......」父親が観念したように言った。


「全部、お話しします......」母親も頷いた。


 全員が固唾を呑んで二人の告白を待った。


「まず最初に申し上げておきますが」父親が真剣な表情で言った。「私たちは、クラリーチェ様の手下ではありません」


「魔獣を育てて世界征服を企んでいるわけでもありません」母親も続けた。


「温泉の魔獣について事前に知っていたわけでもありません」父親が付け加えた。


「武流先生を誘拐するつもりでもありませんし」母親も否定する。


「暗殺するつもりでもありません」


「この温泉を使って悪事を働こうとしているわけでもありません」


「他の魔法少女の皆様に危害を加えるつもりもありません」


「アポロナイト様と魔獣の遺伝子を融合させて新種の超進化魔獣を生み出そうなどと目論んでいるわけでもありません」


「いや、誰もそこまで疑ってませんけど……」と俺。


「じゃあ、一体何なの!?」ルルがイライラしながら叫んだ。


「そうよ」エレノアも呆れている。「さっさと本当の理由を言いなさい」


 両親は再び顔を見合わせて、ついに重い口を開いた。


「実は......」父親がゆっくりと話し始めた。「武流先生が、ルルの結婚相手にふさわしいかどうか、それを見極めようとしていたのです」


「け、結婚相手!?」ルルが真っ赤になって叫んだ。


「そうです」母親が急に嬉しそうな表情になった。「魔法少女は、自分より強い男性と出会ったら、将来その男性と結婚しなければならないのです」


「それは古い慣習であって、強制ではないはずですが......」エレノアが呆れたように呟いた。


「武流先生は、その第一候補なのです」父親が興奮し始めた。「昨日、うちの温泉の魔獣を見事に鎮めてくださって、ますます気に入りました」


「皆さんを整然と指揮して、あの美しい歌声での魔獣制圧、感動的でした!」母親も涙ぐんでいる。


「この温泉を未来永劫繁栄させていくのは、武流先生です!」父親が拳を握りしめて宣言した。


「ちょっと待ってください」俺が慌てて手を上げた。「俺はそんなつもりは――」


「もしもルルと結婚してくれたら、先生は我が温泉の跡取りになってくれます」母親が勝手に話を進める。


「そうなれば安泰です」父親も目を輝かせている。


「武流先生なら、きっと素晴らしい経営者になってくれます」


「新しい歌劇も取り入れて、最高の温泉リゾートに」


「全国から、いえ、世界中からお客様が」


「俺は温泉経営なんてできません!」俺が必死に否定した。


「謙遜なさらずに」父親がニコニコしている。


「武流先生なら何でもできます」母親も信じ切っている。


「魔獣も手なづけられるのですから」


「温泉経営なんて朝飯前です」


「だから、それは違います!」俺が声を荒げた。


「それで、武流先生の人柄や実力を確認しようと思って......」母親が恥ずかしそうに続けた。


「だから、こっそりと観察していたのです」


 魔法少女たちが一斉にため息をついた。


「そんな理由だったの......」リリアが呆れている。


「わたくし、てっきり世界征服の陰謀かと......」ミュウも猫耳を垂らしている。


「理論的に考えて、親バカの範疇を超えていますね」アイリーンが辛辣にコメントした。


 ルルも顔を真っ赤にして怒っていた。


「お父様! お母様! 勝手に人の結婚相手を決めないでよ!」


「でも、ルル」母親が嬉しそうに言った。「武流先生のような素敵な方と結婚できたら、幸せでしょう?」


「それは......」ルルが困ったような表情になった。「そりゃ、武流先生と結婚できたら嬉しいけど......」


「本当か!?」両親が同時に目を輝かせた。


「だから、仮定の話だよ!」ルルが慌てて手を振った。「まだ結婚するつもりなんてないの!」


 俺は立ち上がって、両親に向き直った。


「申し訳ないですが、俺は今のところ誰とも結婚するつもりはありません」


 俺のきっぱりとした宣言に、両親の顔が一瞬で青ざめた。


「そ、そんな......」父親がガクッと膝をついた。


「嘘でしょう......」母親も崩れ落ちるように座り込んだ。


「このままでは歴史ある温泉は経営難で潰れてしまう!」父親が天を仰いで絶叫した。


「跡取りもいない! もうおしまいだわ!」母親も大袈裟に両手で顔を覆った。


「え!?」ルルが唖然とした。「うちの経営ってそんなに悪かったの!?」


「ルル......お前は知らなかったのか......」父親が涙を流しながら呟いた。


「最近、お客様の足が遠のいて......」母親も絶望的な表情だ。


「だから武流先生に頼るしかないと......」


 俺は申し訳ない気持ちになった。しかし、結婚できないものはできない。


「申し訳ありません。でも、結婚という形でお手伝いすることはできません」


 その時――。


「武流先生!」


 リュウカ先生が割り込んできた。魔法少女衣装のまま、俺の腕に自分の胸を押し付けながら甘い声で言った。


「武流先生は私と結婚するんです! 他の女性なんて眼中にありませんわよね!」


 俺は慌てて彼女から距離を取った。


「いや、その予定もありません」


「え?」リュウカ先生の表情が一瞬で凍りついた。


「俺は、今は教師として生徒たちを指導することに専念したいんです」


 俺の言葉に、リュウカ先生の周りに危険な電撃が走り始めた。


「そんな......私との結婚を否定するなんて......」


「リュウカ先生、落ち着いて――」


「許せませんわ!」


 リュウカ先生の怒りが再び爆発した。今度は俺に向けて雷を落とそうとしている。


「サンダー・ラブラブ・アタック!」


「危ない!」エレノアが氷の魔法で俺を守ろうとした。


「武流先生!」リリアとミュウも俺の前に立ちはだかった。


「みんな、逃げろ!」


 俺は魔法少女たちを庇いながら、リュウカ先生の暴走を止めようとした。しかし、彼女の怒りは簡単には収まりそうにない。


「私以外の女性と結婚するなんて絶対に許しませんわ!」


 リュウカ先生の手から巨大な雷が放出されようとした、その時――。


「大変です!」


 突然、ステラの声が響いた。彼女が血相を変えて温泉宿から駆け出してくる。


「武流先生! みんな! 大変なことになりました!」

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