(99)リュウカ先生、愛の大暴走
生徒たちが息を呑んで見守る中、リュウカ先生が音楽室の中央に立った。
「それでは〜、わたくしの本気をお見せしますわ〜♪」
彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、脚本を受け取った。豊満な胸を強調するように背筋を伸ばし、金髪を指で弄びながら俺を見つめる。
「ルミナが星の妖精と出会うシーンですね〜。任せてくださいまし〜♪」
俺は内心で身構えた。リュウカ先生の「本気」がどんなものなのか、この一か月の観察でおおよその予想はついていた。
「『わたし、もう魔法少女じゃない。でも――』」
しかし、予想に反して、リュウカ先生の演技は驚くほど上手だった。
彼女の声には深い悲しみが込められており、表情も自然で説得力がある。セクシーな外見からは想像もつかないほど、演技に対する真摯な姿勢が感じられた。
「『でも、諦められない!きっと、もう一度――』」
生徒たちも、予想外の上手さに驚いている。アイリーンは眼鏡を光らせながら「理論的に完璧な感情表現です」と呟き、ステラも「すげぇ……」と感嘆の声を上げていた。
しかし、ここからがリュウカ先生の真骨頂だった。
脚本の終わりに差し掛かると、突然彼女の表情が変わった。台本を胸に抱きしめ、俺を見つめながら――。
「『でも、わたしには分かるの。運命の人に出会った瞬間のことが』」
そんなセリフは台本にない。完全にアドリブに入っている。
「『初めて見た瞬間、雷に打たれたように心が震えた。この人こそが、わたしの全てを捧げるべき相手だって』」
生徒たちの表情が困惑に変わっていく。
「『どんなに拒まれても、どんなに避けられても、この想いは消えない。永遠に燃え続ける炎のように――』」
リュウカ先生の瞳が潤んでいる。これは明らかに演技ではなく、本心だった。
「『ああ、愛しい人よ。わたしをあなたの花嫁にしてくださいまし〜♪』」
最後は完全に告白になっていた。
音楽室が静寂に包まれる。生徒たちは呆然としており、エレノアは呆れたような表情で俺を見ている。
「り、リュウカ先生……」俺は苦笑いを浮かべた。「演技は素晴らしかったですが、脚本から外れすぎです」
「あら〜♪」リュウカ先生はにっこりと笑った。「演技に感情移入しすぎちゃいましたの〜♪」
続いて歌の審査に移った。
「♪星よ〜、教えて〜、この想いを〜♪」
リュウカ先生の歌声は、予想を遥かに超えて美しかった。
豊かな声量と正確な音程、そして何より表現力が素晴らしい。高音部分では、音楽室の窓ガラスが振動するほどの迫力ある歌声を響かせた。
「♪愛する人に〜、届けたい〜、この想い〜♪」
窓ガラスがビリビリと震え、生徒たちは思わず耳を押さえた。しかし、その歌声の美しさは圧倒的で、誰もが聞き入ってしまう。
「♪た〜と〜え〜、世界が〜、敵になっても〜♪」
最高音部分で、ついに音楽室の一枚の窓にヒビが入った。
歌い終わったリュウカ先生は、満足そうに微笑んでいる。
「いかがでしたか〜? わたくしの歌声〜♪」
生徒たちは唖然としていた。ステラが「すげぇ……窓が割れそうだった」と呟き、アイリーンも「音響学的に考えて、あの音域は人間の限界を超えています」と分析していた。
確かに、リュウカ先生の歌唱力は抜群だった。しかし――。
「では、最後に魔力のテストです」俺は少し緊張しながら言った。
「はい〜♪」リュウカ先生の瞳が輝いた。「これが一番得意ですの〜♪」
彼女は音楽室の中央に立ち、両手を高く掲げた。金髪が風になびき、豊満な胸が強調される。
「まずは〜、舞台に相応しい演出をいたしますわ〜♪」
リュウカ先生の指先から、淡い電撃が迸った。しかし、それは攻撃的な雷ではなく、美しく制御された光の束だった。
パチパチと音を立てながら、無数の電光が音楽室の天井に向かって踊る。まるで星空のように煌めく光の粒子が、室内を幻想的に照らし出した。
「すごい……」リリアが息を呑んだ。
「こんなに繊細な電撃制御……」アイリーンが眼鏡を光らせている。
リュウカ先生の魔力は、確かに一級品だった。雷という破壊的な属性を、これほど美しく制御できる魔法少女は滅多にいない。まるで舞台照明のように、空間全体を荘厳に演出している。
俺も思わず見惚れてしまった。これは本物の才能だ。彼女の魔力技術は、エレノアやミュウを上回っている。さすがは二十歳の魔法少女と言うべきか。
「そして〜♪」
電光の演出が、さらに美しく変化した。金色の光の粒子が宙を舞い、まるで星屑のカーテンのように音楽室を包み込む。ロマンチックで幻想的な光景に、生徒たちも息を呑んでいる。
リュウカ先生が俺の方を向いた。その瞳には、真剣な想いが宿っている。光の演出に包まれた彼女の姿は、まるで天使のように美しかった。
「武流先生……」
美しい電光に包まれながら、彼女はゆっくりと俺に近づいてきた。黄金色の光が彼女の髪と肌を照らし、この上なくロマンチックな雰囲気を醸し出している。
「わたくし、もう隠すのはやめにいたします」
生徒たちが固唾を呑んで見守っている。
「あなたに出逢ったその時から、わたくしの心は雷に打たれたように震えているのです」
彼女の告白は、先ほどの演技とは違って真剣だった。光の演出が彼女の想いを一層際立たせている。
「どうか、わたくしをあなたのお傍に置いてくださいまし。生涯をかけて、あなたをお支えいたします」
そして、彼女は俺の前で片膝をついた。光の粒子が彼女の周りで舞い踊り、まるで星空の下でのプロポーズのような幻想的な光景だった。
「武流先生、わたくしと結ばれてくださいませ」
音楽室が完全に静寂に包まれた。生徒たちは皆、この展開に圧倒されている。
俺は深いため息をついた。
「リュウカ先生……」
俺は彼女を見下ろしながら、静かに言った。生徒たちが固唾を飲んで俺の返答に注目している。
「申し訳ありませんが、俺は学園では誰ともお付き合いする気はありません」
リュウカ先生の表情が固まった。
「え?」
美しい光の演出が、急に不安定に揺らめき始めた。
「教師として、生徒たちを指導するのが俺の責務です。生徒はもちろん、教師と恋愛関係になることはできません」
俺の言葉に、リュウカ先生の顔が青ざめていく。生徒たちが見守る中での公開告白が、公開処刑に変わった瞬間だった。
「そ、そんな……」
彼女の周りの光が激しく明滅し始める。15人の生徒たちの視線が、まるで無数の針のように彼女を刺していた。
「リュウカ先生の気持ちは嬉しいですが、お断りします」
その瞬間、リュウカ先生の表情が激変した。
「ど、どうして……」
恥辱と怒りと悲しみが入り混じった表情。大勢の生徒たちの前で公開告白を断られた屈辱が、彼女の理性を奪っていく。
「わたくし、こんなに想っているのに……」
彼女の制御していた電撃が、急に暴走を始めた。美しかった光の演出が、破壊的な雷に変わっていく。
「わたくしのどこがいけないと言うのですか〜!」
感情の混乱が魔力の制御を狂わせ、音楽室中に電撃が走り回る。
「そんな……そんなの……」
感情が完全に混乱したリュウカ先生は、もはや魔力を制御できずにいた。
これはマズい!
「サンダー・ラブラブ・フィスト〜!」
技名を叫んだ瞬間――