(104)武流争奪戦! 温泉耐久バトル
女湯での激しいバトルが始まった。
「それでは、みなさ〜ん♪ 勝負開始で〜す♪」
ルルの元気な声が仕切りの向こうから聞こえてくる。
「負けませんわよ〜♪」
「私だって〜♪」
「わたくし、頑張るのです〜♪」
リュウカ先生、ステラ、ミュウの声も続いた。
「私も本気で行きますわ〜♪」アイリーンの声も混じっている。
俺は男湯で心配になり、10分ほどで温泉から上がった。この無謀な勝負を止めなければならない。
「おい、みんな! 大丈夫か!?」俺は仕切りの向こうに声をかけた。
「見ちゃダメです〜!」アイリーンの慌てた声が返ってくる。
「いや、見てないから! 心配してるんだ!」
「武流先生〜♪ 応援ありがとうございま〜す♪」ルルの能天気な声。
「いや、応援しているわけでは……」と俺。
最初は楽しそうな声が聞こえていたが、時間が経つにつれて状況は変わってきた。
15分経過――。
「う〜ん……」ステラの呻き声が聞こえてくる。
「ちょっと……のぼせそう……」別の生徒の弱音。
「でも……負けられません〜♪」アイリーンの意地っ張りな声。
20分経過――。
「あ、暑い……」
「頭がクラクラする……」
「でも……まだまだ〜♪」ルルは相変わらず元気だ。
30分経過――。
「もう、馬鹿馬鹿しいわ」
エレノアの呆れた声が聞こえてきた。
「こんな勝負、意味ないでしょう? 私は上がるわよ」
「え〜? お姉様、もう諦めるの〜?」リリアが驚いている。
「当然よ。体に良くないもの」
ザブンという音と共に、エレノアが温泉から上がった音が聞こえた。
「エレノア様が脱落〜♪」ルルが大声で実況している。
「まだまだ続けますわよ〜♪」リュウカ先生の意気込みは衰えない。
35分経過――。
「うう……気持ち悪い……」
「手がふやけてきた……」
「でも……頑張る……」
生徒たちの声に明らかな疲労が見えてきた。しかし、誰も諦めようとしない。
40分経過――。
「ボク……もう限界かも……」リリアの弱々しい声。
「わたくしも……猫が溺れそうなのです……」ミュウも苦しそうだ。
「ルル……頑張る……でも……フラフラ〜♪」ルルの声も既にろれつが回っていない。
「皆さん〜♪ 私はまだまだ余裕ですわよ〜♪」
リュウカ先生だけは相変わらず元気だった。
45分経過――。
そして、リュウカ先生が突然とんでもないことを言い出した。
「そうですわ〜♪ この勝負に勝った方が、武流先生と結婚できるということにしましょ〜♪」
「えっ!?」
女湯が一瞬静寂に包まれた。
「結婚!?」
「武流先生と!?」
俺は慌てて仕切りに向かって叫んだ。
「おい! そんなの聞いてないぞ!」
「あら〜♪」リュウカ先生の甘い声が返ってくる。「スターフェリアの伝統では、強い魔法少女が男性を選ぶ権利があるんですのよ〜♪」
「そんなめちゃくちゃな――」
しかし、少女たちの反応は予想外だった。疲労困憊だったはずの彼女たちに、突然火がついた。
「結婚……」
「師匠と……」
「武流先生と……」
「負けられない!」リリアの声が急に力強くなった。
「わたくしも頑張るのです!」ミュウも奮起している。
「ルル、絶対勝つ〜♪」ルルも気合い十分だ。
「私だって負けません〜♪」ステラの声も聞こえてくる。
「理論的に考えて、私が一番武流先生に相応しいです〜♪」アイリーンまで参戦している。
俺は頭を抱えた。完全に話がおかしな方向に進んでいる。
「みんな、そんな勝負やめろ!」
しかし、誰も聞く耳を持たない。
50分経過――。
