(112)セクハラすれすれの接近戦
メリッサの怒りが爆発した瞬間、彼女の手に握られていた炎の剣が急激に膨れ上がった。
「炎よ、我が怒りに応えよ! フレイム・ブレード・マキシマム!」
彼女の声と共に、剣身が通常の三倍ほどの大きさに成長する。刀身全体が白熱した炎で包まれ、まるで溶岩のように赤く輝いていた。その熱気だけで周囲の空気が歪んで見える。
「今度こそ逃がさないわ!」
メリッサが巨大な炎の剣を振りかざし、俺に向かって突進してきた。
「その服を切り刻んで、丸出しにした尻に火をつけてやる! 恥辱にまみれて泣き叫びなさい!」
彼女の下品な宣言に、生徒たちから「きゃー!」という悲鳴が上がった。
「武流先生、危険です!」アイリーンが心配そうに叫ぶ。
「師匠、逃げて!」リリアも必死に声をかけた。
しかし、俺は動じなかった。涼しい顔でメリッサの接近を待つ。
メリッサが俺の間合いに入った瞬間、巨大な炎の剣が振り下ろされた。その一撃は確実に俺を両断するはずだった――しかし、俺は紙一重でその攻撃をかわした。
剣が俺の頬をかすめ、地面に激突する。土の地面が一瞬で焦げ、煙を上げた。
「外した!?」メリッサが驚愕する。
俺は冷静に彼女の動きを分析していた。巨大な剣は確かに威力があるが、その分重く、扱いにくい。メリッサの体格では持て余している。
彼女が剣を横に薙ぎ払ってきた。狙いは明らかに俺の腰から下――特に尻を狙っている。
「そこを狙うとは、趣味が悪いな」
俺は後方に跳躍してその攻撃をかわしながら、スーツアクターとしての知識を披露した。
「アクションの基本は、相手の攻撃の軌道を読むことだ。君の剣筋は感情に左右されすぎている」
メリッサは執拗に俺の腰の辺りを狙い続けた。
「アタシの剣で、あなたのお尻に焼き印を押してやるわ!」
「品のない発言だな」
俺は軽やかに左右にステップを踏んで攻撃をかわす。
「映画やドラマの殺陣では、攻撃する側は必ず相手が避けられる場所を狙う。しかし実戦では、予測できない場所を狙うのが基本だ」
俺の解説に、生徒たちが感心したような声を上げた。
「すごい! 戦いながら解説してる!」ステラが興奮している。
「さすが武流先生!」アイリーンも眼鏡を光らせている。
メリッサがイライラした表情で、さらに激しく剣を振り回してきた。
「黙って戦いなさい! 解説なんてしてる余裕があるなんて!」
「実は、これも大切な技術なんだ」俺は彼女の攻撃をかわしながら続けた。「アクション俳優は、相手との呼吸を合わせるために、常に状況を把握し、声をかけ合う」
メリッサの剣が俺の腰めがけて突いてきた瞬間、俺は体を捻ってかわし、同時に反撃に出た。
「尻を狙ったお返しといこう」
俺の右拳が、メリッサの左の脇腹――肋骨の下あたりを狙った。急所ではあるが、致命傷にはならない場所だ。
「ぐっ!」
メリッサの体が一瞬くの字に曲がる。彼女の魔法少女衣装越しでも、その衝撃が伝わった。
「レディに攻撃する際は最大限の配慮をする」
続けて俺は左の手刀を、彼女の右肩の付け根に打ち込んだ。剣を持つ腕の動きを制限するためだ。
「きゃっ!」
メリッサの剣の軌道が大きく乱れる。
「ただし、実戦では相手の武器を封じることが最優先だ。多少は我慢してもらう」
俺は彼女の動きを観察し、弱点を見抜いていた。彼女は怒りに任せて力任せに攻撃しているだけで、体幹が安定していない。重心も高すぎる。
メリッサが体勢を立て直そうとした瞬間、俺は低い姿勢で彼女の足元に潜り込んだ。
「下から失礼」
俺の右膝が、メリッサの太ももの内側に正確に入った。
