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(103)歓迎! 魔法少女御一行様

 王都から馬車で数時間。俺たちが到着したのは、想像を遥かに超える豪華な建物だった。


「これが……温泉宿?」


 ステラが呆然と呟いた。


 目の前に聳え立つのは、まるで宮殿のような白亜の西洋建築だった。高い尖塔が複数そびえ立ち、美しいステンドグラスの窓が夕日に照らされて輝いている。敷地は広大で、手入れの行き届いた庭園には噴水まで設置されていた。


「ここが実家って……」アイリーンが眼鏡を光らせながら分析している。「理論的に計算すると、この建物の総面積は学園の倍以上です」


「わたくし、お城かと思ったのです……」ミュウの猫耳がピクピクと動いている。


 エレノアも驚愕の表情を隠せずにいた。


「これほどの豪邸とは……ルルの家系はいったい……」


 その時、大理石の階段を駆け下りてきたのは——。


「お帰りなさいませ、ルル様!」


 執事や侍女たちが一列に並んで深々と頭を下げた。その数だけでも20人以上はいる。


 そして宮殿のような玄関から現れたのは、品格のある中年夫婦だった。


「ルル〜♪」


 母親らしき女性が駆け寄ってきた。ルルと同じピンク色の髪をした美しい女性で、高級そうなドレスに身を包んでいる。


「お母様〜♪」


 ルルが母親に飛び込んでいく。


「お父様も〜♪」


 父親は威厳のある男性で、立派な髭を蓄えている。しかし娘を見る目は優しく、ルルを優しく抱きしめた。


「元気でやっていたかい、ルル?」


「はい〜♪ とっても楽しい学園生活です〜♪」


 家族の再会を微笑ましく見ていた俺たちに、ルルが振り返った。


「みなさ〜ん♪ 紹介しま〜す♪」


 ルルは大声で宣言した。


「お父様、お母様〜♪ こちらが武流先生です〜♪」


 その瞬間、両親の表情が一変した。


「まあ……」母親が息を呑んだ。「噂に聞いていた武流先生……」


「これは……」父親も何やら意味深な表情を浮かべている。「お美しい……いえ、立派な方ですね」


 俺は違和感を覚えた。二人の視線が妙に熱っぽく、何か企んでいるような雰囲気がある。


「あ、あの……」俺は当惑しながら挨拶した。「神代武流です。ルルがいつもお世話になって――」


「いえいえ〜♪」母親が急に興奮したような声になった。「こちらこそ〜♪ ルルがいつも『武流先生、武流先生』と申しておりまして〜♪」


「そうそう」父親も頷いている。「毎日のようにお手紙で武流先生のお話を聞かせていただいて……」


 二人がヒソヒソと何かを囁き合っている。俺には聞こえないが、明らかに俺のことを話題にしているようだ。


「なんか、怪しくない?」ステラが小声で呟いた。


「確かに……何か企んでいるような……」アイリーンも疑問を抱いている。


 しかし、ルルは全く気づいていない様子で、嬉しそうに両親と話している。


「それでは、皆様をご案内いたします〜♪」


 母親が手を叩くと、執事たちが一斉に動き出した。


「お荷物をお預かりいたします」


「お部屋へご案内いたします」


「お食事の準備をいたします」


 まるで王族の待遇だった。俺たちは圧倒されながら、豪華な館内に案内された。


 廊下の壁には名画が飾られ、シャンデリアが美しく輝いている。絨毯は最高級品で、足音も立てないほど厚手だった。


「すげぇ……」ステラが感嘆の声を上げている。


「これが庶民と貴族の差というものですのね……」リュウカ先生も圧倒されている。


 案内された部屋も、それぞれが宮殿の一室のような豪華さだった。俺に与えられた部屋は特に立派で、四角いベッドと専用のバスルーム、さらには書斎まで付いている。


「武流先生のお部屋は特別にご用意させていただきました〜♪」


 母親が意味深な笑みを浮かべながら説明した。


「何か御用がございましたら、いつでもお声をかけてくださいませ〜♪」


 俺はますます不安になった。この夫婦、明らかに何かを企んでいる。


 夕食も豪華絢爛だった。長いテーブルに並べられた料理の数々は、まるで宮廷晩餐会のようだった。


「こんな豪華な料理、初めて食べます……」リリアが感動している。


「わたくしも、こんなお肉初めて食べるのです……」ミュウも幸せそうだ。


 しかし、俺は食事中もルルの両親の視線を感じていた。二人とも、時々俺を見ては何やらヒソヒソと話している。


 食事後、いよいよ温泉の時間となった。


「皆様、当館自慢の温泉をお楽しみください〜♪」


 父親が誇らしげに案内してくれた温泉は、確かに素晴らしかった。


 大理石で作られた浴槽は、まるでローマ時代の公衆浴場のように広大だった。お湯は透明で、ほのかに光っているように見える。


「これが魔力を高める温泉ね……」エレノアが興味深そうに湯に手を浸けている。


「確かに、普通の温泉とは違いますね」アイリーンが分析している。「魔力粒子の濃度が通常の3倍です」


「それでは〜」ルルが大声で宣言した。「みんなで温泉に入りましょ〜♪」


 女湯と男湯は分かれているため、俺は一人で男湯に向かった。しかし、女湯の方からは賑やかな声が聞こえてくる。


「うわ〜、気持ちいい〜♪」


「本当に魔力が高まりそう〜」


「このまま一晩中入っていたい〜」


 俺は一人、静かに温泉を楽しんでいた。確かに、この温泉は特別だった。お湯に浸かっているだけで、体の奥から力が湧いてくるような感覚がある。


 しかし、女湯の方がだんだん騒がしくなってきた。


「そうだ〜♪」ルルの大声が聞こえてくる。「みんなで勝負しませんか〜?」


「勝負?」


「いつまで温泉に入っていられるかの勝負です〜♪」


 俺は嫌な予感がした。


「1秒でも長く浸かって、魔力を高めるんです〜♪」


「それは面白そうですわ〜♪」リュウカ先生の声も聞こえてくる。


「私も参加します〜♪」


「負けませんわよ〜♪」


 女湯が一気に盛り上がっている。


 俺は慌てて立ち上がった。これは危険だ。温泉に長時間浸かりすぎると、のぼせてしまう可能性がある。


「おい、みんな!」俺は仕切りの向こうに声をかけた。「長時間の入浴は危険だぞ!」


「大丈夫で〜す♪」ルルの返事が返ってくる。


「魔力があれば、のぼせませんわ〜♪」リュウカ先生も余裕の声だ。


「私たちは魔法少女ですから〜♪」


 誰も俺の忠告を聞いてくれない。


「それでは、勝負開始で〜す♪」


 女湯から歓声が上がった。


 俺は頭を抱えた。魔力を高める温泉とはいえ、限度というものがある。しかも、全員が意地になって競争している状況では、誰も途中で諦めないだろう。


「武流先生〜♪」女湯からルルの声が聞こえてくる。「応援してくださ〜い♪」


「みんな、無理をするなよ〜」俺は再び忠告したが――。


「負けませんわ〜♪」


「私が一番よ〜♪」


「わたくし、猫の根性を見せるのです〜♪」


 女湯は完全に戦場と化していた。


 さて、この無謀な勝負はどうなるのだろうか――。


 俺は不安を抱えながら、女湯から聞こえてくる騒がしい声に耳を傾けていた。

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