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(106)古代魔獣の驚きの正体

 魔獣が激しく暴れる中、エレノアは必死に氷の魔法を駆使していた。


「この魔獣、動きを止めるには冷やすしかないわ!」


 エレノアが氷の杖を高く掲げる。


「アークティック・ブリザード!」


 強烈な冷気が魔獣全体を包み込んだ。古代の魔獣の動きが一瞬鈍くなる。


「よし、効いてる!」


 しかし、その冷気は魔獣だけでなく、背中の甲羅の温泉にも影響を与えた。


「さ、寒い〜!」ルルが震え声で叫んだ。


「急に水温が下がりました〜!」アイリーンが歯をガチガチと鳴らしている。


「わたくし、凍えそうなのです〜!」ミュウの猫耳が寒さで震えている。


「師匠〜! 寒いよ〜!」リリアも青ざめている。


「ハクション!」ステラがくしゃみをした。


「ハ、ハクション♪」ルルも続いてくしゃみ。


「ハックシ〜!」ミュウも猫のようなくしゃみ。


「ハクショ〜い!」リリアのくしゃみが連続で出る。


「ハクション! ハクション!」アイリーンが連続くしゃみで眼鏡がずれている。


「あら〜♪ ハクション♪」リュウカ先生まで上品にくしゃみをしている。


 甲羅の温泉が次々とくしゃみのシンフォニーと化した。


「エレノア、冷やしすぎだ!」俺は叫んだ。


「でも、動きを止めるには――」


「みんなが風邪をひいてしまう!」


 俺は魔獣の様子をよく観察した。確かに暴れているが、その動きには悪意が感じられない。破壊しようという意図もなく、ただ混乱しているだけのように見える。


「エレノア、この魔獣をよく見ろ」


「え?」


「攻撃的じゃない。ただ目覚めて戸惑っているだけだ」


 エレノアも氷の攻撃の手を止めて、魔獣を観察した。


「確かに……この魔獣、もともと人間を襲う魔獣ではないのかもしれないわね」


 魔獣は首を振り回しているが、エレノアを踏み潰そうとしたり、故意に攻撃しようとはしていない。まるで、突然起こされて困惑している動物のようだった。


 その時、甲羅の温泉からリュウカ先生の声が聞こえてきた。


「あ〜! この魔獣、古文書で読んだことがありますわ〜♪」


「古文書?」俺は振り返った。


「そうですの〜♪ 確か『温泉亀』と呼ばれる古代の魔獣ですわ〜♪」


「温泉亀!?」全員が驚愕した。


「そんな魔獣いるの!?」ルルが大声で叫んだ。


「温泉を作る亀って……」ステラも唖然としている。


「理論的に考えて、そんな都合の良い魔獣が存在するなんて……」アイリーンが困惑している。


「わたくし、初めて聞くのです〜!」ミュウも驚いている。


「人を襲わない穏やかな魔獣で、体から温泉を噴出する能力があるって書いてありましたの〜♪」リュウカ先生が続けた。


「本当にそんな魔獣が……」リリアも信じられない様子だ。


「なるほど。温泉には魔獣の魔力が溶け込んでいる。それで温泉に入ると魔力が高まるってわけか」俺は納得する。


「それで? どうすれば大人しくなるんですか?」アイリーンが震え声で尋ねた。


「えっと〜♪」リュウカ先生が記憶を辿っている。「確か、歌ですわ〜♪」


「歌?」全員が同時に反応した。


「はい〜♪ 美しいメロディを聞かせれば、その音色で心が鎮まるはずですわ〜♪ 古文書にそう書いてありましたの〜♪」


 魔法少女たちから疑問の声が上がった。


「そんなバカな〜!」ルルが大声で反対した。


「空想の話じゃないの?」リリアも首を振る。


「理論的に考えて、音波が魔獣の神経系に影響を与えるとは思えません」アイリーンが分析している。


「なんで歌なのです〜?」ミュウも疑っている。


「根拠が薄すぎます」ステラも懐疑的だ。


 しかし、俺は考えた。確かに突拍子もない話だが、今の状況では試してみる価値はある。


「やってみよう」俺は決断した。


「え? 本気?」エレノアが驚いている。


「他に手がないだろう? エレノアの氷で冷やしても、みんなが凍えてしまうし、攻撃すれば温泉にいるみんなが危険だ」


 俺の言葉に、魔法少女たちも納得した。


「それじゃあ〜♪」リュウカ先生が嬉しそうに声を上げた。「わたくしが歌いますわ〜♪」


「リュウカ先生が?」


「はい〜♪ とっておきの歌を〜♪」


 リュウカ先生は美しい声で歌い始めた。


「♪青い空に〜♪ 白い雲〜♪ 風が運ぶ〜♪ 優しい調べ〜♪」


 最初は普通の美しい歌だった。魔法少女たちも「いい歌ね」と感心している。


「♪星が輝く〜♪ 夜空には〜♪ ひとつの願いが〜♪ 込められて〜♪」


 しかし、だんだん歌詞が怪しくなってきた。


「♪その人の名前は〜♪ 武流という〜♪ 素敵な響き〜♪ 心に刻んで〜♪」


 魔法少女たちの表情が変わり始めた。


「あれ? 今、武流先生の名前が……」リリアが気づいた。


「♪黒い髪に〜♪ 強い瞳〜♪ 変身する姿〜♪ アポロナイト〜♪」


 もう完全にバレた。


「♪愛しています〜♪ この気持ち〜♪ 結婚したいな〜♪ あの人と〜♪」


 魔法少女たちが一斉にドン引きした。


「うわあ……」ステラが引いている。


「これは……」アイリーンが眼鏡を曇らせている。


「恥ずかしすぎるのです……」ミュウが猫耳を垂らしている。


「お、お姉様……この歌、どうにかならない?」リリアが困惑している。


「ルル、聞いてられませ〜ん♪」ルルが両手で耳を塞いでいる。


 エレノアも地上で頭を抱えている。


「あの人、本当に空気が読めないのね……」


「♪夜も一緒〜♪ 朝も一緒〜♪ お風呂も一緒に〜♪ 入りましょ〜♪」


 リュウカ先生の歌は続く。完全にオリジナルの即興ラブソングだった。


「♪武流先生の〜♪ お嫁さん〜♪ わたくしが一番〜♪ 相応しい〜♪」


 俺は顔を赤くしながら叫んだ。


「リュウカ先生! もう少し普通の歌を――」


「♪愛の歌声〜♪ 届けたい〜♪ あなたの胸に〜♪ この想い〜♪」


 歌は止まらない。魔法少女たちも完全に諦めモードに入っている。


「これで魔獣が大人しくなるんでしょうか……」アイリーンが不安そうに呟いた。


「わからん……」俺も自信がなくなってきた。


 魔獣はリュウカ先生の歌を聞いて――。


 果たして、この愛の歌で古代の魔獣は鎮まるのだろうか?


 それとも、さらに暴れ出してしまうのだろうか?


 リュウカ先生の歌声が温泉地に響く中、全員が固唾を呑んで魔獣の反応を見守っていた。


「♪愛しています〜♪ 愛しています〜♪ 武流先生〜♪ 大好き〜♪」


 歌は延々と続いていく――。

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