「ひゃん!」
メリッサが女性らしい悲鳴を上げる。顔が一瞬で真っ赤になった。
「な、何するのよ! そんなところ!」
俺は容赦なく次の攻撃に移った。立ち上がりざま、右の肘打ちを彼女の脇腹に叩き込む。
「あっ!」
メリッサの体が横に傾いた。その瞬間、俺の左手が彼女の右胸の下、肋骨の隙間を狙った。
「ここも効果的な急所の一つだ」
「きゃあああ!」
メリッサの悲鳴が夜空に響く。彼女の顔は屈辱と恥ずかしさで歪んでいた。
「そんな......そんなところ触らないで! セクハラよ!」
「俺の尻を狙ったお前に言われたくないな。戦闘では敵に容赦すべきではない。ただし、品位は保つのがマナーだ」
俺の冷静な解説に、生徒たちが感嘆の声を上げた。
「師匠、戦いながらでも紳士的!」リリアが感動している。
「プロの技術なのです!」ミュウも猫耳をピクピクと動かしながら言った。
「理論的で実践的です!」アイリーンも頷いている。
メリッサが必死に剣を振り回すが、既に彼女の動きは乱れきっていた。怒りと恥ずかしさで冷静さを完全に失っている。
「アクションでは、相手の感情の乱れが最大のチャンスとなる」
俺はその隙を見逃さなかった。
彼女が大振りで剣を振り下ろしてきた瞬間、俺は左にステップして攻撃をかわし、同時に右手で彼女の手首を掴んだ。
「なっ!」
俺の握力で彼女の手首が固定される。メリッサがいくら力を込めても、剣を動かすことができなくなった。
「離しなさい!」
彼女が左手で俺の顔を叩こうとしたが、俺はそれを左手で受け止めた。
「武器を持つ手の制圧は、格闘技の基本中の基本だ」
完全に制圧されたメリッサ。俺は彼女の手首を握ったまま、的確なツボを押すように圧迫した。
「痛い! 離しなさいってば!」
メリッサの手から炎の剣がポロリと落ちる。
その瞬間、俺は落下する剣を左足で蹴り上げた。
剣の持ち手が、ガラ空きになったメリッサの股間を正確に直撃した。
「ひぃぃぃぃ!」
メリッサの絶叫が夜空に響く。彼女は股間を押さえ、その顔は痛みと恥ずかしさで真っ青になった。
「申し訳ない。狙ったわけではないが、結果的に効果的な一撃となった」
メリッサの膝が震え、その場にへたり込みそうになる。
「うぅ......」
涙目になったメリッサを見下ろしながら、俺は落ちた炎の剣を拾い上げた。
剣を握った瞬間、灼熱の炎が俺の手を包み込む――はずだった。しかし、俺は何も感じなかった。温泉で得た魔力のおかげで、炎の熱さを感じないのだ。
「なんで!? なんで平気なの!?」メリッサが信じられないという表情で俺を見上げた。
「さあな」俺は炎の剣を軽々と振り回してみた。「案外、扱いやすい剣だな」
その光景に、生徒たちから驚きの声が上がった。
「武流先生、すごい!」ステラが興奮して叫んだ。
「炎の剣を素手で持ってる!」アイリーンも眼鏡を光らせながら感嘆している。
「わたくし、武流様の魔力がどんどん強くなってるのを感じるのです!」ミュウが猫耳をピクピクと動かしながら言った。
「師匠、かっこいい!」リリアも手を叩いて喜んでいる。
一方のメリッサは、完全に打ちのめされていた。自分の武器を奪われ、恥ずかしい部位を攻撃され、プライドもズタズタだった。
「返しなさい! それはアタシの剣よ!」
メリッサが立ち上がろうとしたが、まだ股間の痛みが残っているのか、足がもつれてしまう。
「欲しければ取りに来い」俺は挑発的に言った。
「くそっ! くそっ!」
メリッサの全身から再び怒りの炎が噴き出し始める。彼女の魔力が暴走寸前まで高まっていた。