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(111)武流先生VS魔法少女メリッサ

 メリッサは俺と生徒たちを交互に見回し、やがて大きく首を振った。


「はあ!? 何それ、冗談でしょ!?」


 メリッサの目が、まるで目の前の現実を受け入れられないとでもいうように、何度も瞬いた。


「アポロナイト様!? この男が!? ありえないわ!」


 メリッサは俺を指差しながら、嘲笑うように笑った。


「だって見なさいよ! ただの奴隷じゃない! アポロナイト様は神々しい光を纏った美しい騎士よ! この男とは全然違うわ!」


「本当だよ!」リリアが必死に説明しようとした。「師匠は本当にアポロナイトで――」


「嘘よ! そんなバカな話があるわけない!」メリッサが遮った。「あなたたち、この男に騙されてるのよ! アポロナイト様の名前を騙って、あなたたちを言いくるめてるだけなの!」


 俺は内心で呆れていた。おめでたいやつだ。目の前の現実を受け入れられず、自分の思い込みにしがみついている。


「ねえ、あなた」メリッサが俺に向き直った。「いい加減にその嘘はやめなさい。アポロナイト様の名前を騙るなんて、許されないことよ! あなたが本当にアポロナイト様だって言うなら、変身してみなさいよ! できるものなら!」メリッサが挑発的に言った。


 しかし、俺は首を振った。「今はその必要はない」


「ほら見なさい! できないじゃない!」メリッサが勝ち誇ったように叫んだ。「やっぱり嘘つきだった! アポロナイト様の名前を騙る詐欺師よ!」


 俺には変身しない理由があった。アポロナイトの姿になれば、確かにメリッサも納得するだろう。しかし、それでは面白くない。素の状態で彼女を圧倒してやりたかった。


「まあいいわ」メリッサが炎を手のひらに灯しながら言った。「どっちにしても、あなたを懲らしめることに変わりはないもの」


 その時、俺は彼女の姿をよく観察した。彼女は私服姿のままだった。王宮での戦いの時のような、赤と黒の魔法少女衣装ではない。


「メリッサ、お前、変身しないのか?」


「変身?」彼女が首を傾げた。「ああ、そうそう。忘れてたわ」


 メリッサは両手を広げ、全身に炎を纏わせた。


 赤い光が彼女の体を包み込み、次の瞬間、見慣れた赤と黒の魔法少女衣装に身を包んだメリッサが現れた。胸元を強調したコルセット風のトップス、短いスカート、そして炎の装飾が施されたブーツ。手には炎の剣が握られている。


「さあ、準備完了よ!」メリッサが炎の剣を俺に向けた。「この一ヶ月、アタシはただ遊んでいたわけじゃないの! 毎日のようにこの温泉に通い詰めて、魔力を高めてきたのよ!」


 確かに、彼女から放たれる魔力は以前より強くなっていた。温泉の効果だろう。


「王宮で惨敗した時とは違うわ!」


 メリッサが炎の剣を振りかざし、俺に向かって突進してきた。


「フレイム・スラッシュ!」


 炎の斬撃が俺に向かって飛んでくる。確かに以前より威力が増している。


 しかし、俺は軽く横にステップするだけで、その攻撃をかわした。


「なっ!?」メリッサが驚いた。


「遅いな」俺は余裕を持って言った。


「くっ! まだまだ!」


 メリッサが連続攻撃を仕掛けてきた。炎の剣を振り回し、炎弾を放ち、火の鞭で俺を捕らえようとする。


 だが、俺にはそのすべてが止まって見えるかのようだった。軽やかに身をかわし、時には軽く手で払うだけで彼女の攻撃を無力化していく。


「なんで!? なんで当たらないの!?」


 メリッサが汗を流しながら叫んだ。彼女は既に息を切らしているが、俺は汗ひとつかいていない。


 俺は戦いながら、自分の体の変化に気づいていた。温泉に入ったことで、俺の体にも微かに魔力が宿っているのを感じる。もともと特撮の現場で鍛えた身体能力はあったが、それに加えて軽い超能力的な力を発揮できるようになっていた。


 反射神経が向上し、動体視力が鋭くなり、筋力も増している。魔法は使えないが、確実に以前より強くなっていた。


「武流先生、すごい!」ステラが興奮して叫んだ。


「先生の動き、前より速くなってませんか?」アイリーンが眼鏡を光らせながら分析している。


「わたくし、武流様の体から微かな魔力を感じるのです!」ミュウが猫耳をピクピクと動かしながら言った。


「そうだよ! 師匠も温泉に入ったから、魔力が備わったんだ!」リリアが嬉しそうに手を叩いた。


 生徒たちの応援の声が俺の背中を押す。


「武流先生、頑張って!」


「その女をやっつけちゃってください!」


「あんな失礼な女、許せません!」


 ルルが特に大きな声で叫んでいる。


「武流先生の方が絶対強いんだから~!」


 一方のメリッサは、次第に焦りの色を浮かべ始めていた。


「くそっ! くそっ! なんで当たらないのよ!」


 彼女の攻撃は徐々に大振りになり、隙だらけになっていく。俺は相変わらず余裕を持って全ての攻撃をかわし続けた。


「もっと本気でこい」俺は挑発的に言った。「その程度じゃ、準備運動にもならない」


「なめるな!」


 メリッサが怒りに任せて大技を放った。


「インフェルノ・ストーム!」


 巨大な炎の竜巻が俺を包み込もうとする。しかし、俺は冷静に竜巻の動きを読み、その隙間を縫って脱出した。


「そんな!?」


 メリッサの顔に絶望の色が浮かぶ。彼女の切り札すら俺には通用しなかった。


「武流先生、かっこいい!」


「さすがです!」


 生徒たちの歓声が上がる中、メリッサは勢い余って空き地の隅にある廃屋に向かって突進してしまった。


「あっ! やばい!」


 彼女は自分の炎の勢いを制御しきれず、廃屋に体ごと突っ込んでしまった。


 ドガガガガッ!


 木造の建物が崩壊する音が響き渡る。


「きゃああああ!」


 メリッサの悲鳴と共に、廃屋が完全にバラバラに破壊された。木片や瓦礫が宙を舞い、土煙が舞い上がる。


 しばらくして土煙が晴れると、瓦礫の山の中からメリッサがよろよろと立ち上がった。


 彼女の魔法少女衣装は埃まみれで、髪はボサボサ、顔には木片の跡がついている。まったく様になっていない、無様な姿だった。


「あいたた......」


 メリッサが体の埃を払いながら呟いた。


「ぷっ」


 生徒たちが我慢しきれずに笑い声を漏らす。


「メリッサ様、お疲れ様でした~」ルルが皮肉たっぷりに言った。


「建物の解体作業、お疲れ様です」アイリーンも毒舌を吐いている。


「わたくし、あんな無様な魔法少女、初めて見たのです」ミュウが猫耳を震わせながら言った。


 メリッサの顔が屈辱で真っ赤になった。


「笑うな! 笑うんじゃない!」


 彼女の全身から怒りの炎が噴き出し始める。


「アタシを......アタシをバカにして......!」


 メリッサの目に狂気の光が宿った。理性的な戦いから、感情に任せた破壊的な攻撃に切り替わろうとしているのが分かる。


「許さない......絶対に許さない......!」


 彼女の魔力が暴走し始め、周囲の温度が急激に上昇していく。草木が焦げる匂いが漂い、地面の石が熱で赤く光り始めた。


「アンタなんか......アンタなんか......!」


 メリッサの怒りが頂点に達し、彼女の炎がさらに激しく燃え上がろうとしていた。

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