「う〜ん……でも……負けない……」
「武流先生のために……」
「頭がボーっとするけど……頑張る……」
全員が限界を超えているのは明らかだった。
「お姉様〜♪ 一緒に頑張ろうよ〜♪」リリアがエレノアに呼びかけた。
「私は遠慮するわ」エレノアがきっぱりと断る。
「え〜? なんで〜?」
「そんな馬鹿げた勝負に参加する気はないの。武流と結婚なんてご免だわ」
エレノアの冷静な声が聞こえてくる。俺はホッとした。少なくとも一人はまともな判断をしてくれる人がいる。
55分経過――。
その時、俺は異変に気づいた。
「ん?」
男湯のお湯が、微かに熱くなっているような気がする。最初は気のせいかと思ったが、確実に温度が上昇していた。
「おかしいな……」
俺は仕切りの向こうに声をかけた。
「エレノア、そっちのお湯の調子はどうだ?」
「え? ああ、確かに少し熱くなっているような……」
エレノアの声にも困惑が混じっている。
「最初より明らかに温度が高いわ」
「やっぱりか……」
俺とエレノアは仕切り越しに会話を続けた。
「何かおかしいぞ」
「ええ……温泉の温度が自然に上がるなんて……」
1時間経過――。
その時、女湯から心配な声が聞こえてきた。
「あれ〜? なんだか熱くない〜?」ルルの声が震えている。
「確かに……最初より熱いです……」アイリーンも気づいている。
「でも……負けられない……」リリアの必死な声。
「わたくしも……頑張るのです……」ミュウも震え声だ。
しかし、誰も温泉から出ようとしない。勝負に夢中になりすぎている。
「みんな、危険だから出ろ!」俺は大声で警告した。
「大丈夫ですわ〜♪」リュウカ先生だけは相変わらず余裕だ。「魔力があれば問題ありませんわ〜♪」
その時――。
ぶくぶくぶく……
お湯が激しく泡立ち始めた。
「何だ、これは!?」
俺は慌てて脱衣所へ避難した。エレノアも同じように女湯から避難したようだ。
ぶくぶくぶくぶく……
泡立ちがますます激しくなる。
「みんな、すぐに出ろ!」
俺が叫んだ瞬間――。
ゴゴゴゴゴ……
地響きのような音が響いた。
「きゃああああああ!」
女湯から悲鳴が上がる。
俺は急いで服を着て、エレノアと合流した。彼女も慌てて服を着直している最中だった。
「一体何が起こったの!?」
「分からない! とにかく、みんなの安全を確認しないと――」
その時、温泉の建物全体が大きく揺れた。
そして次の瞬間、信じられない光景が俺たちの目に飛び込んできた。
地面を突き破って、巨大な四つ足の魔獣が現れたのだ。
それは古代の巨大な亀のような姿をしており、その甲羅の部分に温泉が作られていた。つまり、俺たちがこれまで入っていた温泉は、この魔獣の背中だったのだ。
「な……何だ、あれは……!?」
俺とエレノアは絶句した。
そして、魔獣の甲羅の温泉の中では――。
「助けて〜♪」
「武流先生〜♪」
「降りられませ〜ん♪」
リュウカ先生、リリア、ミュウ、ステラ、アイリーン、ルル、その他の生徒たちが、全裸のまま甲羅の温泉に入った状態で、必死に助けを求めている。
「この温泉……まさか……」
エレノアが震え声で呟いた。
「古代の魔獣の背中だったっていうの!?」
魔獣の巨大な首が俺たちの方を向いた。その目は古代の叡智を宿しているように見えるが、同時に怒りの色も浮かんでいる。
俺たちは後退しながら、この信じられない状況に困惑していた。
果たして、この巨大な魔獣の正体は何なのか――?
そして、魔獣の甲羅の温泉に取り残された少女たちを、どうやって救出するのか――?